見出し画像

失敗作? 挑戦作?……ちゃんと聴こうぜ! ハロウィンの『カメレオン』


 さてさて。
 以前、駄作とされるドアーズの『ソフト・パレード』を「何言ってんだよ! いい作品じゃないか!」と擁護したわけだけども。擁護というか個人的な情熱で筆を連ねただけ、ですが。
 同じように、世間的には駄作だの失敗作だの問題作だの、良い言い方に変換して挑戦作だのと言われて評価が低く、しかし僕は大好きなアルバムがある。
 それはドイツのヘヴィ・メタル・バンド、ハロウィンの『カメレオン』。どうだメタル畑の人たち、まいったか。呆れただろう?(わはははは)

 このアルバムは、端的に言えば「メタル・バンドがメタルじゃないアルバムを出した」という理由で、とてつもなく低い評価に甘んじている。言うなればプログレ・バンドがポップス寄りになって総スカンを食らったようなものだ。
 でもね、はっきり言っちゃうよ。
 このアルバムをダメだカスだと言う人は「メタルしか聴いていない人」でしょ。他のフィールドへの興味や許容があれば、そこまでクソミソに言わないと思うのだよ。あるいは「ハロウィンはメタル・バンドでなくてはいけない」という固定観念に縛られているとも言える。もっと言えば「メタル・バンドは一生メタル」と強要しているも同然だ。
 なので、本作の一般的な評価は「ハロウィンにメタルを期待して裏切られた」ということなのでしょうけど……そもさん、メタル・バンドはメタル作品しか出してはいけないのだろうか?
 まぁわかりますよ。予定調和こそメタル。いやメタルに限らず、プログレだってジャズだってブルースだって何でもかんでも、基本的には「その枠内」での表現を望まれてしまう。
 だから本作は、むしろメタル・ファンやハロウィン・ファンではない人にこそ、聴いてみてほしい。なんと僕はこのアルバムが「はじめてのハロウィン」だった。そこから逆算的に『守護神伝』や『ジェリコ』が聴けたのだから、わかる人は笑ってくれぃ。

 さて。
 長くなるので詳しくハロウィンについて詳しく触れたりはしないが(すんませんね毎度ファン向けの内容で)、サラッとこのアルバムが発売された頃の状況をば。
 プロデューサーは『守護神伝 パート1&2』でバンドをスターダムにのし上げることに成功したトミー・ハンセン。それに続いたアルバム『ピンク・バブルズ・ゴー・エイプ』がトラブルや作品のクオリティなどから不発だっただけに、バンドは「仕切り直し」として彼を再度プロデューサーに迎えたのかもしれない。ファンも「あの興奮をもう一度!」と歓喜して待っていたことだろう。
 しかしリリースされた『カメレオン』は、ヘヴィ・メタルというよりロックンロールのアルバムになっていた。しかもバンド・サウンドだけではなく、大々的にホーン・セクションやストリングスが参加。「勢い不足をブラスでごまかす」のは最初に名前を挙げたドアーズの『ソフト・パレード』と同じ魂胆である。
 こうした一連の流れも、すべて悪い作用となった。プロデューサーのトミー・ハンセンも「精一杯いいサウンドにしたつもりだけど、君たちは、このアルバムは発表しないほうがいい」みたいなことを言ったとか。
 結果としてこのアルバムの方向性を強く主張したヴォーカルのマイケル・キスクは脱退というか追放。その時のケンカで殴られてアゴが割れてケツアゴになったのは有名な話(←大嘘です)。ドラマーのインゴ・シュヴィヒテンバーグもノイローゼとドラッグ過多により解雇。アルバムも売れず、早くもハロウィンは過去のバンドとなりつつあった。現にこの時点でハロウィン・ファンをやめた人も多い。
 その後、バンドの実質的な「支配人」となったギタリストのマイケル・ヴァイカート(ヴァイキー)が、アンディ・デリスをヴォーカルに迎えてメタル回帰。華々しくシーンにカムバックするわけだが……本作はそうして、お払い箱となったキスクを追い出す「要因」として、不名誉にディスコグラフィを飾っている。

