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「日本製鉄の転生」巨艦はいかに甦ったか?

「日本製鉄の転生・巨艦はいかに甦ったか」上阪欣史著・日経BP2024年2月発行

著者は1967年生まれ、日経ビジネス副編集長。

日本製鉄は、鉄の国内生産シェア半分を占める日本最大手、世界では第4位の鉄鋼メーカーである。1901年創業官営八幡製鉄所の流れを引き継いだ八幡製鉄と富士製鉄が合併した新日本製鉄。2012年住友金属工業経営統合を経て、2019年社名変更したもの。全国に6か所の製鉄所を有し、従業員数7万6,000人の大企業である。

本書は、2018年3月期から4期連続赤字計上と低迷した日本製鉄が、2019年4月就任・橋本英二社長によるV字回復への戦記物語である。日経ビジネス特有の会社寄りPR「ヨイショ記事」もあちこちにみられる。しかし課題の深部まで踏み込んだ取材内容は秀逸である。

改革のポイントは国内高炉製鉄所による過剰供給と高コスト体質の改善にある。具体的に、5つの高炉削減、6エリア集約、32ライン休止の大手術。従来の大手需要顧客の「紐付き価格交渉」から価格交渉権奪還「値上げなくして、供給なし」の実行である。

この結果、2022年3月期2,500億円近く利益計上までV回復、筋肉体質企業に変革した。2019年にインド鉄鋼大手エッサール・スチールを欧州アルセロール・ミタル共同で買収。2023年12月には2兆円でUSスチール買収を発表した。新しいグローバル戦略である。

日本製鉄の世界戦略は、高炉による銑鉄製造、転炉による鋼製造、連続鋳造による半製品・スラブ製造までの「上工程」。そしてスラブを圧延し、コイルに巻き取り、表面処理する「下工程」の両工程を一体化、最終製品まで海外現地生産するM&Aにある。

それは粗鋼生産世界第1位の中国鉄鋼メーカーへの対抗、「鉄は国家なり」の復活、資源価格上昇への対応のためにも必要な戦略である。

それは巨艦と呼ばれ売上規模こそ大きいが、利益率は一桁にとどまる。体面、品位にこだわる「変われない大企業」からの脱皮である。

本書は、日経ビジネス誌2022年特集「沈まぬ日本製鉄」取材を基本にした単行本である。日本製鉄改革は他の日本企業のお手本ともなるだろう。日本の鉄鋼業の未来を考えるのにも参考となる。

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