植物人間

市立プリンセサ病院の331号室の窓から見えるのは、煉瓦造りの壁に囲まれた、暗い
一角。 壁には無数の窓が並び、半数程は、
日除けの灰色のブラインドウが、下ろされている。
僅かに覗く青空には、初夏の訪れを予感させる白い雲が、一片こちらの様子を窺っているようだ。
白く塗られた天井に壁。
部屋の真ん中には、仕切り用の日焼けして、少し色褪せたサーモンピンクのカーテン。
カーテン越しにアントニオの咳き込む音が聞こえる。
彼は、吐血して、ここに。わたしは、下血して、救急車で運ばれたのち、今ここにいる。

わたしの母は、脳溢血で倒れ、その後、約2年半、昏睡状態が続き、二度と意識を取り戻すことなく、亡くなった。

今、こうして、点滴のチューブに繋がれ、
一滴、一滴落ちていくその小さな滴をじっと見つめていて、思わずハッとする。
それは、まるであのときの母の涙
そう、意識のないはずの母が涙を流すのを
見て思わず、病床の母に覆い被さるようにして
お母ちゃん!
と大声で叫んだ。
きっと、わたしの声を、聞いてくれていたに違いない。
その思いは、今も変わらない。

身動きも取れず、水一口さえ、口に出来ないわたしの命を
今、この雫が繋いでいてくれている。


なんと、ありがたいことでしょう。あなたの、優しいお心に感謝