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Kクラブからのスカウト

さて、ソフトボールの準優勝に沸き、ほぼ我が町内チームの貸し切りと化した食堂で、ある人物が私に声をかけてきた。ソフトボールチームの監督を務めた男性だ。その男性はカワムラといい、その日の私のプレーをひとしきりベタ褒めしたあげく、Kクラブに入らないかとスカウトしてきた。Kクラブ。そう、それは私が3年生のときに退団した学童野球チームである。
カワムラはKクラブのコーチをしており、彼の息子もKクラブの6年生で、この町内ソフトボールにも出場していた。カワムラは私に退団歴があることは知らないようで、君はすごくセンスがいいだの、すぐにレギュラーになれるだの、スカウトの常套句を巧みに浴びせ、私の自尊心をくすぐってみせた。私は3年時に一度退団していることがひっかかり、即答は避け、その場はお開きとなった。
その後もカワムラからは定期的にスカウトの電話があり、私はその都度態度をはぐらかしていたが、いよいよ「そんなに待たせては気の毒」と母から決断するよう迫られたため、やはり退団の件を引きずったままで入団できないので、丁重にお断りした。ただ、退団歴については最後まで隠し通した。一度辞めた人間は信用されないと思っていたからだ。しかし、カワムラから誘われたということには、ある意味勲章のようなものをもらった気持ちになった。
ちなみに私を野球の世界に導いたマナブは5年生でのクラス替えでも同じクラスには配置されず、ほぼ交友関係はなくなっていた。彼は5年生にあがったタイミングでKクラブに入団し、6年生になる頃にはチームのエースになっていた。そのことを私は全く知らずに小学校の毎日を謳歌していた。

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