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「国産小麦」の特徴 ~外麦との違いや品種の特徴を解説~

普段何気なく利用している街のパン屋さんで「国産小麦100%使用」「国産小麦で安心・安全」というようなフレーズを見かけることもあると思います。

今回は、国産小麦の特徴や国産小麦を選ぶ理由、パン作りにお勧めの品種の解説まで、詳しく紹介していきます。

1.国産小麦の実態

まず現在の国産小麦を取り巻く実状からお話したいと思います。
日本では2011年頃から「パンを購入する金額」が「米を購入する金額」を上回り始め、その差は年々広がりつつあります。

日本人にとって文字通り生活必需品になっているパンですが、小麦の食料自給率は約15%(*2017年度・農水省データより)ほどしかありません。
しかもパン用小麦に限るとなんと約3%と、ほとんどを輸入小麦に頼っているのです。

気候風土の問題で、日本は元々小麦の生産に適してはいません。
北海道は比較的小麦の生産に向いた気候で、国産小麦の大部分は北海道で生産されていますが、温暖化の影響もあり、残念ながら増え続けるパン需要をまかなえるレベルの安定供給には達してはいません。

それでも近年は品種改良や、本州各地における「地粉」を活用して地域を盛り上げる動きもあり、少しずつではありますが「国産小麦」をアピールする場は増えてきていると感じます。


2.国産小麦の「安全性」

冒頭にも記しましたが、パン屋さんが「国産小麦100%で安心・安全」とうたっていることがしばしばあります。
これは単純に「国産」とか「地産地消」という良いイメージをアピールしているのではなく、ちゃんとした理由があります。

それは「ポストハーベスト農薬」の問題です。
ポストハーベスト農薬とは簡単に言うと、収穫(ハーベスト)された後(ポスト)に散布される農薬のことです。
通常、収穫後に農薬を散布する事(*)は法律で禁止されています。
しかし輸入小麦にはこのポストハーベスト農薬が使用されていて、これが「国産小麦=安心安全」の根拠になっています。

(*「農薬」とするのか「添加物」とするのか等の詳細な区分があります。)

使用されている農薬の「グリホサート」という成分が、2015年にWHOの専門機関によって「発がん性物質」に分類されたため、世界各国では使用削減・禁止に動いている、という背景があります。
厚生労働省の検査ではアメリカ産、カナダ産の小麦の90%以上からグリホサートが検出されています。(=ポストハーベスト処理を行っている国)
国産小麦からはグリホサートは検出されませんでした。


3.小麦の品種の違い

ここまでは国産小麦の希少性と安全性についてお話させて頂きました。
ここからは国産小麦の品種について解説していきたいと思います。

ちなみに「国産小麦の品種」って、どれくらいご存知ですか?

お米の品種、と聞かれたら結構答えれると思うんです。
「コシヒカリ」「あきたこまち」とか、私の地元なら「ヒノヒカリ」。
でも小麦の品種って、ものすごくマイナーですよね(笑)

小麦の品種を見るときのポイントは2つあって、
・「食味」=食感+風味
・「製パン性」

になります。

①小麦の品種による食感と風味の違い

意外と知られていない気がするのですが、パン作りにおいてレシピが同じ(*)でも小麦が変われば仕上がりは大きく変わります。
「パン」は小麦の配合量が一番且つ圧倒的に多いので、当然といえば当然です。

小麦の風味を強く感じられるもの。
ほんのり甘みを感じるもの。
もっちもちに仕上がるもの。

様々あります。
文字通り「十麦十味」です。
食側の方でしたら、パン食の一つの楽しみになると思いますので、是非ご自身の好みの小麦を探してみて下さい。

(*小麦が変わると水分量と製造工程の微調整が必要になることはあります)

②製パン性:単一品とブレンド品

流通・販売されている国産小麦は「単一品種のもの」と「二品種以上のブレンド品」とに分かれます。

単一品種のほうがその品種の特徴(風味・食感)が強く出ますが、一方で「製パン性の不安定さ」というデメリットがあります。
製パン性は小麦のたんぱく質(=グルテン)によって大きく左右されます。
国産小麦は外国産小麦と比べて、元々製パン性は悪いといわれていますが、単一品種の小麦はさらに「毎年の小麦の出来具合」によって、年によってはかなり大きくブレます。

