2024年7月9日フィンランド1人旅【ヘルシンキ】

1日目

死にたい。
今までの人生を振り返ってもこれ以上がないぐらい、絶望した気持ちになったまま飛行機に乗っている。
東京に前乗りして遊んでた0日目。飛行機に乗る前に洗濯するかと上野のコインランドリーに入る。時刻は19:30。
飛行機の出発時間は21:50だから早くて1時間前に行けばいいだろとタカを括り洗濯機を回し始めた。
前乗りして遊んだはいいが、東京は暑すぎて何回も着替えてたから、準備していた服を何着か着替えていた。
洗濯している間は暇なので、なんか注意することあるかなと飛行機のことを調べる。どうやらチェックインというものがあり、出発の1時間前で受付終了とのこと。20:50。今から駅まで走って電車に飛び乗って20:45に到着。どうやら自分は窮地にいるらしく、コインランドリーを飛び出した。

揺られ揺られ、羽田第三ターミナル着。時間通りに動いてくれるJRに心の底から感謝した。
初めての羽田空港に目を配る暇もないまま受付まで一直線。残り1分だった。
勝手もわからないまま検査を通され続けて急に辿り着いたトランジット。
心の底から安心した。これが免税店かーなどとちょっと余裕が出来てぐるっと見回る。
そういやタバコって海外では高いんだよなと見回すと、セブンスターの4mgがカートンで安く売られていた。お前こんなところいたのか!
廃版になったと思ってたタバコを見つけた興奮と旅の勢いでカートンを買おうとクレジットカードを出そうとしたら無い。クレジットカードが無い。さっきまであったはずなのに。

搭乗ゲートが空く時間になった。あと15分の間に見つけなければならない。バッグの中身を全部出した。受付の人に確認しても届いてない。終わった。
フィンランドではJCBも使えない。もちろんお金も卸せない。
前日卸しておいたお金だけで、1ユーロ170円の世界であるフィンランドを10日間旅しろというのか。無理だ。本当に終わった。

恐らくこの飛行機に乗ったことがある人の中で、最も絶望してたと思う。飛行機はそんな自分を乗せて日本を飛び立った。

飛行機内でフィンランド人CAの方が話しかけてくるも、全くわからない。アナウンスも全部フィンランド語。なんとなくは本で言語を眺めた。けど全くわからない。一切何を言ってるのかわからなかった。

自分が座ってる窓際の三席シート、真ん中が空き、通路側に座っている女性がいた。名前は田代さん。彼女もフィンランド旅行を予定していて、ツアー代理店に応募していたらしい。9日間の旅。話を聞くと、どうやら息子さんが自分と同い年らしかった。事情を話したらなんて言えばわからないって顔になってたけど、
「なんとかなるって!」
みたいなことを言ってくれて、ありがとうございます。頑張ります。と返した。

修学旅行ぶりの雲の上。
これが旅に行くやつの気持ちかよ、と思い、切り替えようと映画を見たりはした。けど無理だった。雲の上で途方に暮れていた。

絶望している時に限って体感時間はいつもより早いスピードで迫ってくる。着陸残り1時間を切った。
降下し始めて、雲を抜けて見えてきたフィンランド。
全部緑色。
北極海から最南端にある首都、ヘルシンキ国際空港へ進む空路。上から見下ろすと緑ばっかりだった。サバイバルが頭をよぎった。
飛行機が空港へ降りた時、地面が湿っている事に気づき、そして、朝日で出来た虹が見えていた。感動した。蟲師を思い出した。
カードさえあれば興奮で上がり狂ってたのにな。

5:00
飛行機から降りてトランジットへ。アナウンスは一言もわからなかったし、一切わからない言葉を当たり前のように話続ける人と会話をしなければならない状態は外国に来たことを実感させる。
全然上手く使えなかったGoogle翻訳を使い、なんとか審査を抜けて出口に向かう。
荷物が出てくるところはなんて名前だっけかな。人が誰もいない。広いスペースに冷えた空気。自分の足音が聞こえる。異国で味わう別世界感。


