オーセンティック・コンテクスト・ブロークン(ネオ・ラウフについてのレビュー)

このテキストを初めて書いたのは恐らく2012年だと思われます。

ただし、原文は恐ろしく改行がなく、死ぬほど冗長だったので、注釈と改行を入れて再構成しています。(なお、私の文章にもともと改行が少なかったのは、西洋の文献がそうだったからです。西洋かぶれなんでね・・)

ネオ・ラウフがどういう人間かについては、Wikidediaで参照してください、こちらでは語っていません。

コンテクスト・解体・マッシュアップ

ネオ・ラウフの作品を見てまず思うことは、モダンだけれどラフ、古典的だけれど現代的・・例えるなら、セザンヌのような荒々しい具象画でありながら、ダリのようにシュールレアリズム的でもあるし、もっと以前の中世の宗教画のようにも見える、という混乱ではないだろうか。

スクリーンショット 2019-10-27 0.10.40

私がネオ・ラウフの作品を見てまず思ったことは、所謂「古典的な」技法と現代アート的なモダンな技法(ラフな筆後など)を一つの画面の中に混在させることによる独特のリズム感と、

かつパースを持ったモチーフをパソコンのイラストソフトにおけるレイヤーのように複数、カット&ペーストするといったDJ的な所作に彼のモダンさがあるのではないかということだった。

そしてこのような(大澤真幸のいうところの”第三の審級”的な)解体の構造はいかにもポストモダン的というか、時代的なものの影響を強く受けているのではないかという気がした。

彼の絵画においてカット&ペースト的に複数のテーマの異なるモチーフを画面に入れていく手法を「混在」と表現したのは、それが所謂コラージュ的なものではなく、画面になじむように、(表現としての違和感はあれど)空間的な違和感を一見して感じないように配置されているように見えたからである。

この世界におけるあらゆる事象を一度、「オン」にする(ファイヤアーベント的な”anything goes!”)ことからそれらの事象の再検討をするという思考がポストモダンの思想家によく見られると思うが、

俗物的なモチーフや、中流階級的な人間の習慣の羅列、それから彼が影響を受けたかもしれないビーダーマイヤーという様式ーこれは19世紀のドイツに起こった様式で、貴族的なフォーマルなものの批判という意識を強く持ったものだったーこのようなある任意のベクトルを持った考え方をちりばめることによって、画面は「寧ろ」、(それぞれのモチーフは主張を失って、)スタティックになっている。

欺瞞・コンテクスト・カット&ペースト

異なる文脈(あるいはナラティヴ)を持ったモチーフをちりばめる彼の作品においてこのような空間的な歪みは、鑑賞者の目線を誘導して、じわじわと受け手が感じられるように仕掛けられているのではないだろうかと思う。

そもそも遠近法および透視図法的な絵画の技法が理論化されたのは15世紀のイタリア人建築家、ブルネムスキアルベルティによる(消失点)ものだそうだが、遠近法とはそもそも”見たものをありのままに描写する”ことに特化しそれを意識的に行うために研究されていった側面があるという。

(反して遠近法をやや欺瞞的に説いたのはボリス・ウスペンスキーで、彼は”どのようなものでも、遠近法は任意の事象の翻訳にもとづくシステムである”と言ったことも留意しておかなければならない。)

そうした側面からすると、空間的な描写に加速遠近法を用いたネオ・ラウフの絵画には所謂「リアリティ」がないが、社会主義的な割と(その当時の)「現代」社会に即したモチーフを扱いながらも、 調べるとなるほど、彼の作品のほとんどが彼自身の夢の続きのようなものであるという

”For me, painting means the continuation of dreaming by other means.”
私にとっては、ペインティングは異なる手段をとって顕現する夢のようなものです。(意訳)

こうした背景から考察するに、ネオ・ラウフはまず”ペインティングはあくまでペインティングである”といった解釈のもと、自由な空間演出をし、またそうすることによって自身の作品に対する解釈の自由と思想的な深度を深めるといった目的意識があって、解釈に幅を持たせることによってある種の(レヴィナス的な)「真」なるものに近付こうとしていたようにも思える。

つまり彼にとって絵画とは一種の「対話」であり、ユダヤ教のタルムードの研究から異なるふたつのことを言う他者同士の対話から真なるものが生まれるといったレヴィナスの考え方に依拠するならば、だからこそ彼はこのような遠近法および表現を採用しているのではないか、と私は考えた。

彼の作品は決して「現代的」ではないし、オーセンティックではないと思うが、それでも、一枚一枚に絵画という歴史の大きなコンテクストを感じられる、雄大なスケール感と、ともすれば一種のアナクロイズムになりかねない、複雑なリソースの中から参照しまとめ上げることのできる、絶妙なバランス感覚の持ち主だと思う。

もしお気に召しましたらサポートで投げ銭をいただけると大変に嬉しいです。イイねボタンも励みになります。いつもありがとうございます〜。