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「総理の影・菅義偉の正体」

「総理の影・菅義偉の正体」森功著・小学館2016年8月発行

著者は「同和と銀行」「泥のカネ」「悪だくみ・加計学園の悲願を叶えた総理の欺瞞」「地面師」など多くの賞を受けたノンフィクション作家。その地道な取材力は定評がある。

菅義偉は安倍首相後継の新総理。メディアで秋田のイチゴ農家から家出同様に上京し、苦学のうえ秘書から総理になったたたき上げ政治家と評判である。おかげで世論の支持率も高い。田中角栄の娘・真紀子は「安倍家の生ごみを処理するごみ箱の蓋」と評する。

著者の森功氏が菅義偉氏の過去から現在までの変質を的確にたどり、菅氏の正体・本質を明らかにした本である。菅義偉氏は1948年生まれの団塊世代。高卒後、東京のダンボール会社に就職、2年間の受験勉強で1969年法政大学に入学、1973年卒業。卒業後、小此木通産大臣の秘書から39歳で横浜市議会議員、48歳、1996年に衆議院に当選。時代は細川内閣崩壊、自社さきがけによる村山内閣が成立した2年後の選挙である。

安倍内閣では最長の官房長官の職務にあり、その手腕が評価された。その評価は正しいものだろうか?たたき上げ、泥臭い政治家として新潟の田中角栄と比較され、秋田の田中角栄という人もいる。

しかし政治家の性格は全く正反対。田中角栄はまだ貧困、弱者の視点があり、人の話を聞く。菅義偉は人を利用する対象としか考えない。菅義偉は秋田の田舎出身、東京に出て、戦後生まれの気質と高度成長の中で、農協組合長、村会議員の息子で育ち、二人の姉も教育大学を出て、教師になった家庭。集団就職の貧農出身ではない。メディアに創られた虚像である。

虚像が創られた理由は菅氏が竹中平蔵総務大臣当時に副大臣を務め、総務大臣時から官房長官時代のNHK国営化へ向けてのメディア支配の成果である。

政治家の特質は秘書官時代に育成したJR、私鉄、鉄道、不動産業界人脈、通産省官僚人脈、官房長官時代、記者に極秘情報を流して作ったマスコミ人脈、横浜港山下埠頭開発に繋がる倉庫、荷役業者人脈など官僚、財界、政界との人脈、ネットワークに権力の源泉がある。

権力と政策立案力の向上とともに政治と利権とのつながりが発生する。菅義偉氏の特徴は戦略家、参謀的能力。影として表舞台に出ない。別の人を使って水面下で政策を進める能力に優れている。裏の姿を見せない。沖縄基地問題、IR・統合リゾート問題も影の主役で動いた。権力獲得、ビジネス成立、利権への結合と暗闇の中でつながっていく。そこにはかなり闇の部分もある。

菅義偉氏は戦後生まれの団塊世代として徹底した合理主義者である。理が通じれば、必ず事が進むと信じる。バックボーンにあるのは新自由主義であり、市場至上主義である。その意味では遅れて来た小泉内閣に似ている。竹中平蔵氏との関係の深さもここにある。

スローガンの自助、共助、公助は資本主義の限界が見えてきた現在「最後の呻き」に近い。その呻きを合理主義の徹底によって乗り越えようとする。格差拡大は放置、社会保障は遠ざけるしかない。国民のために働く内閣の欺瞞性がここにある。そう考えるのは下衆の勘繰りか?

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