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「ある行旅死亡人の物語」

「ある行旅死亡人の物語」武田惇志・伊藤亜衣著・毎日新聞出版2022年11月発行

著者は1990年生まれ、共同通信社大阪社会部の同期生の記者である。

遊軍記者の武田氏がたまたまPCで見つけた「行旅死亡人」データのある女性の記事から物語は始まる。

「行旅死亡人」とは、病気、行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所等身元が判明せず、引き取り人不明の死者を言う。

法律により死亡場所管轄の自治体が火葬。死亡人の身体的特徴、発見時の状況、所持品などを官報に公告。引き取り人を待つ。

引き取り人が居なければ、無縁仏として処理され、財産、所持品は国庫に入る。

女性は、令和2年4月26日、尼崎市の一人住まいアパートの室内で死亡していた。死因はクモ膜下出血、このアパートに40年間一人で暮らし、右手指がすべて失われていた。

所持品の労災年金手帳から生年月日は、昭和20年9月17日、名前は「田中千津子」とある。死亡推定は4月中旬、家主が、姿が見えないため、部屋に入り、発見した。75歳老人の孤独死である。

女性が特別だったのは、所持品に3,400万円余りの現金を所持していた。住民票登録が無かった。アパート賃借契約は昭和52年(1982年)3月、契約者は「田中竜次」(仮名)で契約書記載住所はアパート所在地と同じだった。

多額の所持金、本籍地、住所は不明、労災保険給付は6級障害に該当、障害補償年金が年間120万円余りが生涯給付されるが辞退。健康保険証も保有せず、歯科治療は10年前、大阪で無保険治療を受けている。謎ばかり。

労災事故は(1994年)平成6年4月、アパート近隣の製缶工場に勤務中の出来事。その工場は閉鎖され、経営者も不明だった。

所持品は、三井住友とゆうちょの通帳2冊、「田中」と「沖宗」の印鑑が見つかった。

労災事故時、治療した病院の看護士の話では、女性は23歳まで広島に居て、関西に出て来た、3人姉妹だったことが判明。それ以外は一切、自身のことを話さず、ひっそりと隠れるように暮らしていた。

記者は女性の相続財産管理人弁護士に聞き込み、追跡を開始した。「沖宗」姓は全国で100人程、広島に多い。特殊な姓である沖宗を調べた。

その結果、広島元市議・沖宗正明氏の叔母であることが判明した。「沖宗千津子」の「生の痕跡」を訪ね、行旅死亡人の人生の歴史、風景、物語を辿る。

行旅死亡人は年間600~700人。男性が8割。死因は不明が63%、自殺が28%を占める。2019年で、全国の行方不明者数は8万7千人。高齢者の孤独死は年間約2万7千人に上る。自分の死についても考えさせられる。

記者の情報収集で、名もない行旅死亡人にも確実に存在した生があり、人生がある。その痕跡を追ったルポルタージュである。

本書は、2022年2月配信の47NEWS記事「現金3,400万円を残した身元不明の女性、一体誰なのか・前後編」の書籍化である。

前編は下記をクリック。

https://nordot.app/861908753767972864?c=39546741839462401

後編は下記をクリック。

https://nordot.app/861917205323988992?c=39546741839462401

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