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裏社会の仕事を表社会の人間が事業化する時代・闇の盾

「闇の盾・政界・警察・芸能界の守り神と呼ばれた男」寺尾文孝著・講談社2021年5月発行

著者は1941年生まれ、佐久市出身、高卒後、1960年警視庁入庁、機動隊勤務を経て1966年退職、秦野章参議員私設秘書となる。

バブル崩壊で自ら経営のリゾート開発事業破綻、1998年負債250億円抱え倒産。1999年危機管理会社・日本リスクコントロールを設立する。

著者は秘書時代からトラブル処理専門、会社は危機管理トラブル処理を請け負う。本書はベストセラーらしい。元機動隊員のバブル史。銀座通り路地裏のどぶ川を見るような後味の悪さを感じる本。

書名「闇の盾」と正義の味方のようである。警察、検察、闇の世界の人脈をフル活用する。実態は著名人、企業の用心棒稼業と言うべき。

暴対法でヤクザ稼業が成立しない。警察、検察、政治家発注の用心棒商売、いわば警察、検察の天下り仕事。全体に自慢話が多い。

面白いのは秦野章秘書時代、1998年4月に日本ドリーム観光㈱副社長になり、コスモポリタンの池田保次(山口組元組長)との会社乗っ取り攻防戦。

攻防戦には雅叙園観光に絡み、高利貸しアイチの森下安道、イトマン事件、協和綜合開発研究所の伊藤寿永光、許永中、大阪府民信組の南野洋等バブル紳士が乱舞した。

イトマン伊藤寿永光の弁護人・田中森一。石橋産業事件で手形搾取・恐喝未遂で逮捕される。「闇社会の守護神」とも呼ばれた。田中森一の弁護士事務所開設資金を支援したのが、2021年1月死去した「マムシ」こと金融業アイチの森下安道である。森下は愛知県渥美の出身。田中森一は許永中とも近い関係にあった。

伊藤寿永光は、1945年生まれ、中京商業高校野球部出身、西武ポリマーで会社員をやったのち、1977年、名古屋で協和綜合開発研究所設立。1986年、銀座一丁目の土地400坪地上げを進めて、名を上げた。

「兜町の風雲児」こと投資ジャーナルの中江滋児。無許可営業で6年の刑を受けた。2020年2月、東京の一人住まいアパート火災で焼け跡から遺体で発見された。孤独死に近い状態だった。

中江の釈放時、迎えに行き、出所祝い金3億円を用意したのがパソナグループ・南部靖之である。かつて南部は中江のもとで事業家修行をしていたためと言う。

警察庁出身元衆議員・亀井静香は、コスモポリタンの池田保次と深い関係があった。ゴミ焼却プラントの製造販売会社タクマの株式60万株を、時価より5割高い価格13億で、コスモポリタン側に引き取ってもらっている。

富士ゼロックス会長・経済同友会代表幹事を務めた小林陽太郎氏の実弟で同社子会社アトラスの社長・小林奎次郎氏の事件も話題となった。

アトラスは富士ゼックス協力会社100社の会の幹事を務める。ささいなトラブルから暴力団に50億円の金を払わされた。寺尾氏に相談を持ち掛けてから3か月後の2003年3月、彼は東京ホテルオークラ別館の部屋で妻と共に拳銃で無理心中した。

寺尾は生死にかかわるトラブルにもタッチする。本来これは警察が対応すべきもの。顧客は色々問題あって、著者の民間会社に相談する。

「トラブル・シューターとしての著者に頼めば、何とかしてくれる」がキャッチフレーズである。かつての「民事不介入」で警察の代わりにヤクザが処理するに似ている。

まさにヤクザの上前を刎ねる。着手料1件500万円、難しい案件は1,000万円。企業顧問料はA会員は年間2,000万円(最終解決までまで)、B会員は500万円(相談のみ)と高額だ。

闇から闇へ消え去る必要のあるトラブルが多い証拠である。本来は弁護士が対応すべきもの。弁護士法72条違反、非弁行為にもなる。故に当社はホームページ、電話番号も公表しない。

バブル期から闇の世界が堂々と表の社会に出てきた。暴対法で暴力団、ヤクザが消えた。代わりに警察、検察、官僚OBが民間の名で違法スレスレの業務展開をする。

政治、企業、官僚の世界と闇の世界とのつながりは続く。闇の世界とはヤクザの世界ではない。「見えない権力」の世界。見えない権力とは政・官・財・マスコミの総体の権力構造、仕組みを言う。表に出せない闇の世界である。

トラブル解決法はグー・チョキ・パーと言う。グーはチョキに勝つ、しかしパーに負ける。この力関係を最大活用する。そして最後はカネだと・・ヤクザの世界と変わりはない。

表に出せない、かつ闇に消えさせる必要のある事柄が多いかを表している。闇の世界と見えない権力はお互いに相性が良い。

トラブル対応の顧問料、報酬も高額。資本主義とは言え、このような社会がまともとは思えない。読書後の率直な感想である。

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