開かずの間
松田さんの通っていた学校には、抜け道があるという噂があった。
以前その校舎を屋敷として住んでいた人が、いざというときのための地下通路を作っていたという話だ。その入り口が今の校舎内に残っているということだった。
松田さんは、その噂の真偽を確かめたくて、学校の中を満遍なく見て回り、聞き込みもした。そして、怪しい、と思ったのが「開かずの間」だ。一階廊下、校長室と事務室の向こうのつきあたりである。
その部屋のことは、先生の誰に聞いても「何の部屋か知らない」「入ったことがない」と言うばかりだった。廊下側には窓もなく、外の窓にはカーテンがぴっちり閉められていて、とにかく暗い一角だった。
当然、鍵がかかっている。用務員室や職員室の鍵置き場もこっそり見てみた。だが合致しそうなものはない。古めの鍵だったから、針金であかないか、とチャレンジした。が、もたついているうちに見つかって、たっぷり説教されるはめになった。
そこで、部活の夏の校内合宿のときが、いいチャンスだと狙いをつけていた。
校内合宿の中ごろのある日、夕食もすんでミーティングして、九時頃になったろうか。マネージャーの松田さんはその日の報告や翌日の打ち合わせの為に職員室に行った。
職員室は真っ暗で先生がいない。松田さんは、待つ気持ちがおきなくて、皆のところへ帰ることにした。
通りがかりに「開かずの間」の方を見た。何故か、
(今は行っちゃいけないんじゃないか)
と思ったのだが、その思いとは裏腹に吸い寄せられるように扉の前に行ってしまった。
そのまま何気なくノブを握ると、普段鍵がかかってるのに、その時は軽くまわった。
不思議だがその時、松田さんは、鍵が開いてるのを変には思わなかったそうだ。
そのまま扉を、ぐぎー、ぎ、ぎー、と開けると、2~3歩の遊びがあって、その先に下に降りる階段があった。
(あ、階段だ)
と思ったら、急に動けなくなった。
下り階段の先は二段程度しか見えなかった。その奥に、何かが無数にうごめきはじめている。手のようなものにみえた。二の腕から先みたいなものが、出鱈目にぐにゃぐにゃとうごめいてる。
その上なんとなく距離が近づいてきた。たくさんの手なのに体が無い。
もう少しで闇の中からその手が出てくる。その時に、
「どうした!?」
という先生の声がした。松田さんは我に返った。
「は? ん? あ? あぁ、はい、いえ。」
なんて訳のわからぬ返事をしたら、今度は動けたそうだ。松田さんが後ずさりすると、近づいてた無数の手も徐々に闇の中へ戻りはじめていた。
「こんなところで何やってんだ?」
と、先生が肩に手をかけてくれたら体の力が抜けて、ぎゅっと握っていたドアノブを離すことが出来た。
「開いてたから。」
としか返事できなかったそうだ。
後にも先にも「開かずの間」が開いていたのはその時だけ。松田さんが卒業してから月日も流れ、校舎も新築されてしまった。
抜け道を確認するすべもなくなってしまった、と、松田さんは残念そうに話した。
【完】
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ご購入ありがとうございます!
せっかくご購入いただいたのですが、続きが何もなくてすみません。
この作品は、2006年の「超-1」と言うコンテストに応募したものです。ブログに公開されて批評される形式のものだったんですが、ブログは残っているのですけれど、作品は削除されていました。
応募規定に、「著作権は著者にある」と書かれているし、もうブログにも載っていないのなら、自分の手元に戻してもいいのかなぁ、と、思い、noteに上げさせていただきました。
以上で、あとがきに代えさせていただきます。ご購入ありがとうございました。
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