手紙

靴を脱いでフラッシュバックする光景にぎゅっと目をつむる
尋常の生活の中にどうしようもなく地雷が紛れている
傷というのはつけることに意味があるのであって
実際血の流れるのは心の方なのである
血液の川は濁流を為し
それはとっくに茶色に黒にくすんでいるというのにいやにみずみずしく
花は咲く、川辺に咲く、咲き誇って生命らしく大声を上げて笑い
私の耳には冬でも夜でも
塞いでも花の声が聞こえてくるのである
うまいなあ 完璧でしたよ。 あの筆致

手紙一枚でここまで人のことを傷つけられるのだから
あなたは作家にでもなった方が良いのでは
もしくはカウンセラーにでもなって
こういう嫌な人間を生み出す工場として
その名を賽の河原に轟かせて呪い殺されたら良い
ああもう、十一年経つのに
記憶の中にいる人間って呪い殺せるんだったか
髪とか爪とか必要になったとして
平然としてあなたのことを収集できる自信なんかないな

ああ 眠るか
おまえのせいで、夢を見るための手段に成り果ててしまった眠りを
いま私は押しつけがましくまた振りかざしてみる
(手紙の中の文字から飛びだしてきた
あの呪いのなんと熱かったことか
いまだって新鮮に驚いている)
夜が更けていくのをまったく他人事のように感じている

取り返しのつかない物事っていうのは世の中にいくらでもあるが
ああそのうちの最上だ
あのころのあなたからのひどい仕打ちは
私のことをまったくに変形させてしまった
死んでしまった子どもにもなれないで
自分が生きているってことが
恥ずかしいくらいに綺麗になってしまった四季の中

自分で自分を抱きしめようとするたび
ひらく傷口を縫えないでいる
詩を書いてみるたびに傷ついて
手紙 手紙は風化してくれないけれども
生きていくしかないってことでしょう
(花が歌っている)

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