 このアルバムは「マイケル・キスクのソロ同然」と揶揄されるが、果たしてそうだろうか?
 僕のある知人は「あのアルバムはローランドの作品だ」とも言い切っていた。たしかにローランドの力が強くなった部分はあるものの、それもいかがなものだろうか?
 作曲のバランスから言うと、実はキスク、ローランド、ヴァイキーの3人、すべて「4曲ずつ」作曲しているのだ。何とハロウィンに珍しき民主主義!
 ファンが「キスクの作品」と言うのは、彼の主導した方向性が強く、結果としてソロ作に似た傾向の作品となったからだろう。また僕の知人が言っていた「ローランドの作品」は、単純にローランドの発言力が強くなっただけで、それがキスクの主張するロックンロール主体の作風にマッチしたに過ぎない。
 そのうえ、あとでこのアルバムについて文句を言いまくっていたヴァイキーも、何だかんだ楽しんでいるようにも感じる。彼のペンによる4曲を集中的に聴けば、このアルバム向けに作曲している余裕さえ感じる……のは僕だけか?
 おそらくだけど、本作が売れていれば各人の言うことも変わっただろう。それは初代リーダーのカイ・ハンセンやキスクも含め、ハロウィン全員の悪い癖でもある。
 たとえば本作で解雇となったキスクは「ハロウィンは今後の可能性を失った」と発言。カイもカイで「守護神は解き放たれた。キスクは自由になった」と助長。そのくせ、ふたりとも仲直りして「パンプキン・ユナイテッド」ではあっさり合流。それこそ、その後解雇となって合流もさせてもらえなかったローランドからすれば「こんにゃろー!」である。
 カイ、キスクと続けて中心人物がいなくなったことで、バンドのスポークスマン(あるいは人事部長)と化したヴァイキーも「失敗作だ」と恨むように言っていた。しかし時間が経つと、自分でもクソミソ言っていた『ピンク・バブルズ・ゴー・エイプ』ともども「大切な一過程だ」みたいなことを言い出し、本当にこのバンドは……まぁそんなもんか、合理主義・ご都合主義のドイツ人だし(←偏見)。

 ということで。
 このアルバム、世間の評を修正してみるよ。
「キスク主導により、ヘヴィ・メタル以外の豊富な音楽性と可能性を探った実験作。新加入ゆえに遠慮がちだったローランドの個性を引き出し、メタルに限らない枠でも優秀な作曲ができるヴァイキーの才能も光る。その後のヘヴィ・メタル回帰に向けての転換点となった重要作」
……こんな書き方で、どうでしょうか。

 さてさて。
 もはやオマケみたいになっちゃうけど、収録曲を見ていこう。
 ついでと言っては難だけど、シングルのカップリング曲などをコンパイルした再発盤「エクスパンディッド・エディション」のボーナス・ディスク収録曲も書き出しておくよ。


01 ファースト・タイム (First Time)
(作詞・作曲:Michael Weikath)
 ノイズからドラムの乱れ打ちになり、そして一気に空気を裂くギターから始まる極上のハード・ロック。「『カメレオン』は嫌いだけどこの曲は好き」という人も少なくない。その後、キスクがソロに転じたことからも「キスクのソロに似ている」などと言われるが、ところがどっこい、作曲者はヴァイキー。だからきっとヴァイキーもこのロックンロール路線は嫌いじゃなかったんだよきっと。
 ファンからの評判はとてもよく、のちにバンドも再評価したのか、ベスト盤『スウィート・シダクションズ』にはシングル曲を蹴ってでも収録された。

02 ホェン・ザ・シナー (When the Sinner)
(作詞・作曲:Michael Kiske)
 ほぼメドレー状態で続く、グルーヴ感の強い先行シングル曲。シングルを先に買った人は、ブラス隊が入って「えっ? これがハロウィン?」と思ったことでしょう。ふふ。
 すでにメタルではなく、ノリのいいグルーヴで埋め尽くされ、ツーバスが武器だったインゴはどこにいったの? という曲。最後のキスクによるハイトーン・ヴォイスは史上最長! そこからエンディングがシングルでは早めのファイド・アウト処理が施されているが、アルバムでは次曲へクロス・フェイドしてのメドレー展開になっている。

03 アイ・ドント・ウォナ・クライ・ノー・モア (I Don't Wanna Cry No More)
(作詞・作曲:Roland Grapow)
 カントリー調の、それこそ「ローランドらしい」佳曲。ハロウィンという概念を切り捨てれば、いやむしろローランドが好きなグランド・ファンク・レイルロードの楽曲だとでも思えば、とてもいい楽曲。シンセ音が強いのは時代の流れか、ローランドの作曲能力を補っているのか(言っちゃった、笑)。
 のちに、アルバムからのシングル・カット曲になった。なのに、シングルでも冒頭に「……ファッ」というホーンが残り、前曲「ホェン・ザ・シナー」のメドレーだった名残がそのまんま。悔しいので僕は独自に編集して消しました(笑)。
 しかし「もう泣かないよ」という曲を収録したアルバムで、ドラマーのインゴが音楽界ならびにこの世から姿を消してしまうのは何と皮肉な……。

