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web二次小説の世代と集団

 本稿で扱うのは「web小説の歴史」なのだが、これは範囲が広すぎるテーマである。
 よってその中でも特に「二次創作」、
 本稿は「ハーメルンへの連続性」を前提として、web小説としての二次創作の変遷を追っていく。

根幹はこの3サイトに見られる強い連続性であり、そこから逆算していくような形。
前半はほぼなろうで書いてたものの整理。

 ハーメルンは現在に至るまで男性比率9割、かつ長編向けの構造を持つweb小説投稿サイトであり、そこから外れた内容、同人であるとか2ちゃんねる等の掲示板系SS、女性向け的なものなどはこれを扱わない。


用語 「FF」「SS」「二次創作」

 FFは「ファンフィクション」の略であり、英語圏で利用されていたものをそのまま持ってきた形となる。
 かつての「エヴァ」「ナデシコ」系など、2000年代初頭頃までの個人HP系においては主要な語であったが、かなり早期に廃れた。
 ただ小説家になろうに関しては、2010年08月まで公的に用いていた表現でもあり、二次創作管理キーワードのFコードもここに由来するものと思われる。

 SSはエロゲ系の公式サイト掲示板の影響が大きいかと思われ、そこでの表現を用いるなら「即興小説」「ショートストーリー」、あるいは「サイドストーリー」あたりでイメージしてほしい。
 00年代の間にFFという表現を駆逐し、2010年代初頭に至るまで、最も一般的に用いられたweb小説を指す語と言える。
 ただ「SS投稿掲示板」のArcadiaまではさておき、小説家になろう・にじファンにおいては一切用いられなかった表現であり、その後のハーメルンでも公的に「SS」と表記される場所はかなり限られた。
 2010年代を通じて、その利用は2ちゃんねるニュー速VIPを中心とした掲示板系SSの集団に限られていき、世代によって認識が食い違う面を持つ語でもある。
 投稿サイトの集約化が完成した現在では、作品へのアプローチもサイト内で行えばよく、「原作名 + SS」という検索行動も稀なものとなった。

 二次創作という表現については、小説家になろうでにじファン開設以降の流れと言えよう。
 単に二次創作だとあらゆる表現媒体を含んでおり、本来使いづらいはずの語だが、小説専門のサイト内での区分法として用いることが増えたという形になる。


1990年代

 windows95発売などを通じて、最も初期のインターネット空間が形成されていく。
 古い時期であるほど通信の容量は厳しく、ファン活動も「小説」のような、文字媒体に限られざるを得なかった。
 著名な原作としては、1995年放送の「新世紀エヴァンゲリオン」や1996年放送の「機動戦艦ナデシコ」など。
 ただまだまだ人口的に極めて稀薄、かつ制限が多かった時期でもあり、こうした90年代作品であっても、ピークを迎えていくのは2000年代初頭頃となる。


2001~2004年頃 個人HPが散在

 2001年はブロードバンド元年とされるが、定額化・常時接続化を背景として、インターネットの家庭向け普及が大きく前進。
 web小説では個人がホームページを開設し、それを「リンク集」ないし「サーチサイト」に登録する、という活動が最も盛んに行われた時期にあたる。

どちらも2002年あたりから傾きが急に。
最盛期は日間トップページアクセスで2万ほどか。

 数字で追える範囲では、この2サイトが最も大きなweb小説の集団だったと言えるだろう。
 かのんというのは「kanon」であるが、2002年度はエロゲ販売本数が最多を記録、かつインターネット利用はPCが大前提という時期でもあり、プレイヤー密度も高く、エロゲは極めて強い影響性を持っていた。
 小説大好き!の方は個人HP多数を繋ぐ、総合的な更新通知サイトであったが、その分類は「エヴァ」「二次創作」「オリジナル」というもので、当時のエヴァ二次の存在感が窺える。
 エヴァ二次に関してはとにかく中小サイトの散在傾向が顕著で、これ以外の主要サイトとしては、Arcadiaで運営されていた捜索掲示板、2ちゃんねるのエヴァ板(死語ではあるが「高CQ」「最低系」などはここ由来)あたり。
 これら以外では2003年末時点までにトップページアクセス1000万超のサイトとして、ナデシコ系の「Action」とGS美神系の「夜に咲く話の華」が挙げられ、メール投稿により作品を集めるという形で拡大を遂げた。

