「FOR REAL」のリアルな感想と、筒香が去るのが「いいタイミングだった」と思いたい理由

新しい1年が始まりました。プロ野球界、プロ野球ファンにとって、1年の始まりといえば2月1日。毎年、待ち遠しいのですが、ちょっとモヤモヤした気持ちを抱えています。それは「FOR REAL」を観たあとから。スッキリとした気持ちで新しいシーズンを迎えるために、なぜモヤモヤしたのか、頭のなかを整理しておきたいと思います。

2019年版も想像通り「筒香の映画」だった

 昨年末、「FOR REAL」の2019年シーズン版を観ました。個人としては4作目の鑑賞となりますが、2018年版でも強く感じていた「筒香の映画だった」という印象を、さらに強く感じた作品でした。2018年シーズン終了後に、筒香がポスティングシステム利用の容認を球団に求めた、という報道もあり、チームにとっても、ファンにとっても、「筒香がいる最後のシーズンかもしれない」空気が漂っていた2019年シーズン。私自身も、両親を初めてキャンプ見学に連れていくにあたり、昨年のいまごろ作成した「旅行のしおり」には、「ベイスターズのユニフォームを着た筒香を目に焼き付ける」と注意書きをしました。そんな背景もあり、作品も、もう堂々と、当然のように、「筒香の映画」でいったという感じ。その制作姿勢に一切の迷いも感じなければ、決意のようなものも感じない。漂う空気通りに制作された、という感じがしました。

負い目からか「筒香が打てば」といえない息苦しさが……

 チームと映画のど真ん中にいる筒香。たしかに横浜“DeNA”ベイスターズが強くなり、人気チームと呼ばれるようになる過程のど真ん中には筒香がいて、筒香というプロ野球選手は、ひいては球団、横浜という街の価値をも高めたと思います。一方で、近年は「強力なキャプテンシー」「存在感の大きさ」「偉大なリーダー」などの言葉とともに語られるようになり、「四番打者としての責任」「年俸と成績のバランス」といった「いちプロ野球選手としての評価」をしにくい雰囲気ではなかったか。それは、「筒香にたくさんのことを背負わせている」という負い目からくるものであって、素直に、ただ感情のままに、「筒香が打てば勝てたじゃん!」と言えない息苦しさが、少なくとも私のなかにはありました。

映画が触れない「筒香の成績」というリアル

 映画でも再三繰り返される「チームが勝つために」という言葉。筒香がその言葉を実践すべく、あらゆる言葉を発し、見せてきた姿勢。それでも、思うようにチームが勝てなかったという事実はたしかにリアル。だけれども、「筒香にたくさんのことを背負わせている」という負い目そのままに、映画はもう1つのリアルである筒香の成績からは焦点をズラした。打率.272、本塁打29、打点79という成績から目を逸らすことは、筒香というプロ野球選手を軽んじることではないか。そこにもう少し触れていたら、私がこんなにも映画を観たあとにモヤモヤすることはなかったと思うのです。もし、それが忖度というものだとしたら、筒香はチームを去るいいタイミングだったし、私たちも筒香を手放してあげるいいタイミングだったのではないでしょうか。

筒香も窮屈さを感じてはいなかっただろうか…

 筒香の存在を大きくすることで、プロ野球界におけるチームの存在感も大きくなっていった。私たちも「大きい筒香」に頼ったし、誇ったし、願いをこめた。筒香自身も「大きな存在であらねば」と気負い、奮い立たせ、強力なリーダーになろうとした面もあったと思う。「いいタイミング」だと思ったのは、そういった大きいモノを脱ぎ捨て、筒香がどこかでシンプルに「プロとして個人の成績についてもっと厳しい目を向けられる」ことを渇望していたのではないか、個人成績の評価がタブー化=神格化されていくことに窮屈さを感じているのではないか、と想像するから。と、ここまでは想像なのですが、レイズの入団会見での筒香のふわっと軽い笑顔は「脱ぎ捨てることができた」ことの表れのような気もしました。そして同時に、背負わせたくなる選手、背負ってくれる選手がいたことを幸せに思ったのでした。

あーだこーだ言って楽しい2020年シーズンを!

 来季、チームは、球団は、ファンは、メディアは、また「背負う選手」を求めることでしょう。でも、忖度が必要になるような、成績に触れられなくなるような、神格化してしまうような背負わせ方はしたくないなー、と個人的には思うのです。というか、私はプロ野球ファンとして(勝手に自制していただけなのですが)「もうそろそろ個人の成績についてもあーだこーだ言いたい!!」。それだけなのです。
 2020年シーズン版「FOR REAL」があるとしたら、「FOR REAL」という作品自身も「筒香」という大きなモノを下ろし、新たな「FOR REAL」を見せてくれることでしょう。さぁ、もうすぐシーズンイン。どんなシーズンになるのか、どの選手がチームを引っ張るのか、どんな選手が出てくるのか、あの選手の復活はあるのか。筒香が去ってもチームはある。そこにある。幸せなことですよね。

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