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コミュナリズム:解放的代案(9)

解放的テクノロジー(その1)

テクノロジーは、この惑星を恐るべき規模で搾取し、単純化するために使われてきた。しかし、この責任はテクノロジーそのものにあるのではない。というよりも、責任は、テクノロジーがヒエラルキー型で強欲な社会文脈の中で設計され、使われてきた事実にある。生態調和社会では、テクノロジーは、人間にとって解放的役割を担うように方向付けられるだろう。これは、同時に、人間以外の自然の完全性と生物多様性を促す。この方向付けから、テクノロジーは苦役と単調な仕事を削減するために使われ、全ての人にとって必要な仕事の量を最小限にするために労力節約技術が適用されるだろう。(原註37)

オートメーションは大きな注目を浴びるだろうが、私達は、完全に自動化され、人間が生産に関わらないロボット化された環境を支持してはいないと強調しておかねばならない。こうしたテクノロジーが分権化され、地域社会の直接管理下に置けるようになる、これが重要なのである。ロボット工学とオートメーションを使って、万人の必要物を供与できるという事実は、こうした技術をどの程度まで利用するのかの選択を人々に与える。生態調和社会は、市民的関与を通じて人格形成をし、自分が選んだ芸術的・職業的活動に力を注ぐという目的のために人々の時間を解放するだろう。実際、仕事そのものは、個々人が自分の選んだゆったりしたペースで自分の創造的可能性を実現できるような楽しい活動になるだろう。人々は、精神労働と肉体労働・屋内作業と屋外作業・共同作業と単独作業の間の、工芸と農業の間の、都市と農村部の間の複雑なバランスを発見する機会を与えられるだろう。こうした可能性をさらに追及するために、ここでは、製造業・鉱業・農業・エネルギーの分野についてテクノロジーの可能性を簡単に解説する。(原註38)

・製造業

3Dコンピュータデザインとコンピュータが制御する機械の発展によって、製造業の実質的に全ての領域は、完全に自動化され、現地生産できる規模になった。金属加工と木工の工程一つ一つは、精密切断・成型加工・接合を含めて全て、比較的小さな機械で扱え、現地の施設内で行える。また、自動加工は、あらゆる形のガラス・プラスチック・衣類を誰もがデザインできるようにし、現地生産できるようにしている。この性能に加え、製品の組立を指示するコンピュータファイルに基づけば、どんな製品でも自動で組み立てられる。例えば、世界中の誰でもベビーカーの設計・組立ファイルをダウンロードでき、全ての部品--多分、金属・プラスチック・木・布の組み合わせ--を直接製造し、完全に組み立てられるだろう。全て、人手はかからないのである。(原註39)

生産機械のドキュメントは、インターネットで自由に利用できるようになるべきである。そのことで、世界中で技術的・機械的な知識の迅速な伝達が可能になる。ドキュメントには、材料リスト・コンピュータ設計ファイル・取扱説明ビデオ、そしてシステム変更情報・ディスカッション゠フォーラム・ウィキといったコラボレーション゠ウェアも含められるだろう。さらに、簡単に質問に答えたり、テクニックを実演したりするために、ビデオ会議による支援の提供も可能であろう。

産業インフラのメンテナンスも自動化できるだろう。コンピュータ制御システムへデータを送るセンサーを使えば、機械の部品・作業の流れ・パフォーマンス変化量を監視できる。また、必要に応じて機械をロボットで分解し、各部品を一連の診断テストにかけることもできる。診断の結果、故障が判明した場合には、人間の手を煩わせることなく、臨機応変に交換部品が製造され、取り付けられるだろう。

・鉱業

解放的目的のためにコンピュータが制御する機械を使っても、新たな金属生産の削減は実際に可能だと考えるべきである。毎年、大量の金属がごみ処分場に捨てられている。ある報告書によれば、大手アルミニウム企業のエネルギー部門責任者は、ごみ処分場には鉱石採掘で生産できる以上のアルミニウムがあると推計している。もっと踏み込んで、彼は、銅と金についても同じことが言えるだろう、と述べている。(原註40)さらに、生体調和社会は、必然的に、徹底的に作り直された建造環境になるはずである。都会の巨大症と自家用車の君臨は終わりになる。建造環境は、利潤ではなく生活のための生産を指向する経済と共に、生態学の教訓に従って再構築される。この環境で、金属は豊富にあり、新たな金属生産は必要ない、もしくはそれほどいらないとはっきり分かるだろう。

しかし、新たな金属抽出がある程度必要になっても、さほどの労苦もなく、破壊的ではないやり方で抽出できる。2010年の段階で、鉄鉱石は、鉱山から港まで完全に自動で運ばれている。操作は全てコンピュータ゠オペレーターが遠隔地から行っている。(原註41)この自動化アプローチと組み合わせることができるのが、生物学的手法による金属抽出である。このプロセスはバイオマイニングと呼ばれ、微生物を使って鉱石から金属を浸出する。バイオマイニング技術の発展は重要である。使うエネルギーは少なく、インフラを築く必要もなく、純度の高い鉱石だけでなく低い鉱石にも使え、労働量も最小限で済む。さらに、従来のやり方では無機的だった工程に自然を持ち込むことで、自然界との協力関係の必要をより明確にする手助けをしてくれる。(原註42)

アルミニウムの生産は多くの形で環境に悪影響を与える。標準的な工程では、数々の有毒な副産物が生じ、莫大な電力を消費する。アルミニウムの生産を続けるなら、別な方法を確立しなければならない。最近の研究では、バイオマイニングはアルミニウムにも使え、エネルギー消費と二酸化炭素排出を劇的に減らし、同時に、他の望ましくない副産物を削減するという結論が出ている。(原註43)純度の低い鉱物をバイオマイニングで処理できるという事実は、粘土(ケイ酸アルミニウム)から直接アルミニウムを生産する道を開く。この手法を使えば、アルミニウム生産は徹底的に分権化され得るだろう。世界中の人が、地元の豊富な資源を使って独自にアルミニウムを生産できるのである。(原註44)

原註37.以下でテクノロジーの役割について優れた考察がなされている:
・The Ecology of Freedom - p.302-355

原註38.Remaking Society - p.196(「エコロジーと社会」、261~262ページ)
・The Ecology of Freedom - p.427-30
・Post-Scarcity Anarchism - ‘Toward a Liberatory Technology’ p.83-139 を参照

原註39.このテクノロジーの実例は、以下の通り(全てYouTube):
鋳造用金型を扱うロボットアーム
ロボットによるアーク溶接
コンピュータ制御旋盤
ロボット木工所
自動化されたポータブル製材所
自動化されたガラス製造機械
コンピュータ制御織機
ロボットプログラミングソフト
ロボットプログラミングソフト(2)
エンジン組み立て用ロボットアーム
自動化された倉庫

原註40.http://www.fastcompany.com/magazine/107/landfill.html

原註41.http://www.riotinto.com/media/5157_7037.asp(リンク切れ)
http://www.steelguru.com/raw_material_news/Rio_Tinto_Mine_of_the_Future_programme_tests_advanced_technologies/209531.html(リンク切れ)

原註42.http://opensourceecology.org/w/images/4/43/Biomining_-Carmen_Tailings-Com.pdf(リンク切れ)
http://opensourceecology.org/w/images/d/df/Biomining_-_A_Useful_Approach_Toward_Metal_Extraction.pdf(リンク切れ)
http://wiki.biomine.skelleftea.se/wiki/index.php/Main_Page

原註43.http://opensourceecology.org/w/images/c/c9/Halman.pdf(リンク切れ)

原註44.http://opensourceecology.org/open-source-aluminum/

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