見出し画像

独裁国家に対する民衆の蜂起:バングラディシュの現在・過去・未来

原文:https://www.iclcit.org/peoples-uprising-against-an-autocratic-state-the-present-past-and-future-of-bangladesh/
原文掲載日:2024年7月28日
著者:アナキスト゠グループ「アウラジ(Auraj)」のメンバー

この声明を書いている今、バングラディシュで現在進行中の学生抗議行動に参加した同志達のほとんどがどこにいるのか分からない。私に分かっているのは、彼等が街頭で、警察に対して、独裁政党のファシスト暴力団に対して反撃しようとしていたことだけだ。国家が命じた5日間の全国規模のインターネット遮断の後、インターネット゠アクセスが回復したのはバングラディシュの一部地域の人々だけであり、海外から故郷の人々と連絡を取るのは難しい。新しい画像やニュースによって、警察が丸腰の人を拷問して殺害するという前代未聞の暴力が明らかになるにつれ、私は苦悩と怒りの感情を経験している。私は故郷の同志達について考える。しかし、それは彼等だけでなく、国全体について考えるのである。私が唯一知っているのは、同志達は何千人もの人々が参加した抵抗運動の一員であり、民衆がファシスト独裁国家に抵抗し、少なくとも197人が殺され、数百人が拘留され、数千人が負傷して病院に収容されていることだけだ。

全ての始まりは、学生と政府機関への求職者がクォータ制の改革を求めた平和的抗議行動だった。バングラディシュのクォータ制度は、1971年のパキスタンに対する解放戦争に参加したフリーダムファイターの子孫に雇用の30%を確保している。この30%枠のせいで、ほとんどの一般人には政府の職を手に入れる機会がほとんどない。失業問題と近年の経済危機により、政府関連の仕事は競争が激しくなっており、大半の人々は30%の枠は差別的で不公平だと考えている。与党はクォータ制をフリーダムファイターの家族に敬意を示す一つの方法だと述べているが、実際は、官僚機構に従順な人々を集めるために利用しているのだ。

第一に、パキスタンに対する1971年のバングラディシュ解放戦争は民衆の戦争だった。あらゆる階層の人々が様々手段を使ってフリーダムファイターを助けた。第二に、労働者階級に属する貧しいフリーダムファイターの多くが、フリーダムファイターだと示す証明書を管理できなかった。第三に、与党がフリーダムファイターの証明書を発行する際に汚職と縁故主義があったとされている。従って、この30%枠によって政府はその権力を強化できるようになるのである。さらに、政府関係職の30%をフリーダムファイターの第三世代(人口の5%未満)に確保するなど、平等・自由・正義という解放精神の中心的エートスに反している。アナキストとして、私達は学生達の正当な要求を支持していた。さらに、私達は、単なるクォータ制の改革だけでは、独裁与党が維持する資本主義経済の問題を解決できないとも考えていた。しかし、政府が平和的抗議行動に対して警察とファシスト暴力団による並外れた暴力で対応したため、事態はエスカレートした。抗議者に対する国家暴力は現在の運動を完全に変えた。運動の現段階について語る前に、バングラディシュの現在の政治シナリオを説明する必要がある。

過去16年間、バングラディシュはシェイク゠ハシナと彼女の政党「アワミ連盟」に支配されてきた。最初は選挙で過半数を獲得して権力を握ったが、すぐに独裁政党になり、3度の不正選挙や偽装総選挙によって国家権力を維持している。さらに、シェイク゠ハシナとその政党は、解放戦争の精神を支持する唯一の政党だと自慢している。実際には、彼等は解放戦争の精神と利益を大衆から横取りしたのだ。彼等は解放戦争を民族主義的視点からのみ描こうとしているが、解放戦争は平等・自由・正義への熱望に導かれた民衆の戦争だった。独立後、国家の階級的特徴は変化せず、国内の支配者グループが外国の支配者グループに取って代わっただけだった。国家機構と法制度も、パキスタンと英国の植民地支配体制の遺産を引き継ぎ続けていた。アワミ連盟は過去16年間の支配の中で国家支配システムが持つこれらの機構全てを利用し、反対意見を一掃してきた。彼等はそれを正当化するために、民族主義的レトリックを使い、他の全てを反解放勢力だと決めつけた。

