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ヘルパンギーナ

「息子がね、夏の洗礼ヘルパンギーナになったんですよ」

いつもの様に軽やかに私の髪を切りながら
彼女は笑いながら話を続けた。

「今年はみんないろんな病気フルコンボでもらうよねー
 私が行ってる保育園でも何かしらの病気が流行ってる」

最初はホットペッパーで
たまたまその日空いていて
とりあえず切ってもらえたらいいと思って入った美容院。

彼女の切る腕前がとてもよく
かれこれ2年通っている。

彼女はカットしながら話も続けた。

「そうでしょー?RSもやったし、アデノももらった」

「仕方ないよねー。
 えらかったやろ?ヘルパンギーナ」

「ええー、もう。
 あの日は午前中、庭で自転車で遊んでて

 いつもは呼んでも入ってこないのに
 『ママー疲れたー』なんていうから
 
 熱中症なんじゃないの?っておでこに手を当てたら
 もう既に熱くてー」

「まぁ、熱中症かと思うわなぁ」

「そうでしょ?ほんで熱測ったら38度あって。
 元気だったけど
 世が世なので、小児科行ったんですわ」

「世が世やでな」

「ほしたら、ヘルパンギーナって言われて
 薬もらって 
 家帰って寝てたんです。私も。

 そしたらね

 なんか暑いなぁって起きて
 いよいよ私もうつったのかと思って
 熱測っても私は無くて」

「どしたん?熱中症?」


「ちゃいますの。


 道向かいの家が火事やったんです」

「は?はぁ?!マジで?」

マジで。目の前消防車と救急車。
 家の人は助かったみたいなんですけど

 家事の影響で停電して
 うちのエアコン切れてて

 ほんで暑かったんですわ

「ほんでどうしたん?」

「ヘルパンボーイ抱えて 
 冷蔵庫の中身をクーラーボックスに詰めて
 実家に行きましたわ」

「ヘルパンの思い出濃くない?」

「歴史に残るヘルパンでしたわ
 あ、じゃぁシャンプーしましょか」

今日も彼女のカットの腕はとても良く
髪は軽くなり
トリートメントでツヤツヤになった。

2ヶ月後に予約を入れて
帰ってきた。
そんな日の話。

 

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