04 クレイジー・キャット (Crazy Cat)
(作詞・作曲:Roland Grapow)
 ブラス隊全開のイントロ部分はたしか、所ジョージ司会TV番組のジングルにもなった。ということからも察することができるが、まぁ実にノリのいい曲。ヴァイキーが「ファースト・タイム」なら、この曲はローランドのロックンロール路線を代表するような曲。最後にハロウィンらしいコミカルなギミックも入っている。
 流出しているライヴ・テイクはブラスがないので力不足なのも、この時期の本当の姿を表しているように感じる。

05 ジャイアンツ (Giants)
(作詞・作曲:Michael Weikath)
 一気にシリアスな雰囲気になり、重くスローなギター・リフが全編的に響く。シンセが加わって迫力のある展開部が印象的で、やがて虚無的に終わっていく。ミディアム・ロックとして充分な魅力を持っている。ドアの開閉する効果音で次曲へメドレー展開する。
 なお、本作で唯一、キスク脱退後ハロウィンのライヴでも演奏された曲。

06 ウィンドミル (Windmill)
(作詞・作曲:Michael Weikath)
 ドアの開閉音に重なるピアノから始まる、ミディアム・バラード。美メロの宝庫のような楽曲で、ヴォーカル、ギター、ピアノに至るまで美しい。はっきり言ってそれまでのハロウィンとは完全に別物だが、これはアンディ時代のパワー・バラードと並んでも比肩できる楽曲だと感じる。
 デモ・テイクものちに収録されるほどメンバーからの評判もよく、日本以外ではシングル・カットされた。

07 レヴォリューション・ナウ (Revolution Now)
(作詞・作曲:Michael Weikath)
 また半メドレー的に展開し、ノイズから始まる。ミディアム・ハードな楽曲で効果音もあって迫力があるものの、はっきり言ってミディアム・ナンバーの連続で飽きる(笑)。

08 イン・ザ・ナイト (In The Night)
(作詞・作曲:Michael Kiske)
 そのまま、またもミディアムな楽曲。しかも地味なベースから始まってアコースティック主体、軽快なロックだけど「つなぎ曲」でしかない。キスクのソロにありがちな「冗長さ」は、ここから始まっていたのだな。はっきり言って単曲では最も魅力が乏しい。

09 ミュージック (Music)
(作詞・作曲:Roland Grapow)
 まだ続いていた、ミディアム・ハード。初めてこのアルバムを聴いた人が困惑するのは、ここまでの「ミディアム地獄」なんだな。せめて曲順が違っていればねぇ……。
 それにしてもローランドの曲にはシンセの音色が多い。やっぱり曲に隙間があるからで、次作からローランドの作曲した曲が減っていくのは、彼の書く曲がつまんないからなんだと腑に落ちた(笑)

10 ステップ・アウト・オブ・ヘル (Step Out of Hell)
(作詞・作曲:Roland Grapow)
 産業ロックのごとき軽快なシンセ・インストから始まり、軽快なロックンロールへ。とにかく軽快で口ずさみやすく、サビにCメロにという展開も楽しい。ローランドのセンスがいい方に活きた曲なので、メタルに縛られなければクセになるはず。
 日本のみ「ウィンドミル」の代わりにシングル・カットされた。なぜ日本だけ。洋楽バンドのバラード売れなかったんだよね、日本。

11 アイ・ビリーヴ (I Believe)
(作詞・作曲:Michael Kiske)
 キスクは日本語ライナーに和訳が載ったインタヴューで「『守護神伝』のような壮大さがある曲だよ」と朗々と語り、ファンから「あの名曲をこんな曲と一緒にするな!」と反感を買っていた。
 つまり、そんな曲で「雰囲気一発」。壮大な感じでミディアムに、迫力あってちょっと長く。シンセや効果音も多く、ハロウィンというかキスクが「『守護神伝』の怨霊」に足掻いていたのが感じられる。そうか本作にミディアムが多いのは『守護神伝』を意識せざるを得なかったからで、作風を変えたのも『守護神伝』を越えようとしたからなのだな。1,000マイル譲っても成功したとはお世辞にも言えないけど。

12 ロンギング (Longing)
(作詞・作曲:Michael Kiske)
 最終曲はフォーキーなアコギにストリングスが乗る「ほぼキスク」な曲。いろんなバンドのヴォーカルがやりがちな「主役は俺だバラード」だが、キスクはこの曲をもって解雇となったのが他のバンドとの違い。
 寂寥感に包まれて終わるのが、このアルバムらしいというか何と言うか。そのままバンドが消えていってしまいそうな淋しさがある。


 本編は以上。これだけでも「ダルくて冗長」というのがおわかりでしょうか。
 それが「速さと重さが命のメタル」にとっては致命的で、決定的にバンドの評価が急落したわけだ。
 でもそれもできるプロデューサーのトミー・ハンセンって、実はすごくないか? そのうえアンディが加入してからメタル復帰した名作『マスター・オブ・ザ・リングス』『タイム・オブ・ジ・オウス』もプロデュースしてるのだから、『ピンク・バブルズ・ゴー・エイプ』で失敗したクリス・タンガリーディスと違い、バンドの信頼は徹底的に厚い。
 だから決して、プロデュース的にも失敗したわけではないのだよ! 多少こじつけっぽいけども。

