横浜駅

階段を降りていた。
駅のホームに続く階段を。
色々なことを考えながら。
いつも履いている厚底の靴で降りていき、無事にホームに辿り着くとホッとする。今日も何も起きなくて良かった、と。
階段に近づくといつもいつもわたしは途中でこけるんじゃないかとか、こけて大怪我をして救急車で運ばれる事態になってしまうんじゃないかという心配で頭がいっぱいになりソワソワしてしまう。
だがこんな日もある。
階段に向かう連絡通路で、わたしはレディーガガを聴きながら自信たっぷりに歩く。そうするとわたしの周りにはネオンが発生して、無敵になれるのだ。
服も化粧も髪型も完璧。誰もわたしに勝てるものはいない。
そんな日は、階段も堂々と降りていくことができる。失敗のビジョンなんてない。レッドカーペットを歩くように、一歩一歩上品に足をつけて。
そんな日もあるのに。
8月と9月の境い目あたりで、わたしは1年くらい続いた彼氏と別れた。ろくに恋愛という恋愛をしてこなかったわたしが、初めてちゃんと付き合った人だった。原因は向こうにある。所謂クズだったのだ。わたしが愛想を尽かして別れを切り出した。結果、特に激しい口論にもならず「そっか。それなら仕方ないね。」みたいな感じで話は終わった。なんだそれ。ってわたしは思った。別れたくて別れたのに、いざそうしてみたらモヤモヤした気持ちで、ここ数日間わたしの頭の中は彼の事でいっぱいだった。
今日も階段に向かっている。服は家を出るギリギリまで決まらなくて妥協で手に取った大きな厚手のTシャツ。9月なのに真夏みたいな天気だからこうなったのだ。荷物が多かったのでイヤフォンは付けず、何も聞かないで歩いていた。連絡通路は人が多くて避けるのに必死。しかも今日は突進してくるタイプの自我が強い人が多くて、わたしの精神的HPはじわじわと削られていた。
頭の中では、妙にリアルな声が勝手に喋り出す。変なF1が過ぎ去る時の音みたいなのも一緒にくっついて。うるさい勝手に喋るな左耳のすぐ側で話し続けるな。わたしの脳みそで生成された言葉なはずなのに、思ってもない事ばかり流れてくる。
人波を掻き分けて階段に辿り着き、いつもの厚底の靴で降り始めた。
一歩ずつ慎重に、だけど平静を装って。
今日もあともう少しで無事にホームに辿り着ける、その兆しが見えて安堵した途端、靴は階段を踏み外しわたしは派手に崩れ落ち、バラバラに砕け散ってしまった。 

2017/9/16

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