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祭りの名脇役「テキヤの掟・組織・慣習」

「テキヤの掟・祭りを担った文化、組織、慣習」廣末登著・角川新書2023年1月発行

著者は1970年生まれ、現・龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員、犯罪社会学専門の社会学者。「ヤクザと介護」「裏社会メルトダウン」等多くの著書がある。

テキヤとは祭り、縁日に露店や興行を営む業者を言う。当たれば儲かるとの意味で「的屋」「香具師」とも呼ばれる。

2010年暴力団排除条例の施行でテキヤも反社組織と見なされ、更に2020年コロナ禍で人の集まりが消滅した。

本書は、薄利の商品を祭りで売る、縁日を支える人たちがどのように商売し、どう生活しているのか?「テキヤ社会」の現場報告である。

本書は二人の「テキヤ」に焦点を当て、二人の回想でテキヤ社会の実相に迫る。

ひとりは関東神農連合会の幹部・世話人を務め、30年間夫婦一緒でテキヤ稼業を続けた。

しかし暴力団排除条例から、2017年テキヤを脱退、副業の建設業に専念しようとした途端、2021年建設業許可を取り消された。

その理由は条例の「元暴5年ルール」である。反社組織脱退後5年経過しない者は銀行口座作成、各種契約ができない規定である。

テキヤ系暴力団もある。戦後、池袋のブラックマーケーットを仕切っていたテキヤ集団・極東会関口愛治、桜井一家関口一門である。

著者は言う。暴力団は博徒、テキヤは商売人、全く「稼業」が違う。にも拘らず、反社勢力と一括りされる。この世間の理不尽さは是認できないと。

テキヤは中国古代の神「神農黄帝」を祭神とする神農界社会。ヤクザは「天照大神」を祭神とする任侠界社会である。テキヤは200円、300円の商品を販売する商売人である。一方、ヤクザは裏社会のサービス業である。

前記の元世話人は「三寸」(露店の売台をいう)を並べて露店商売をした妻を失った。希望を失った彼は早く妻の所に行きたいと嘆く。

もう一人は、深川本所の江東地区テキヤの帳元(親分)の娘である。父親は人形作りをしながら、テキヤ稼業を営む。彼女は父親から、23歳で跡を継いだ。そして63歳で引退する。

彼女は、テキヤとはご縁による商売、一期一会の出会いであると言う。縁日という人間交差点の風景を回想する。

テキヤは祭りの名脇役であり、神社仏閣を支えてきた商売人である。いま日本文化の一角を担ってきたテキヤが消滅しようとしている。

テキヤの課題は色々ある。一つはテキヤのなり手がいない。若者の人材不足である。もう一つは、テキヤ商売する場所が少ないこと。寺院規制、警察の道路規制など。最後はテキヤ商売のグレー的色彩を取り除き、ホワイト化することだろう。

巻末にテキヤの隠語集も掲載されている。ユニークなテキヤ論である。

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