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詩『万華鏡』

ない宇宙のない星として

存在していたことがある

高熱で融かされるのはすごく気持ちの良いことであった

身体をうしなうって根源的に美しかった


と今になってからは思う

ずたずたのランドセル

引きずりながら合唱祭の

うたが何に決定したのか予想してみる

たぶん、わたしが投票しなかったほうの曲に決定したんだろう

みんなで声を合わせ

事故に遭う

天文学的な

音波さえ残らない事故に

幸福なことだ


皆は、幸せが欲しくないのだろうか

言いなりになって幕が閉じる

生の

瞳に嫌な気持ちにならないのかな

充足には同時に喪失感が伴う

空白の喪失に耐えうるもののみが

満たされていられて

平気な顔をしてかたちを

保ち


チャイムが聞こえる

わたしの学校からなのか

それとも来年から通う中学校から聞こえてくるのか

何度きいてもわからなかった

身体は

変化を強制され続けている

はやく、あなたのための遺骨になりたい


幼い頃

万華鏡の中身は

おおきな星に潰されて

幸せになれたにんげんの欠片の寄せ集めだと思っていた

どこへだって持ち歩いて

のぞき込んでいたけれど

恒星が爆発して死ぬって絵本で読んでから

それが間違った解釈なのだと知った


母の葬式の翌日に

望遠鏡で太陽をのぞき込むと

合唱祭の日の光景がきこえてきた

たちまち空に墜落して身体が痛む

なにも失った気はしなかった

あの懐かしい宇宙に

帰ってきたというだけだったから

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