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成長の世界システムが終わる!「戦争と財政の世界史」

「戦争と財政の世界史・成長の世界システムが終わるとき」玉木俊明著・東洋経済新報社2023年9月発行

著者は1964年生まれ、京都産業大学教授。専門は近代ヨーロッパ経済史。「手数料と物流の経済全史」などの書籍がある。

本書は、米国社会学者・ウオーラーステルがいう「近代世界システム」を出発点とする。「近代世界システム」とは16世紀ヨーロッパで誕生した各国がお互いに競争する中でヘゲモニー国家として経済を支配するシステムである。

近代世界システムとは「持続的な経済成長」を前提とする西洋による世界支配システムである。ヘゲモニー国家は公債発行による財政と戦争によって支えられている。それが可能だったのは西洋による未開拓地の拡大が可能であったためである。

現在その「未開拓の土地」がなくなりつつある。そのうえ、度重なる経済危機とコロナパンデミックで世界債務総額は増大、増税も困難、債務償還は持続的経済成長が前提である。世界は近代世界システムの終焉を迎えつつある。それは最後のヘゲモニー国家・中国のときかもしれない。

中世のスペイン、神聖ローマ帝国とは全く異なるヘゲモニー国家である。即ち、工業、商業、金融全ての分野で他を圧倒する。その最初のヘゲモニー国家は、1648年宗教戦争の30年戦争終結のウェストファリア条約で独立したオランダである。

次のヘゲモニー国家は、1815年ナポレオン戦争終結のウイーン体制後、フランスに勝利した英国である。英国は、18世紀後半から19世紀前半にかけた産業革命で、鉄道・蒸気船と電信の敷設で世界を支配した。現在のインターネットと同じプラットホームビジネスである。

第二次大戦後、世界を支配したヘゲモニー国家は米国である。米国は、プレトンウッド体制によりIMFと世界銀行を管理、国際機関と軍事力、経済力で世界を支配した。権力低下が目立ち、基軸通貨ドルによる支配が最後の砦となっている。

最後のヘゲモニー国家を目指すのは中国である。一帯一路でアフリカ、第三世界の「未開地の土地」拡大に必死である。同時にロシアとの連合およびIT技術、EVに将来を賭けている。

米国は半導体、生成AI技術で中国を追い落とそうと必死である。この勝負の焦点は「高齢化と人口減少」ではなかろうか?世界人口も減少、未開地の領域も減少している。

持続的経済成長は終わりが見えている。未開拓の土地も限界である。先進国は債務償還に成功するか?それが別れ道であろう。そのため、マイルドな物価上昇とGDP成長が、債務増大を防ぐ唯一の手段とする。

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