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「カレー移民の謎・日本を制覇するインネパ」

「カレー移民の謎・日本を制覇するインネパ」室橋裕和著・集英社新書2024年3月発行

著者は1974年生まれ、週刊誌記者を経て、タイに移住、現地日本語情報誌に在籍、取材。帰国後はアジア専門フリージャーナリスト。日本に生きるアジア人をテーマとする。「日本の異国・在日外国人の知られざる日常」「ルポ・コロナ禍の移民たち」などの著書がある。

日本のいたるところで見かける格安インドカレー店、ほとんどがネパール人の経営である。バターチキンカレー、ナン、タンドリーチキンのコピペ的メニューが並ぶ。このようなカレー店を「インネパ」と呼ぶ。本書は、その進出の経緯と日本の入管行政の盲点を描く。

「インネパ」カレー店が日本に最初に生まれたのは1990年代である。1980年代バブル期にインド人経営のインドカレー店の出店が相次いだ。そのインドカレー店にコックとしてインド経由で来日したのがネパール人のコックである。

10年近くインドカレー店でコック修行後、彼らは東京、名古屋、博多で独立開業した。それがインネパの起源である。彼らインドカレー店は出身地ネパール・バグルン地方から多くのネパール人を呼び寄せ、のれん分けのようにして近隣で開業、更にネパールから家族を呼び、家族経営で店舗を拡大していった。

そこには日本の入管行政、就労ビザ取得が大きく関係している。1989年入管法改正による技能ビザで来日して、就労する。インド等で10年間コック経験あれば技術ビザが取得できる。さらに2002年、外国人の法人設立要件が緩和された。

出資金500万円以上(日本人従業員2名採用すれば300万円でも可)で法人設立、経営管理ビザが取得でき、従業員をコックの技術ビザで採用できる。日本人なら1円出資金も可能だが、海外投資導入策の一つの特例である。

これによって2000年代に「インネパ」カレー店ブームが出現する。彼らには入管資格審査の更新があり、債務超、赤字経営では更新されない。強制帰国回避のため、必死で働き、経営の失敗は許されない。そのため成功例のコピー商法で経営持続を図る。

日本経済の低迷とも重なり、彼らは低価格ランチを開始する。価格競争が激化し、コスト削減も必須となった。従来のインドカレーの独自性も徐々に失われ、品質の低下、横並び経営、安易経営が増加した。

更にネパールから家族を呼び寄せ、家族滞在ビザで週28時間就労させるも、子供の教育、日本語の問題もあって、教育、生活への行政支援が十分ではない。結果、廃店やコックの従業員に戻るケース、最後は母国へ帰国、成長期待できる英国・米国へ転出するカレー店も増えている。

在日外国人のトップは中国人78.8万人、次にベトナム人52.1万人、ネパール人15.6万人と三番目である。家族滞在外国人は中国人7万人に対して、ネパール人4.5万人と家族滞在の割合が大きい。

ネパールの一人当たり名目GDPは0.13万ドル、インドが0.24万ドル、日本は3.4万ドル、日本の1/30である。ネパールの総人口は3,000万人、うち1割の300万人が海外へ出る出稼ぎ国家である。出稼ぎ送金額は1兆円にもなる。円安の進展で日本での出稼ぎメリットも低下している。

現在では従来のインドカレー店から、餃子、焼き肉などの居酒屋経営に転換する店舗も出ている。日本で引き続き出稼ぎで稼ぐしか方法がない事情もあるだろう。子供、家族生活も含めて今まで以上に行政支援が必要かもしれない。


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