終わりの始まり
どこが出口かわからなかった乗り換えゲート
何の受付か分からなかった入国審査


ポツンとした気持ちで出口を出ると、さっきまでの空間が嘘のように賑わっていた。
フードコートがあったり、コンビニみたいな所があったり。もしかして、もしかするとJCBは使えないかと、試しに商品を持っていくもレジで弾かれる。絶望。
とりあえず煙草を吸いに行くかと外に出たら、冷たい風と眩しい朝日に浴びてハッとした。
さっきまでいた日本の真夏の空気から、4月早朝ぐらいの気温に急に移り変わる時ってこんな感じなんだろうな。空気が澄んでる。綺麗な朝。デカいゲート付近では、これから旅に出ていく人や迎えに来た人たちが目の前でお互いの家族やパートナーと抱きしめあっていた。


空港内喫煙所
モンスター400円
レッドブル600円と400円


兎にも角にも行動しよう、まずはヘルシンキに行く。その時財布にあったお札を全部換金した。100€ぐらい。先ほど行った店で大体の値段を眺めてたから感覚はわかる。このユーロ札を受け取り、少なすぎてまた絶望した。
ここの電車の中枢はVRという会社が運営してる。地下鉄へ降りて行って、電車に乗ろうとチケットを買おうとするも、買えない。現金はお釣りが出せないからか、丁度じゃなきゃ受け付けない。
お札を崩すためにまた地上へ上がり、一本2.75ユーロのレッドブルを買う。残り97ユーロ。不安しかないこの先。
早朝でも結構な頻度で電車が入ってくる地下鉄。
静かな車内に乗って地下から地上へ。
見えてきたのは林と住宅街。あまりの田舎に既視感を覚える。
いわき駅から上りの電車乗る方が街感あるぞ。
本当にこれ首都向かってるのか、と思いながらヘルシンキへ。


外へ降りると半袖だとちょっと寒いぐらいの気温。
ここが本当に首都の駅…?と思いながら電車を降りてGoogle マップに従い歩くと、首都駅前広場に到着。THEヨーロッパ。建物が全部洒落てる。
石畳や、所謂ヨーロッパの建造物から伸びる雑誌やテレビの世界を抜ける。まずやること。「日本大使館へ行く」。悲しすぎる。


後に何度も歩くことになる通り


場所を確認。
9:00からなのでそれまで街をぶらつく。
地球の歩き方にも書いてあったマーケットや海を眺めても、どうしてもカードの事が忘れられない。
日本大使館が開き、すぐに尋ねた。結論を言うと全くといっていいほど参考にならなかった。

終わった。

本当に希望が潰えた。国際電話を調べ、カードを止める手配をお願いしたところ、こちらでは使われた形跡はないとのこと。安心しつつも、何度探しても見つからなかったカードを止める選択肢に打ちのめされたまま止める手続きをする。

今どこの国にいらっしゃるんですか?
フィンランドです。
あっ、あ〜わかりました
みたいな会話を電話口で話した。

このままだと本当に死ぬかもしれない。
何か別の手を探そうと検索する。
クレジットカード カード無し 
みたいに打ってた気がする。

すると出てきたのが、カードなしでウォレット作成出来る電子カードの存在。もうこれしかない。
藁に縋る思いで審査登録した。そしたら割とすぐ使えるようになった。
え?これ本当に使えるの?という疑問から、恐る恐る世界遺産らしき建物の目の前に出てるマーケットでビールを頼む。プリーズ!プリーズ!ディス!
みたいなこと言って、タッチすると支払いが完了。グラスに注がれたビールを手渡される。
信じられない気持ちと歓喜の気持ちが湧いてくる。フィンランドに到着してからその時までで7時間経過。不安と絶望が消えたその瞬間を、青空の下、思いっきりビールで流し込む。

ノンアルだった。

けど、人生で1番美味いノンアルビールを飲んだ。
もうそこから旅の巻き返しである。全てがカラフルに見えてくる。空、こんなに青かったっけ?とか思っちゃう。酒を買って浮かれたままヘルシンキを歩いた。