 以下は、再発に際して2枚組仕様となった「エクスパンディッド・エディション」収録曲。
「ウィンドミル」のデモ以外はシングルのカップリング曲で、アルバム以上に中途半端(笑)。
 バンドがキスク主導のもとロックンロール路線を選んだのはいいが、メタル・バンドゆえにちぐはぐで、うまくいかないドキュメントみたいなものだと思えば面白い。
 特にロックンロール志向の「ゲット・ミー・アウト・オブ・ヒア」「エイント・ゴット・ナッシング・ベター」はこの時期ならではだし、カップリング曲の中でも秀逸な「カット・イン・ザ・ミドル」などはベーシストの「常に完璧な外野」マーカス・グロスコフならではの作曲センス。また10分を越えるインスト曲「レッド・ソックス・アンド・ザ・スメル・オブ・トゥリーズ」なんかは、当時のバンドのモチベーション降下が目に見えるようなダルさが逆に魅力。
 これらすべて「あのハロウィンが世に出した」と思うと、ものすごく価値のあるドキュメントだと思うのだけれども。どうでしょうか。あわせて聴くと、まとめてこの時期のハロウィンが好きになると思うぞ。
 あっ、楽曲のデキはどれもイマイチですけどね(←言っちゃった)。


エクスパンディッド・エディション ボーナス・ディスク

01 アイ・ドント・ケア、ユー・ドント・ケア (I Don't Care, You Don't Care)
(作詞・作曲:Michael Weikath)

02 オリエンタル・ジャーニー (Oriental Journey)
(作詞・作曲:Roland Grapow)

03 カット・イン・ザ・ミドル (Cut in the Middle)
(作詞・作曲:Markus Grosskopf)

04 イントロダクション (Introduction)
(作詞・作曲:Michael Weikath)

05 ゲット・ミー・アウト・オブ・ヒア (Get Me out of Here)
(作詞・作曲:Michael Weikath)

06 レッド・ソックス・アンド・ザ・スメル・オブ・トゥリーズ (Red Socks and the Smell of Trees)
(作曲:Helloween)

07 エイント・ゴット・ナッシング・ベター (Ain't Got Nothing Better)
(作詞・作曲:Markus Grosskopf)

08 ウィンドミル(未発表デモ)(Windmill - Demo Version)
(作詞・作曲:Michael Weikath)


……さて。
 これで多少は、このアルバムに興味を持っていただけたでしょうか。
 再び世間評価の修正を、以下に記そう。さらに修正を加えながら。

「本作は、バンドにヘヴィ・メタル以外のアプローチも可能であることを示すべく、キスク主導により、ヘヴィ・メタル以外の豊富な音楽性と可能性を探った実験作。新加入ゆえに遠慮がちだったローランドの個性を引き出し、以後のリード・ギタリストとしての能力を開花させた。メタルに限らない枠でも優秀な作曲ができるヴァイキーの才能も光り、ベーシストのマーカスとともに音楽的ボトム部分が厚いことを見せている。残念ながらドラマーのインゴ人生の最終作となってしまうが、ここでバンドが分裂したことで、ハロウィンは次のステップに進むことができた。またキスクの解雇につながるほどの話題を呼んだ本作がなければ、アンディ加入後からのメタル回帰もなく、バンドはゆっくりと崩壊への道を辿っていたに違いない。もちろん、キスクが復帰することもなかっただろう。その後のヘヴィ・メタル回帰に向けての転換点となった重要作にして、ファンであればこそ、愛すべき作品である。さらに言えば、音楽性が豊富なアンディを活かすための、バンドの大きなステップとなったことも見逃せない。そのため今後のハロウィンは曲によってはメタル一辺倒ではないバンドに変化してゆく」

……もはや「メタル信者」の支持はいらない。
「ハロウィン・ファン」に聴き直してほしいんだ。本作を。
 何と言うか――憎めない。
 デキはよくないけど愛想のある甥っ子のように、ついつい手をかけたくなる、憎めない作品なのだから。

 たまに、でいい。聴き直してみてくれないか。
 以上は、ヘヴィ・メタルはハロウィンぐらいしか聴かない、メタル・ファンではないハロウィン・ファンとしてのお願いである。

 いやそれにしても「ユナイテッド」よかった! もしまた来日したら、ぜひ見にいきたい。
 そしてアルバムが楽しみだ! 守護神バンザイ!!(←結局自分もご都合主義)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?