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コミュナリズム:解放的代案(13)

現代社会から来るべき社会へ(その1)

現代社会からこれまで詳述した自由社会へ移行するためには、紛れもなく、これらの理念を民衆の大多数が納得し、支持しなければならない。そのためには、これまで示した再構築ヴィジョンを中核として組織される運動を構築しなければならない。確かに、運動発展の詳細は参加する人々が決め、その人達が直面する情況を考慮して決まる。ただ、既存システムをどうすれば転覆できるのかについて全般的なヴィジョンを示すために、一つの行動プログラムの輪郭を描いておくことは役に立つ。このプログラムの提案が、社会的自由の価値観を中軸として行動する触媒になってほしいと願う。さらに、この綱領は最初の土台となる考えである。これを基に人々は独自の考えと創造的手法を発達させられる。理念--ヒエラルキーへの完全反対のような--を必要に応じて主張するが、以下で詳しく述べるプログラムが社会変革に向けて厳格に適用されるべきアプローチだと述べるつもりはない。逆に、これは、社会再構築をどのように達成できるのか探求する思弁的演習である。

この運動は、人々が直面している抑圧の具体的問題を全て扱おうとしなければならない。しかし、こうした諸問題をそれぞれ孤立して扱うべきではない。抑圧と特権の横断性を意識することが重要なのだ。この意識が人々の多様な経験の複雑さ・転覆すべき無数の抑圧・特権について鋭敏な知識を与え、この知識が特権そのものへの対抗に活用される。私達が直面している現実を十全に扱うためには、単一争点の活動を、目の前にある全ての争点を扱うもっと幅広いキャンペーンに統合しなければならない。従って、様々な争点の多様性を扱い、人間全体の全般的利益のために行動する統合運動を求めねばならない。この運動は、社会的・経済的状態という点で可能な限り多様なものになるべきである。そのことで、幅広い経験と観点を示せるようになるのである。(原註58)

コミュナリズム思想を推進する最初の手法はリーフレットやパンフレットの配布である。その目的は、この思想をできるだけ明確に説明することである。支持者が見つかれば、小規模な研究会を作って、思想を深堀するのが賢明であろう。研究会が思想を自分達で明言できる自信を持ち始めたら、コミュナリズムの公的な宣伝を拡大し、定期的にニューズレターの発行を始める。その中で、コミュナリズムの観点から、地元の諸問題を生態調和社会という長期的ヴィジョンに結びつけながら、それら諸問題の解決策を提案する。リーフレットもそうだが、ニューズレターの配布によって、仲間のコミュナリストは質問と懸念に対応する立場になり、コミュナリストにとっても会話の相手にとっても相互に教育的な演習となる。もう一つの教育方法は、連続講演会を開催したり、社会正義の諸問題に焦点を当てたグループと話したりすることである。さらにもう一つの重要なアプローチは、地元の公職選挙への立候補である。選挙活動は、自治体政府の構造を直接民主主義に転換するというグループの確固たる意図を明確にした綱領に基づいて行われる。民衆教育の行為として、コミュナリストの選挙運動は、対面で行われねばならない。強調しておかねばならないが、安易に多くの支持者を得る目的で選挙活動を行ってはならない。人々が推進されている思想についてまだ教育されていないのなら、大差での敗北が望ましい。多くの支持者を手に入れるために遠大な目標を捨ててしまえば、コミュナリストの政治運動は必ずや、無益で、士気をくじかれ、堕落してしまうだろう。全く同じように、反国家主義ヴィジョンに誠実であり続けるために、自治体を越えた公職選挙運動は絶対に避けるべきである。教育された個々人が--プロパガンダにのせられた大量の投票者ではなく--萌芽期の運動を受け入れ、参加するようになるのが望ましい。(原註59)

支持が増え始めると、支持の元になる地区へと焦点を移せるようになる。まず、地区のコミュニティ゠テクノロジー゠プロジェクトの開始に注力する。コミュニティ゠テクノロジー゠プロジェクトは、人々が集まって協働活動を行うという点でコミュニティ゠ガーデンに似ている。(原註60)こうしたプロジェクトは、比較的低コストで、技術的に扱いやすい実例を使って、テクノロジーの解放的可能性を実証する。最初に始めるべきオープンソースのプロジェクトには、RepRap(3Dプリンター)・Shapeoko(コンピュータ制御製粉機)・Lasersaur(コンピュータ制御レーザーカッター)・Liberator(圧縮アースブロック゠プレス機)がある。(原註61)これらは、分権型の製造作業はすぐにも可能だと人々に示す際に優れた実例となる。インターネットには他にも多くの非常に有益なオープンソース゠ハードウエア゠プロジェクトがある。同時に、パーマカルチャーを実証する場所を作り、コンパニオン゠プランティングやホリスティック゠サイトデザインのような重要概念を教えることもできる。