前もって予約したホテルへ行く。二人部屋。
全く知らない人と同じ部屋で大丈夫かなと思いつつチェックイン。相部屋の人は荷物をそのままにどこかに出かけてるのを見るに、なんか大丈夫そうと思う。
外に出てタバコを吸う。フィンランドは、室内は完全禁煙だが、外は禁煙不可スペース以外どこでも吸っていいらしく、灰皿がたくさんあった。外でタバコを吸ってると、ピザの箱を持ったおっさんが挨拶してきた。helloと返す。
何か話しかけてくるが一切分からないので、アイキャントスピークイングリッシュアンドフィンランドと返す。
オーイエス!みたいなこと言ってたかも。
思い切って声をかけた。
プリーズ、テークユアピクチャー?
おぉおぉ、イエス。
ここで良いかな、みたいに目の前に駐車されてた車のそばに立った所を撮らせてもらった。
そしたらピザを一切れくれた。めちゃくちゃ美味かった。オリーブとチーズと黒胡椒。
サンキューベリーマッチ!と伝えた。
返事は返ってこなかった。

ヘルシンキを歩き続けた。すごく綺麗な街。
天気が良いというのもあるけど、みんなが楽しそう。どこを見ても絵になる街で、どこまでも歩き続けた。世界遺産、観光名所、おばちゃんたちが一服してる路地裏、海沿いのヨットハーバー、映画のロケ地。

初日の宿「ユーロホステル」
かもめ食堂


有名な図書館


街を歩き続けた。初めて歩く道しかないところを歩き続けることはワクワクする。
夕方頃、ジャズライブを開催していたバーを横目に歩き続けると歓声が聞こえてくる。サッカーのユニフォームを来た数百人はいるであろう集団だった。周りの人に声をかけて聞いてみると、どうやら今日からフィンランドカップという、国の代表のユースチームが大会を開催するらしい。
やっぱりヨーロッパってサッカー凄いんだな。
ちょっと眺めた後にまた街の中心地に戻る。

写真を撮り直し歩くこと数十分。また歓声が聞こえてきた。さっきのサッカーの群衆だった。
その集団は、街の中心地である石畳を闊歩し、声を挙げて行進していく。街を走る鉄道列車トラムは止まり、タクシーはやれやれ、といった顔で渋滞。その様子を携帯やカメラで撮影している。
ふと時計を見ると、その時点で21:00なのに、夕方になりかけぐらいの明るさ。変な感じ。

その集団は世界遺産の目の前で集合した。
どうやらユースチームの世界代表戦がヘルシンキで行われるらしい。
自国の紹介がされる度に湧き上がる歓声。1つの祭典に遭遇した。
フワフワとした足取りのままユースホステルに向かった。

部屋に戻ると、青年が部屋にいた。軽く挨拶をし、名前を聞くとエヌイックという。ストックホルムから旅行に来てるとのことだった。こっちも軽い自己紹介をして、シャワーを浴びに行った。羽田から汗だくで飛行機に乗ってから一度も浴びていないシャワーは本当にスッキリした。
洗濯機を回し、その日撮った写真を眺めてて思ったことがある。

人と人の関係を撮りたい。
恋人、親子、友人。そこで過ごす人たち。
この旅で撮るには自分にとってこれが1番の答えなのかもしれないと思った。
日本にいる時にテーマや意味を考えたりはしてた。なぜそのテーマに行き着いたのか深くまでは文字化出来なくて、ざっくり箇条書きに書いただけだし、それをどんな画で、どんな写真を使って表現するかも浮かんでいなかった。

ただ、大まかに決めただけだからそれがどう自分の中で繋がっていくかはわからない。
元々観光名所や美味い飯を食べたいのではなくて、知らない国をブラブラ歩いたり酒を飲んだりするだけの旅行だし、思い付いたら撮るぐらいで合ってるかなと思った。
撮りたいテーマが決まってくるとやる気が出てくる。
とりあえず人と関わってみよう。あくまで観光客で、拒絶されても仕方ない。
果たしてこの旅の最後までにどんな出会いがあるのか。どんな事が起こり、何を考えて地元に帰るのか。

早く洗濯物終わらないかなーと思ってベッドに横になったらいつの間にか寝てしまっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?