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「財政・金融政策の転換点」飯田泰之著

「財政・金融政策の転換点・日本経済の再生プラン」飯田泰之著・中公新書2023年12月発行

著者は1975年生まれ、明治大学教授。専門はマクロ経済学、経済政策。岩田規久男、浜田宏一らの影響を受け、デフレ脱却のリフレ派だが経済成長だけでなく、平等も大切として所得再分配論も重視している。

いま世界の経済政策は大きく変化しようとしている。日本の財政政策は政府支出を抑制的に、金融政策は財政政策とは独立して行うことが常識だった。二つの政策の実効性に疑問符が付き始めた。

GDP比250%の巨額な政府債務と低金利政策による財政規律を不安視される日本。この苦境をどう打開するのか?本書はその処方箋を提示する。

著者の結論を先に言えば、経済成長率を下回る低金利政策を継続維持すると同時に、需要が短期的な供給能力を上回ることによって、供給不足、労働力不足を顕在化する状況を作り出すことにある。

即ち「高圧経済」を作りだすこと。その結果、需要の圧力で、労働移動や生産性向上を促進させるという。その手段として、財政政策と金融政策の統一、一体化を図り、プライマリー・バランスの黒字化ができなくとも、少ない赤字幅で財政維持が可能となると言う。

その前提が財政維持条件である「ドーマー条件」の成立である。先進国において経済成長率は2000年代に入り、政策金利を上回る状況が続いている。今後も大災害が発生しない限り続くと予想する。

プランシャー著の「21世紀の財政政策」でも、低金利、高債務下の正しい経済政策はこの方法であると主張する。先進国においては今後も金利<経済成長率の状態が続く可能性が高いと述べる。

著者は日本において国債が暴落するような財政破綻は起きないと言う。更にハイパーインフレの発生は国債暴落以上にあり得ないと言う。

確かにその通りだろう。しかし財政健全化の道が未達のまま、財政支出拡大と金融緩和の低金利政策の両建ては、関東大震災などの大災害発生を予定に入れていない。災害発生大国日本では重要な課題である。

大災害に対する日本の財政基盤は弱い。財政的な弾力性がないことは大きな不安要素である。東日本大震災の被害額は20兆円弱。南海トラフ地震の被害額は220兆円、首都直下型地震は1,000兆円と言われる。30年以内に70%の確率で来る災害に備える財政準備は早急に必要だろう。

インフレ・ターゲットや量的緩和政策などの非伝統的な金融政策は、金融緩和が長期に及ぶという予想を作り出すことによって長期金利を引き下げる政策だという。

物価上昇率を引き上げるためには、自然利子率(物価上昇率を一定に保つ利子率→景気に緩和的でもなく、引き締め的でもない中立的な名目利子率)よりも利子率が低くなければならない。

だから、自然利子率がマイナスの時には金融政策ではデフレ脱却はできない。そのため、非伝統的な金融政策は、10年か20年のサイクルで好景気が訪れ、自然利子率が正になるチャンスを待つための政策だと著者は指摘する。

これは従来のリフレ派の主張とは全く異なる。同時にリフレ派の金融政策の限界を明らかにしている。リフレ派ながら、耳を傾けるべき主張である。

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