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詩の体裁

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詩の体裁を意識して書いた文章
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#日常

てのひらに 名前なきまま

気になるバンドを高円寺まで なじみのない道を 知った顔で歩いていく 通りすぎたり 止まっている人たち 多くもなく 少なくもない 生活の営みが見えるほど だれかとの距離は近くもないのに ライブハウスの暗がりには 見たら思い出した顔 めんどうなわけではない 嫌いになったわけではない いまの気分の動きを求めていない ストーリーやルールに入ってこない それだけのこと ベーシストの足もとに ペットボトル置くのが合図 ひかり落とされライブは始まる バンドとステージと僕 目に

夜の四隅

名もない料理屋を出て ベッドタウンのアップダウン 行きは下りが多かったから これから上りが多いのだろう 当たり前のこと 緩い坂をこぎ続けて右にカーブすると どこまで続くか分からない下り坂が出てきて 少し涼しくなっている風 切りすぎないように ときどきブレーキかけながら ここはどこの駅が近いのか どこからも近くないのか あたりは見ごたえのない団地 小さな居酒屋の集落がときどき現れて 現れて消え 現れては消えても まだ下り坂が続いている やっと坂を下りきった後の 小

国道とレイドバック

昼間の蒸し暑さに 暗がりが薄い蓋をしてくれている 歩いて帰ろうか 駐輪場に延泊させたまま あしたの昼は もやに溶けてみてもいいしな 少し大きい鞄を 右手と左手に持ち替えながら 骨盤が歪まないように 背中は丸まらないように まっすぐ歩いているぜっていう 自覚があると とても気持ちがいいんだよ 雨上がりのつかめない雲 輝いた気がして 気圧の奥底で叫ぶ声 いまどき聞きたくなって 指先の慣れた摩擦係数 耳をすませば 夜の9時半 気まぐれに 季節もレイドバックしている