疵羽根の鳥

 西のかなたから疵のある羽根の鳥が飛んできた。鳥はうまく飛べないので、ときおり右に左に蛇行しながら、苦し気に息を吐いていた。鳥は飛ぶように駆けたかったが、なにしろ羽根が疵ついていたので、人間がかたわの脚を庇うようなやりかたで羽ばたくしかなかった。鳥は振り返らずに飛んでいた。鳥はまもなく闇色の太陽がおのれの羽根を焼くことを知っていたから、ひどく急いていた。闇色の太陽は重く腫れぼったい手を伸ばし、疵羽根の鳥にけだるい吐息でささやきかけた。鳥はぐんぐんスピードを上げて闇色の太陽を引き離そうとした。まだらに剥げた羽根が小さくきしみをあげた。闇色の太陽は少し笑って、長い長いその腕で疵羽根の鳥を包み込んだ。鳥は音もなく地に落ちた。銀色の月が目を細めてそれを見ていた。銀色の月は疵羽根の鳥を空にかえしてやりたかったが、いつか闇色の太陽に手ひどく痛めつけられたときのことを思い出して、とっさに手を伸ばすことができなかった。だから少しだけ身をふるって、疵羽根の鳥に光を届けた。地面に散った細い羽根の一枚一枚が、淡い光をはじいて雪のように笑った。銀色の月はそこでようやく、鳥が真っ白な羽根をしていたことに気がついた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?