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「日本人の賃金を上げる唯一の方法」

「日本人の賃金を上げる唯一の方法」原田泰著・PHP新書2024年2月発行

著者は1950年生まれ、経済企画庁出身エコノミスト、現・名古屋商科大学教授。岩田規久男とともにリフレ派の一人、バブル崩壊後、一貫して日銀の金融政策を批判してきた。

2015年日銀政策審議委員就任し、2016年1月マイナス金利に賛成、量的緩和策を支持した。2017年ヒトラーのケンインズ的経済政策を評価し、これがヒトラーを評価したと言われ、批判を受け、修正した。

日本は、賃金水準、一人当たりGDPから見て、先進国で最低レベルにある。賃金を上げ、経済成長するため、成長戦略や構造改革を実施すれば良いという議論が多い。

しかし著者は言う。「議論の中身は空っぽである。成長率を高める方法は、ノーベル経済賞学者でもわからない」と批判する。

では、どうすれば日本人の賃金は上がるのか?著者は言う。「高圧経済政策」を実施し、人手不足状態を創出させる。人手不足ならば、IT化も進み、規制緩和、ゾンビ企業の淘汰も直ぐには不要となるという。

「高圧経済策」とは、金融、財政政策によって圧力を加えて、経済を需要超気味に運営させることをいう。高圧経済が雇用の質の向上、労働技能の向上、資本蓄積を促進させ、経済成長を高める。即ち、経済の効率化を進めるという。

ロバート・ルーカス教授は高圧経済を批判する。高圧経済よる失業率の持続的低下はインフレを招き、結果的に無駄という。米国は高圧経済策を実施し、現在インフレ対応を実施中である。従ってインフレ抑制の効果が課題であろう。

著者は、円安は雇用を増大させ、円高は雇用を減少させるという円安論者。現在の円安悪者論を批判する。日本の経済低迷は1995年以後、相次いで発生した超円高の結果という。韓国はウオン安を活用して経済成長を成し遂げた。しかしその見方はかなり一面的である。

「なぜ男女の賃金に格差があるのか」でゴールディンは、原因を「貪欲な仕事」を求めるかにあるという。貪欲な仕事とは、不規則な日程、長時間労働を必要とする反面報酬の高い仕事・つまり管理職以上の仕事である。女性は結婚後、貪欲な仕事を避け、育児を選択する。結果、賃金格差が生まれる。

管理職の女性が少ない日本では当てはまらない。日本は多くの女性が非正規の職に就くためである。過去の日本で賃上げが進まなかった理由は男女とも非正規の増加にある。利益確保を人件費コスト削減に求めた結果である。

財政赤字、政府債務残高の経済成長へのリスクについては、債務残高の高低でなく、GDPとの割合で影響を判断すべきとの考え方は正しい。基本的に財政赤字、債務残高は経済成長を妨げるものではないからである。

日本の「税収弾力値」は1980年~1993年までは1.2、1995年~2023年までは2.4と言う。税収弾力値とは名目GDPが1%増加に対して、税収が何%増加するかを見る値。先進国の値は1.0から1.2である。

日本の値が高いのは消費税など増税の結果である。決して良いことは言えない。GDP成長で財政赤字を解消する理屈とはならない。しかし、成長なくして、分配もないのも事実である。その意味で、高圧経済も一定の効果は存在するとも言える。

アベノミクス支持者、リフレ派エコノミストのレッテル貼りだけで、その理論を批判するのではなく、その意見にも耳を傾けることは大切であろう。

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