 この時期の長編創作において、主要な要素として挙げられるのが「逆行」だ。

世代差が強く出る形だが、「Kei・Tactics」などはその限りでもない。
こちらは逆行を絡めない魔改造、またそのクロス的な傾向が強い。

 経験を積み、ある程度の未来知識を得た状態の原作主人公を作品開始時点などに遡行させる、という形が基本となる。
 周回特典じみたものを持たせる場合もあり、見知った状況からの無双や鬱展開の打破など、原作沿い長編を描くのを容易とするギミックであったと言えよう。


2004~2008年頃 原作ごとの集約化

 時代が進むと、個人HPを開設しリンク集に登録する、というような活動形態は下火になっていく。

少なくとも「男性向け」的な場においては。

 実際のところ、個人が自分でHPを開設するというのは知識が必要で労力もかかり、そこから他所のサイトへ相互リンクを認めてもらうように営業を行い、それでいて人は訪れるとも限らない、というものである。
 新たに出現したブログサービスを用いる人もいたものの、web小説の活動の中心は、主に「投稿掲示板」を有するサイトへと移行していき、原作を基本単位とするユーザーの集約化が進行した。

 その主要な例として挙げられるのが「Arcadia」である。
 特に2004年04月末の「全自動月姫」掲示板群閉鎖に際しては、「Fate/stay night」二次投稿の中心と化し、日間トップページ5万ほどと、当時最大のアクセス数まで成長。
 その後も「マブラヴオルタネイティヴ」や「恋姫†無双」など、主にエロゲ系二次を中心とした、web小説の場を形成した。

 また08月には先述の「夜に咲く話の華」が閉鎖され、複数のGS美神系後継サイト群が成立。
 その中でも特に「Night Talker」は原作を問わない投稿掲示板を運営し、2000年代半ばの有力サイトの一角となった。


 話を2006年へと移すが、この年起きた大きな変化としては、「ネギまのベル」におけるクロスオーバー作品の禁止化であり、その後そう間を置かずサイトの閉鎖に至った。
 2005年にアニメが放送された「魔法先生ネギま!」二次は、急速に人口が膨れ上がっていた時期にあたる。
 これまで見てきた二次創作というのは、90年代原作であるとか、18禁PCゲーム作品であるとか、必然的に高い年齢に寄りがちな集団であったのに対し、こちらはかなり若年層に寄った、明確に「世代が違う」集団形成が進んだ例と言えよう。
 01月のクロス禁止化翌日には、移転先として「投稿図書」が開設されたのだが、作風面においてもこれまでとは違う展開を見せていくこととなった。

「とらハ」は検索が溢れたので、「オリ主 なのは」を使用。
00年代だと原作集団による差異は極めて大きく、前世代から嫌悪された存在と言っても過言ではない。

 現在に至るまで男性向け長編二次創作の主要ギミックとなっているのが「オリ主」であるが、この語は投稿図書において表記義務化され、特にネギま二次から波及していった要素と言えよう。


 続いて2007年、この年に起きた大きな変化としては、アニメ第2期が放送された「ゼロの使い魔」と、アニメ第3期が放送された「魔法少女リリカルなのは」で、二次創作が急激に膨張していったこと。
 前者は2ちゃんねる及びそのまとめwikiを中心に展開し、「ゼロの奇妙な使い魔」「あの作品のキャラがルイズに召喚されました」スレには、多数のクロスオーバー作品が投稿されていった。

「ゼロ魔のクロス」といった場合はまずここを指す。
にじファン上位層などはほぼ完全に転生オリ主が占めるもので、集団としての差異が大きい。

 ここまで大規模ではないものの、なのはでも同様に「リリカルなのはクロスSSスレ」が運用されていた。
 ただなのは二次に関しては、2001年「とらいあんぐるハート3」時代の個人HPも残存しており、「PAINWEST」「生まれたての風」が比較的大規模ではあったものの、全体としては中小のサイト多数に散在という傾向が強い。


2008~2012年頃 単一サイトへの統合

 2000年代web小説事情における最大の転換点となったのが、2008年という年である。
 それまでは原作を基本単位とした中規模サイト群が並立、大きくても日間トップページアクセスで2万5000~3万ほど、という環境が形作られていたのであるが、状況は激変。
 あらゆる投稿・閲覧活動が「Arcadia」1サイトに集中していき、それ以外のサイト群は急速な縮小を見せることとなる。

点は2008年07月。
「ネギま SS + ネギま 小説 + 風牙亭 + 投稿図書」のような形で合算したGoogle検索量による比較。

 わずか半年の間にArcadiaのトップページ日間アクセス数は15万近くまで膨れ上がり、以後2010年初頭頃までにわたって、国内最大のweb小説の場を形成した。
 大量のユーザーが流れ込んできた状況にあっては、作風もそちらへと入れ替わっていくもので、原作単位では主人公の逆行・魔改造的内容を残しつつも、総量としてはオリ主が支配的になっていく。

