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理想と現実から考える課題

こんにちは。

最近家具を造っているのですが、どのような家具が便利で使ってもらえるかを考えるにあたり、いくつか気付かされたことがあります。
建築において家具を造るというとフルオーダーの造作家具です。
その用途・仕様は各々案件によって異なりますが、置き家具だったり据付家具だったりします。
またフルオーダーのため、寸法は毎回異なり仕上げの仕様も毎回異なります。
ただし、そうはいっても人間が使う道具であるため極端な寸法や仕様というわけでもなく、そのためある程度確立された造り方はあります。
どのように造れば耐久性が確保され、効率良く製作が可能かは長い歴史の中で徐々に構築されていきました。
今では各種類の家具に対して、このように造るのが普通であると言えるほどそれぞれ定番の造り方があり、それの組合せを変えることで造作家具とされています。

昨今、格安の量産家具を手に入れることは容易であるため、造作家具屋は数を明らかに減らしています。
そもそも建築関連の人手不足もあり、事業を継続することも容易ではありません。
そんな状況でも造作家具を選んでもらえた家具屋からすれば、一点ずつ製作する家具が長く利用できる良いものを提供したいと考えるのはごく自然なことです。
しかし、アンティーク家具で使用されているような無垢材やその他の高級な素材を使用していない家具であった際には、実際どの程度の期間利用されるのでしょうか。
ずっと使えると、ずっと使われるでは大きく意味が異なってきます。
家具屋の立場からすれば、ずっと使える家具を提供することが良い仕事と言えるかもしれませんが、ずっと使われることを目指すことも必要なのではないかと私は感じます。
利用者の立場から考えれば、高級な材料を使用していて高額な家具であれば、ずっと使いたいと考える方も多くなるでしょう。
しかし、そうでなければ状況に応じて更新や場合によっては破棄を検討することも十分にあり得ます。

平成27年の古いアンケートではありますが、前年に使わなくなったものとして、書籍・衣類に続いて家具が挙げられています。
また、その内60%以上がそのまま家で眠っているとの内容でした。
さらに、処分方法としても家具においては不用品回収(約18%)とゴミ処分(約33%)を合わせれば、過半数になります。
今ではフリマアプリサービスが充実した背景もあるので数字の変化はあるとは思いますが、おそらく大きな変化は見られないのではないかと想像します。
この背景を考えると、造作家具はもちろん、家具全般にお金をかけたくなく、処分することへの抵抗感を減らしたいと考えることはごくごく普通だと思えます。

一方で私の体験談ではありますが、すでに住まわれている既存の物件に対して造作家具設置をした結果、生活がかなり改善されたという声はいくつもあります。
住む前の家での生活スタイルというのは想像は出来ても現実は異なることが多々あります。
しかし、いざ住み始めるとあれが足りない、これが足りないというのを具体的に想像出来るようになります。
生活環境が目まぐるしく変化する可能性がある現代であると、とりあえず環境を整え、生活が変化したら都度環境も整え直すのが多数の考えとなりますが、バッチリ個別の事情に対応出来る量産家具を見つけ出すのは至難の業です。
それに対応するための造作家具ですが、いつ破棄することになるかわからないものにはお金をかけられないというジレンマがあります。

良いものは造れるが長く使われる環境がない限り、造作家具という選択肢を積極的に採用出来ないでしょう。
そうなると、最大の問題はやはり長く使われる環境だと気が付きました。
製作中の家具は、機能的に関しては至って普通です。
しかし生活が変化する時や、した後も使うことが出来るためのデザインであることが目標です。
個別生産となるため、大量生産のようなコストパフォーマンスには到底及びませんが、個別の事情になるべく寄り添え、カスタマイズ出来ることを限定してセミオーダーくらいに留めることで、コストや生産効率もある程度維持することが出来ます。
また、在庫を抱えないことからランニングリスクもなく、廃棄の軽減から環境配慮にも期待出来ます。
人によって家具を選ぶ基準というのはまちまちですが、破棄したいと考えて購入される方はおそらくいないでしょう。
現実的に破棄する必要がない、もしくは更新することで破棄するものが一部で留まるということを理由に家具を選ぶという選択肢が増えることは良いことだと感じています。
誰にでも理想的なものであることは不可能ですが、誰かにとっての役に立つものを無理なく提供する手段を構築出来るよう努めています。

またサンプルを製作していますが、近々リリース出来そうですので、また進捗があればご報告させて頂きたいと思います。

では、また。

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