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「賃金か、雇用か」どちらを取る?

「雇用か、賃金か、日本の選択」首藤若菜著・筑摩選書2022年10月発行

著者は1973年生まれ、立教大学経済学部教授。専攻は労使関係、女性労働論。「物流危機は変わらない・暮らしを支える労働のゆくえ」岩波新書の著書がある。

本書は、コロナパンデミック下で起きた雇用調整問題を航空業、百貨店を事例に欧米、日本の特徴を明らかにする。

ポイントは雇用維持か?賃金削減か?その規模の大きさ、スピードの速い、遅いの違いを知る中で、今後の日本の選択を問う。

雇用調整の一つは人員削減であり、もう一つは賃金削減である。共に雇用コストの削減だが、長期対応、短期対応の違い、回復時での戻りのスピードが大きく異なる。

コロナ不況の需要減少は急激であり、雇用調整もかつてのリーマン不況とは異なる。リーマン時は回復見通しが不透明なため、新規採用の中止、雇止めが主流だった。

コロナ不況は一時的と見られ、就業時間削減、一時解雇、一時休業が多かった。その対応も欧米、日本ともに公的支援が中心である。

日本の雇用調整の特徴はスピードの遅さにある。一方で賃金引下げのスピードは速く、調整規模が小さい。代わりに、回復時の戻りが遅く、調整期間が長期で、経済低迷も長期化する。

米国一時解雇(レイオフ)は再雇用権が付与された解雇で、解雇者の選考は労組が主導権を握り、雇用期間の短い者、若者から優先選考される。

米国レイオフは日本の整理解雇とは意味合いが違う。再雇用までの期間が事前に決まっている。その間は失業保険による公的支援を受ける。米国の失業保険は手厚く、コロナ時、週300ドル上乗せ給付があり、働くより失業保険を貰う方が得と言われた。

日本は解雇規制が強いと言われるが、欧州の解雇規制も日本以上に厳格である。解雇は「正当な理由」が無くば解雇できない。

それでも労働力移動が流動的なのは、仕事が営業、製造などジョブ制雇用契約にある。反対に日本はショップ制で会社に入れば製造から経理まですべて担当。そのため一度解雇されると再雇用が困難になる。

この雇用システムの違いを無視して、労働流動性を主張しても無意味である。日本型ジョブ雇用を導入しても失敗する原因がここにある。

コロナ危機において、各国の雇用調整の中心は公的支援よる雇用維持の短期的調整、一時解雇、一時休業、就業時間削減が中心だった。

日本は雇用調整助成金によって賃金削減をカバーした。しかしそれは大手企業中心、中小サービス業、飲食業では雇止め、人員削減となった。ゆえに回復時の人手不足が問題となっている。

百貨店業ではグループ内での、出向、転籍の方法で雇用調整した。航空業では一部、グループ外への出向もあった。

それでも自社グループ外の下請け企業への業務委託を解消して、自社内処理によって人員削減を避けた企業も多い。

その結果、中小下請け企業は人員削減を避けられない。下へ下へと負担を負わせるシステムは変わっていない。「下請けいじめ」の最たるものが最近発表された日本郵便が話題になった。

短期的雇用調整である人員削減の調整弁は「非正規労働者」である。長期的雇用調整の出向、転籍、グループ内取り込み策の調整弁は「中高年正社員」と「下請け企業」である。

著者の言う「誰もが働き続けることを保障する社会」はいつ生まれるのか?

企業レベルでの雇用保障に頼っていてはいつまでたっても不可能だろう。社会レベルの雇用保障システムを作り上げる必要がある。

雇用ミスマッチもミクロでは解決できない。マクロ社会でのミスマッチ対策が必要である。何よりも雇用社会のシステム変更を求められている。

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