コニュニティ゠テクノロジー゠プロジェクトと同時に、地区のアセスメントを行えば、その地区が直面している諸問題と可能性双方の知識を得られる。最初に行う重要な作業は、当該地区の社会構成を知ることである。例えば、どの家が持ち家で賃貸なのか・昔から住んでいる人は誰か・リーダーになる人は誰か・失業水準はどのぐらいかなどを調べる。こうしたことから住民は地区の歴史と過去の政治的闘争を学ぼうとする。もう一つの作業として、地区の中でどのような資源を利用できるのか明らかにするために戸別の調査を行う。どのような問題が住民にとって重要か・どのようなスキルを住民が持っているか・住民の趣味は何か・どのような道具や設備があるのかを知っておけば、いつか有用になるかもしれない。また、その場所を共同使用にする機会を見つける目的で、空き家や近所の区画を誰が所有しているのか調べる。同時に、住民に資料を配布し、人々が中央集権型権力に統制されないよう直接人々に権能を与えることがグループの意図なのだと説明することもできる。もう一つの重要な演習は、当該地区がどれほど食料とエネルギーを生産する可能性を持ち、独自の製品を製造する潜在的能力をどれほど持っているのか査定することである。(原註62)可能な限り、全ての地区アセスメントプロセスは文書化され、インターネットで自由に入手できるようにすべきである。そうすれば、他の人達がこうした活動を再現し、それに基づいて事を進められるようになる。こうした豊富な情報を手にすれば、コミュナリストは最小限綱領を作るために当該住民達と共に活動できる。最小限綱領は、当面の課題を扱うことに焦点を当てた一連の要求である。改良主義にならないようにするために、最小限綱領は長期的ヴィジョン、つまりコミュナリスト゠プロジェクトの最大限綱領とどのように結びついているのか示さねばならない。(原註63)

こうした最初の活動の後、地区住民の中には、コミュナリズム思想全般に精通するようになり、民衆が自身の生活を直接統治する呼びかけに魅入られる人も現れるだろう。この意識水準に届くと、コミュナリストは自己権能の行為として地区住民に集会へ参加するよう呼びかけ始める。こうした集会は当該地区に実際に住んでいる人々に向けて開かれるべきであり、地区の外に住み、この地域から利益をむさぼり取っている地主やビジネスオーナーにではない。この点に注意しなければならない。こうした民衆集会は、市役所から発表される望ましくない計画から身を守るために時折集まるのではなく、定期的に開催され、必要に応じて臨時会議を召集しなければならない。情況に対する実質的影響力が実際どれほど萌芽的であろうと、継続中の集会に参加することで、地区の人々は、自分達を管理している抑圧的諸制度を転覆する上で極度に重要な歩みを進めている--自治を始めているのだ。この時点で、こうした集会は現実の法的権限を持っていないが、それでもなお、地域社会の中で道義的力として作用でき、最小限綱領の要求に対応するよう市役所に圧力をかけられる。地区がある程度まで自治をし始めている以上、集会は、市役所の権力と平行して、実質的に権力の源になる。二重権力である。民衆集会が出現すると、コミュナリストは、二重権力構造として集会がどれほど重要なのか集会参加者に教えることに注力しなければならない。この活動によって、市民は、社会的自由の理想に至るプロセスに自分が能動的に参加していると考えるようになるだろう。民衆集会が独自に行使できる権力は、必然的に、市役所を犠牲にする。この発展は、単一の地区に留めてはならず、逆に、国中の数多くの地区を--国際的にすら--網羅しなければならない。そのことで、様々な地区が国家そのものに対する二重権力構造として集団的に機能するのである。(原註64)

民衆集会は、今なお新しく、その力は小さいが、民衆が直面する諸問題の一部に対処する方策を講じることができる。市役所に対して圧力を加えるだけでなく、様々なコミュニティ゠プロジェクトによって協働文化の構築にも着手できる。同時に、都会の巨大症と生の商品化が提供する匿名で疎外された断片的生活様式を打倒しようとする。こうしたプロジェクトの実例は、育児コレクティヴやフリースクールであり、警察に関与させずに紛争を解決する方法すらもそうだ。さらに、コミュニティ゠キッチンとダイニングホールを開設すれば、個々人と家族を夕食の準備という労働から、そしてファストフード文化が提供する不健康な選択肢から自由にできるだろう。ここは、レストランに配置された独立テーブルとは全く異なる社会的環境であり、人々が集まり、近所の様々な人達と自由に会話するだろう。(原註65)このような生活の質の改善によって、住宅開発業者の投機的な目は地区に向くだろう。手遅れになる前に、先制してジェントリフィケーションを阻止しなければならない。これと闘うツールには、借家人組合の結成・地元の土地区画整理委員会への働きかけ・不動産市場から当該地所を取り除くためのコミュニティ゠ランド゠トラストがある。(原註66)

原註58.Remaking Society - p.165-174(「エコロジーと社会」、219ページ~231ページ)

原註59.The Politics of Social Ecology - p.53-62, 121-130

原註60.1970年代にワシントンDCで行われたコミュニティ゠テクノロジー゠プロジェクトに関する興味深い概説は、以下を参照:
・Hess, Karl, Community Technology (New York: Harper & Row Publishers, 1979)

原註61.RepRap(3Dプリンター)
Shapeoko(コンピュータ制御製粉機)(リンク切れ)
Lasersaur(コンピュータ制御レーザーカッター)(リンク切れ)
Liberator(圧縮アースブロック゠プレス機)
Global Village Construction Set も参照

原註62.Morris, David and Hess, Karl, Neighborhood Power (Boston: Beacon Press, 1975) - p.16-45

原註63.The Politics of Social Ecology - p.73-75

原註64.The Politics of Social Ecology - p.81
このアプローチが持つ歴史的遺産と現代での可能性については以下を参照:
・The Rise of Urbanization and the Decline of Citizenship

原註65.Neighborhood Power - p.34-37, 46
・The Politics of Social Ecology - p.55

原註66.Neighborhood Power - p.83-96
・Chodorkoff, Dan, "Occupy Your Neighborhood"

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