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バニーと師匠(女装注意)

「先輩、着替えがこれしかなかったんですけど、これで働かせる気ですか?ボーナスは出してくれますよね?」

ダニエルの経営する喫茶店にて。
テオがバニーガールの衣装で出てきた。下はハーフ未満のズボンだが、ほぼ女装として作られたものである。
テオは制服は置いていけとダニエルに言われている。
なぜならダニエルがちゃんと洗ってくれるからだ。しかし逆に持っていく制服がないので、洗われているはずの制服がなく、代わりにメイド服などの明らかな女装服がハンガーにかかっているのだ。

「ボーナス…キスとハグしかないんですけどどっちがいいですかね?」
ダニエルは微笑みながら聞いた。これにテオが怒るはずもなく。
「どっちもいらないんですけど!給料上げろって言ってんですよ、この変態店主!!!」
「ということはついにテオも認めてくれるようになったということですね?」
どれだけテオが怒ってもダニエルは表情を崩さない。

「仕方なく、ですよ!全く人が良さそうにすればすぐ調子に乗って…!
これで仕事に出ればいいんですよね?!」
「ええ、そうです。テオは今日、夕方までですから、大丈夫でしょう?」
ダニエルもスタッフ――という名の後輩二人に勤務時間や帰宅時間に気をつかってはいるのだが、強引な部分も多いのは事実であった。
今は昼前。休憩も含めれば5時間ほどではあるのだが。
(5時間もこの格好かよ…!辛すぎるぜ)
と心の中では思っていたのだが、実際は
「ま、まあ。少しだけなら…」
5時間という時間は少しではないとテオにはわかっていた。それでもそう言ってしまったのは、ダニエルの優しさに弱いというのもある。
「よかったです!代わりに明日はお休みしていいですよ。ベルにもう仕事は頼んでありますから」
もう一人のスタッフであり、テオの幼馴染であるべルーチェにすでに連絡しているらしい。
「それに帰りまでにはティラミススフレ、食べていってくださいね。
キュール(氷室)にありますから」
「先輩…???」
自分の欲のためとはいえ、わざわざここまでしてくれていたとは思わなかったのだ。ダニエルは優しいことはテオもよく知っている。
「すみませんね。ま、本当は見たいのもありますが…貴方の制服に穴が数か所ありましてね。なので縫うのに時間かかりそうなので、2日間の猶予を勝手ながら頂いたというわけです」
脱いだ時は気づかなかったが、服を自身で作るダニエルのことだ。気づかなかった箇所に穴があったのだろう。
「まあ今回ばかりは許してください。では準備をしてしまいましょうか」
「はい。ありがとうございます、ダニエル」
珍しくテオはダニエルのことを呼び捨てで呼んだ。
親しい仲での感謝の現れでもあるのだ。
「ふふ、貴方もなんとなく成長してますね」
皮肉屋で気まぐれな彼ばかり見ている者が多い中、彼の本当の強さと人の好さをテオもべルーチェも知っている。
バニー衣装のままで、苦笑いをしながらテオは先輩とともに喫茶店の準備に取り掛かった。

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