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べちょべちょなチロルチョコ

「このクラブのために全力でプレーします!」

気づいたら市民ホールの
ような場所で今シーズンの抱負を
なんでも自分はできるんだという
高揚感に包まれながら力強く話していた。

新体制発表会だ。

ファン・サポーターの前で
クラブの社長から強化部長、監督
選手などが今年の方針、そして
抱負を語る。

チームが一つになる
すごく大事な会。

中学生の合唱コンクール以来の
大勢の前でのステージだったが、
緊張より自分が本当にプロサッカー選手
になったんだという実感が強く
嬉しさを噛み締めていた。

新体制発表会が終わった後も
snsなどでたくさんのDMと
メッセージが来ていた。

こんなにも自分に期待してもらい、
応援してもらいこんなに素晴らしい
職業はそうあるものではないと
思ったし、全てをかけてこの人たちに
結果を出さなければならないと心に誓った。

そして人生初めてのシーズンが始まる。

今までのアマチュアの世界とは違い、
結果が全ての世界。
勝てば讃えられ、負ければ罵られる。

1試合、1試合がこんなにも大事なのかと
身をもって感じていた。

選手として1年目。
もちろんそう簡単には出させてもらえない。

僕はJ2からのスタートだったが、
今まで何年もプレーしてきたベテランの選手や
J1で結果を残してきた選手も当たり前のように
所属している。

試合に出られたとしても、メンバーに入ること
自体が久しぶりで試合感が薄れており、
自分のプレーが出せないことも多々あった。

それがベンチやバックアップメンバーの
難しさでもある。

大卒で即戦力で取ってもらってるとはいえ、
結界的になかなか出られない状況が続いていた。

もちろん、僕自身も人間だ。
お酒や女など遊びに走りたくもなり、
そういう時期もあった。

もちろんそれが自分にとってのプラスとなり、
サッカーにより一層打ち込めるメンタルを
整えるためのツールとなりうれば問題ない。

しかし僕に取っては罪悪感と、
コンディションが悪くなる一方であった。

でもそんな僕を見捨ててない小さな
サポーターが人生を変えてくれた。

いつものように練習場に行き、
トレーニングをしてクラブハウスに戻る。
いつもと変わらない日常と違ったのは
今日は練習公開日だった。

ファンやサポーターが練習を見にきてくれ、
練習後に選手はサインなどのファン対応がある。

多くの方が来てくださり、サインを求められ、
一言声をかけてくださるこの小さい
イベントは僕にとっては有り難かった。

そんなファン対応を終えて、クラブハウスに
戻ろうとしていたとき、1人の少年が
駆け寄ってきた。

クラブの小さい練習着を着ており、
スパイクと水筒、タオルを持って
早く練習したいと言わんばかりの
格好だった。

でもそんな格好でこんなことを言ってきた。

「〇〇選手、サイン服に書いて!
俺、ファンなんだよ!〇〇選手のプレー好き!
最近出てないから寂しいよ!頑張って出てよ!」

新人のあるあるが、イケメンとか
とても下部組織出身の選手でない限り
なかなか自分だけのファンというのは少ない。

チームで活躍している選手や
アイドルのような存在の選手のファンが
ほとんどである。
それは大人だけでなく子供も同じ。

そんな中、僕のファンだと言って
駆け寄ってくれた小さな少年に僕は
なんで僕なんだろうと正直少し疑問を抱いていた。

そしてその少年はおそらく30分〜1時間ほど
強く握りしめていたべちょべちょの
チロルチョコを話しかけてくれたと
同時に渡してきた。

僕はこのチロルチョコを今でも忘れられない。

こんな小さな子供がキラキラとした
目でこちらを見て、活躍してほしいと
食べたかったであろうチロルチョコを
渡してきた。

なんで僕はこんなところでくすぶっているのか。
悩んでいる暇はない。
どんな状況であろうとこうやって応援してくれる
人がいる、応援される立場にいる以上、

毎日を大切にクラブのため、そして
自分自身のために過ごしていかなければ
ならないと強く思った。

無論、その子供以外のファン・サポーター
が嬉しくないということでは全くない。
すごく嬉しかった。

でも純粋無垢な子供の言葉と
チロルチョコはすんと自分の身体に
染み渡るように入ってきた。

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物語のような感じでノンフィクション話を
書かせていただきました。
今回も読んでいただきありがとうございました。


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