セカンドは名手のポジション

セカンド。強烈に憧れたポジションである。なんといっても推しとも言っていいドカベンの殿馬が守っていたポジションだ。殿馬というのは作中でとんでもなく守備が巧い選手だった。だからセカンドは、名手が守るポジションというイメージを持っていた。そんなところへ学童野球をろくにやっていない私がノックに入るのだから、とにかく地に足がついていない状況だった。
加えてシートノックの特性も私を緊張させた。シートノックというのは流れが大事だからだ。何度も何度もポロポロしていたら流れが止まる。ノックの打ち手の手も止まる。挙句の果てに怒り出す。最終的には連帯責任で無駄な罰走などが課せられたりする厄介なものだ。メンバーに選ばれたいという気持ちとノックは受けたくないという気持ちが半々、いや受けたくない気持ちの方がずっと強かったのは事実だ。
なので、とにかくノックは先に受けるレギュラーの所作を真似することに徹した。ボールバック、ボールファースト、ゲッツーの守備位置、ベースの入り方、外野からのカットなど、学童を経由していれば恐らくなんでもないような動きが、ほとんど未経験者の私にはとんでもなく難しいものだった。ただボールを捕って投げるだけが守備ではないというのを痛いほど感じながらも、とにかく練習はサボらずやった。
そしてある日の練習試合に向かうバスのなか、最前列に座る監督が前を見ながらボソッと言った。
「トヲル、今日はデビューだな」
13年生きてきた中でいちばんの緊張が走った。

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