よって作り手側の視点でいうと、製造担当を雇っているお店では「商品の品質の安定化」の敷居が高なってしまうため敬遠されがちです。
いわゆる「一人親方のお店」向けになります。

個人的には、むしろ安定化等は考える必要がない「究極の趣味」として、ご家庭でパン作りをするような方にあえてお勧めしたいところです(笑)

ブレンド品は、このデメリットをメーカー側(製粉会社さん)の努力によって解消されている品、ということです。
国産小麦を新たにトライされるような方には、基本的にはブレンド品を私はお勧めしています。

ちなみに、同じ品種の小麦でも、製粉会社さんが変わると、味も風味も食感も微妙に変わります。
それくらい国産小麦はデリケートです。


4.お勧めの国産小麦5選

ご家庭でのパン作りで「小麦にこだわりたい人」向けに、私のお勧めの国産小麦を5種類紹介したいと思います。
ホームベーカリーの全自動で食パン作りをする場合、水分量の調節が必要になるものもありますのでご注意ください。

*画像データは「日本の麦の力」さんより頂いています。
記載の灰分と蛋白質は収穫年度によって変更されることがあります。

1.春よ恋ブレンド(香麦)

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春撒き小麦「春よ恋」をベースに、主として「きたほなみ」がブレンドされています。
春よ恋は北海道産小麦が持つ「小麦の味・風味・もちもち感」の特徴がバランス良く出ます。
且つ、作業性にも優れていて国産小麦の中ではかなり扱いやすい部類です。
水分量60%後半でも扱いにくいという事はないと思います。
食パン、菓子パン、ハード系、配合によってなんにでも合わせられます。

今まで外麦でパンを焼いていて、初めて国産小麦に挑戦する方にはまずこちらをお勧めします。


2.はるゆたかブレンド

はるゆたかブレンド

「ハルユタカ」をベースに、主として「きたほなみ」がブレンドされています。
味だけで言うと「春よ恋ブレンド」のほぼ上位互換です。
ただし、ブレンド品でありながら若干の扱いにくさがあり、収穫年度によって品質のブレがあることもあります。
焼き上がりがうまくいかない場合、水分量を一般的なレシピより約5%ほど差し引いてください。

小麦の風味が非常に良いので、食パンやフランスパン等「リーンなパン」作りにお勧めです。


3.ゆめちからブレンド

ゆめちからブレンド

「製パン性が最も外麦に近い」国産小麦です。
ホームベーカリーの自動焼き上げをする場合、蓋を押し上げるほど窯伸びしすぎる事がある為、分量全体を少し減らしたほうが良い場合があります。

上記春撒き小麦2種に比べると、小麦の風味の点で少し劣ります。
外麦と比べると、もちもち感がアップします。

どちらかというと「リッチな配合のパン」に向いています。
昨今人気の「生クリーム入り食パン」を国産小麦で作るなら、ゆめちからブレンドが断然お勧めです。
又、自家製フルーツ酵母等の「酵母の特色を出したい」パン作りにも向くと思います。


4.ミナミノカオリ(単一)

南のめぐみ

主に九州や西日本で栽培されている「ミナミノカオリ」の単一品です。
ミナミノカオリの最大の特徴は「歯切れの良さ」で、軽やかな小麦の風味と食感を表現できます。

食パンももちろん焼けますが、個人的には菓子パンかハードタイプのパン作りにお勧めです。
一般的なレシピより、若干水分量を減らしたほうが良いと思います。


5.ナンブコムギ(単一)

南部小麦

「小麦の風味」が非常に良い、主に東北地方で栽培されている「ナンブコムギ」です。
「素朴なパン本来の味」を強く感じることが出来ます。

難点は「非常に扱いづらい製パン性」で、上級者向けの小麦と言えます。

単一のまま使用する場合、基本的にハードパン向けです。



以上が主な国産小麦の紹介になります。

パンは本当に文字通り「十人十色」。

小麦の品種を変えるだけでも、仕上がりは大きく変わります。
如何にコントロールするかは、パン作りの楽しさの一つだと思います。

興味を持って頂けたら、是非ご自身で色々試してみて下さい。
お店を探して食べ比べてみるだけでも、面白いと思います。
「パンライフ」をより良く拡げて頂ければ、幸いです。

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