過去十年でバングラディシュは高いGDP成長を達成したが、それは主に、既製衣料品部門の安い労働力と、中東における低技能労働力の輸出という犠牲の上に成り立っている。こうした労働者集団はどちらも、非人道的労働条件に苦しんできた。2013年の1134人が死亡したラナ゠プラザの倒壊は国際メディアで報道されたが、火災や警察の取り締まりによる死者については注目されなかった。政府は多くの労働組合を取り締まり(組合指導者の拉致も含む)、他の労働組合の大半を掌握し、一部地域では組合活動を禁じている。昨年でさえ、最低賃金引き上げを求めた衣料品労働者が殺されたり逮捕されたりした。最近、借金を財源とする短期的な開発戦略の影響を受け、バングラディシュの経済は危機に直面している。米国・中国・インドといった帝国主義・拡張主義の大国は、バングラディシュを地政学的な関心地域と見なしている。インドはバングラディシュと国境を接する国であり、バングラディシュの政治に最も大きな影響力を持っている。インド政府の利益を満足させるためだけの契約と引き換えに、西側諸国に政府の「正当性」を提供しているからだ。与党は公正でも包括的でもない選挙によって次の任期の再選を果たしたが、民衆は失業・インフレ・不平等・与党の弾圧で苦しんでいるのだ。

現在の経済条件と基本的人権の欠如は、バングラディシュ民衆、特に青年の間に大きな不満を創り出している。しかし、最近の再選後に、ハシナが統治する政府は、汚職と搾取の体制を継続する上で事実上無敵だと考えていた。だから、学生が実力を優先する公平なクォータ制度を求めて平和的抗議行動を始めると、与党は暴力に訴えたのである。まず、彼等は、ファシスト与党のファシスト歩兵である学生同盟を起用した。彼等は、情け容赦なく学生と抗議者を殴打し、病院にいる人々すら襲撃した。しかし、今回、学生達はすぐに抵抗運動を創り出し、16年にわたるアワミ連盟の支配で初めて、このファシスト学生党派から学生寮の管理を取り戻した。次に、政府は抗議行動を止めるよう警察に要請した。警察は残酷な手段を講じ、7月16日に抗議者を殺し始めた。だが、抵抗運動は止まらず、数は増え続ける一方だった。運動のコーディネーターはその後数日間あらゆる公的活動を完全停止するよう呼び掛けた。

7月18日、警察と与党の暴力団は、大学と高校の中や前で抗議する学生達を襲撃する際、予想外の暴力を行使した。しかし、学生達は、計り知れない勇気を示し、反撃しようとした。彼等は自分達を組織し、相互に連携し、限られた資源を使って国家暴力に反撃した。抗議者達の反撃により、様々な地域で政権の歩兵と警察はその地域から退去せざるを得なくなった。政府もそれに応じて暴力を増大させ、殺戮の限りを尽くした。7月18日の午後には、多くの大学生と高校生が殺されているという確認済みニュースがソーシャルメディアで広まった。大量の人々が運動に参加し始め、民衆と武装勢力(と与党暴力団)の間で暴力的衝突が起こった。その日の遅く、政府は国中のインターネットアクセスを完全に遮断し、抗議行動を鎮圧しようとした。だが、うまく行かなかった。抗議者達は翌日の7月19日も抵抗を続けた。

他の政党メンバーもこの時点で運動に参加したが、大衆と学生の参加は続いた。武装勢力はこの日少なくとも70人を射殺した。殺害された大半は学生だったが、カメラマン・人力車夫・運送労働者も殺された。衝突中、2人の警官も抗議者に殺された。金曜日の夜から政府は夜間外出禁止令を発令し、軍を投入した。

しかし、土曜日も衝突と死者は報告されていた。

政府による5日間のインターネット遮断後、インターネットアクセスを回復したのはバングラディシュの一部地域だけだったため、信頼できるニュースを手に入れるのが難しくなっている。国内で運営されているメディアは政府に厳しく統制されている。政府も死者数の情報を一切提供せず、医療関係者による提供も許可されていない。警察が病院から死亡者登録簿を押収したという話もある。バングラディシュの有力紙の一つによれば、継続中の抗議行動で少なくとも197人が殺されたという。しかし、実際の数字は遙かに多いと推定される。人々やニュースレポーターは、ここ数年これほど大規模な暴力を見たことがないと述べている。病院の床に横たわる大量の死体・丸腰の人々を至近距離から撃ち続ける警官といった画像と動画が続々と公開されている。DWニュースが報じたように、平和維持活動のための国連車両も、バングラディシュの抗議者を攻撃するために武装勢力によって使われている。

現地での抵抗運動もさることながら、若者たちはファシズム政党と権威主義国家のあらゆる談話を拒否し、論破している。バングラディシュの大衆は学生運動を独裁指導者シェイク゠ハシナに対する正当な抵抗と見なし、絶大な連帯を示している。地元の人々は、食料と避難所を無料で提供し、負傷者が病院に辿り着く手助けをしていた。人々はこの運動の最中、国家への大規模な不服従と非協力を示している。労働者階級の人々は抗議行動で学生達に驚くべき連帯を示した。学生達を積極的に支援し、一部地域では学生と共に抗議に参加した。運動の中で、学生達は直接行動・相互扶助の様々な戦術を駆使して、抵抗を成功させたのである。

7月21日、最高裁はクォータ制改革を支持する判決を下した。提案された分配は、抗議者達が要求したフリーダムファイターの子孫の枠を減らすものだったが、同時に、社会的不利を被っている市民の枠も減らしており、不公平である。

さらに、先週の大量殺戮以後、事態はクォータ制改革を遥かに超え、今や多数の民衆がシェイク゠ハシナ首相の辞任を求めている。しかし、メディア・通信・暴力の統制により、政府は一定の立場を維持している。警察は数百人の学生を拘束している。コーディネーターの一人も武装勢力に拉致され、拷問を受けている。政府は、事態が正常になりつつあると描こうとしている。間もなく全国的にインターネット接続を再開し、夜間外出禁止令を終わらせざるを得なくなるだろう。企業がシャットダウンで大きな損失を被っているからだ。インターネットが復旧すれば、コーディネーターと抗議者達は、その手を数百人の血を手にして正体を現した独裁政権との厳しい戦いに直面しなければならなくなる。

与党によるこの殺戮と暴力の後で、バングラディシュが再び正常な状態に戻れるとは思えない。バングラディシュ民衆は、ファシスト政党による全体主義が国の運命なのか、民衆が権力を取り戻すのかを決めねばならない。正当な雇用機会を求める抗議として始まったこの運動は、ファシストのハシナ支配と国家暴力に対する大規模叛乱へと変貌した。バングラディシュ民衆は自由・権利・尊厳を持って生きたいという自分達の衝動を表明しているのだ。しかし、その運命に到達するには、国家の民主的変革が必要である。超法規的殺人を犯すエリート軍隊を解体しなければならない。あらゆる機関を再編成し、誰もこうした残虐行為を行う権力を得られないようにしなければならない。新自由主義の政策を捨て去り、資本家階級ではなく、民衆と労働者のための経済に移行しなければならない。しかし、これら全てを実現するには、強力な労働者階級運動と公民権運動が必要だ。これまでのところ、民衆と社会は国家暴力に対して驚くべき抵抗を示している。この抵抗が意味するのは、より平等で公正で自由なバングラディシュを求めた闘争の新たな始まりである。未来は不確実だが、この運動が何か示しているとすれば、正当な理由のために戦うべく組織された人々は想像を絶する抵抗をできるということである。私達は全体主義の未来を拒絶する。私達が期待するのは民衆の革命に他ならない。

2024年7月24日


著者はアナキストグループ「アウラジ」ネットワークのメンバーである。

アウラジについて:アウラジ(ベンガル語でアナーキーの意味)は、バングラディシュの学生や様々な職業の人々から成るアナキストのネットワークである。アウラジは、バクーニン・クロポトキン・ルドルフ゠ロッカーなどのアナキズム思想家の様々な著作のベンガル語訳を出版している。また、バングラディシュの政治・経済シナリオに関する記事も頻繁に発表している。アウラジはバングラディシュにおける最近の労働運動(衣料品労働者・ジュート工場労働者の運動)・学生運動・市民権運動への連帯を示してきた。アウラジのメンバーは、個人的に、現在進行中の抵抗運動を含め、こうした運動の多くに直接参加しているが、グループとしてのアウラジの活動は主に出版に限定されている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?