 特にこの時期を通じて爆発的に増加したギミックが「転生」であり、オリ主を原作世界へ導入する便利要素として普及を遂げ、オリジナルにも波及していくこととなった。

Arcadia SS Database参照。TSが大好きなことだ。
Arcadiaで言う「PV」は第0話部分を踏んだ回数であり、仕様が根本的に異なる点に注意。


 その後2010年に進行したのが、web小説の場の中心がArcadiaから「小説家になろう」へと移行していったこと。

突き出た部分は鯖落ちのタイミング。

 なろうは2009年09月30日リニューアルにより、お気に入り登録を通じた更新通知機能など利便性を大きく向上、より便利なサイトへとユーザーが移動していった形となる。
 2010年前半には新規投稿作品に占める二次創作比率が最大化、08月に「にじファン」を開設して検索機能を分離した。

2010年に「ネギま」「ゼロ魔」系が先行して移住、2011年後半から「なのは」が急激に増加、というように原作単位でタイムラグが見られた。

 2011年03月にはランキングも設置。
 作風としてはArcadia以上に転生オリ主へと傾斜、特に「神様転生」利用に関しては最盛期と言ってよく、踏み台転生者などそれ自体をネタとした作品も多く見られた。

なんだかんだPDF落ちてたりもするので、この範囲で読めないのは「満寵伝」くらい。


2012~2014年頃 ハーメルンへの移行

 社会一般の話としては、2010年代前半を通じてスマートフォンが急速に普及。
 インターネットという空間はそれまでのPCメインだった世界から大きく拡張を遂げ一般化、誰もが日常的かつ長時間の利用を行うようになっていく、あらゆるwebサービスにおける高度成長期と言えようか。
 世代を分ける要因としては、2012年07月に実施された小説家になろうにおける二次創作の禁止化、それに伴う「ハーメルン」への移行であり、以後現在に至るまで男性向け長編二次小説の中心となっている。
 人気原作の内容として、まだまだ「にじファン避難所」的な色合いが強かったのが概ねこの期間にあたる。

 主だった作品としては、最終的なにじファン総合評価トップにあった「せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!」、08月のランキング設置に際して累計1位となった「真・恋姫†無双 変革する外史。」、それに代わり翌年初頭までトップを占めた「真・恋姫†無双〜李岳伝」あたりが挙げられるだろう。
 2013年に入っても移転作品が強いという状況は大きくは変わらず、次の「ふと思いついたFate/zeroのネタ作品」こそ異なるものの、その後すぐ「インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー」、そして「宍戸丈の奇天烈遊戯王」と、累計1位が激しい入れ替わりを見せていた時期。
 環境が変化したのは年末であり、「日記形式」流行の起点となった「とある神器持ちの日記」、そしてその後の「ハリー・ポッターと野望の少女」は2018年に至るまで累計1位を占めた。
 これらはどちらもハーメルン内での新規投稿作品であり、移転作品が多数という状況からの移行を象徴している。

 人気原作に関しては、この年から「原作指定検索割合」の発表が行われており、それを参照するのがいいだろう。

 基本的にまだまだにじファンにおける人気原作がそのままスライドしてきた、といった傾向は強い。
 2013年は特に「インフィニット・ストラトス」「ハイスクールD×D」のアニメ第2期が放送されており、徐々にこの2原作が抜きん出た人気作となっていく。
 ただ2014年末から明確な変化を遂げていった原作として、「Fate/」は挙げておくべきだろう。
 秋のアニメ放送を起点として高い数値を保ち、それをそのまま翌年の「FGO」リリースに繋げていった。
 そうした背景もあってか急激に人気を伸ばした作品が「湖の求道者」であり、この時お気に入り数10000の大台へ。
 これはにじファントップ作品の最終的な数値と同等であり、ハーメルンが順調に登録ユーザーを増やし、以後最盛期にじファン以上の規模へ、と拡大したことを示すものとも言えよう。


2015~2019年頃 二次創作人口の最大化

 スマホ普及に伴うインターネット人口の拡大はひとまず完成したと言えるのだろう、期間をやや広めに取ったが、ハーメルンにおいて年間のユーザー登録及び新作投稿数量が最大化を遂げたのがこの頃にあたる。
 一歩踏み込んで言うと、媒体を問わずweb上を舞台とした二次創作、また素人が純粋娯楽目的で創作物を発表するような活動全般、に関する最盛期であったと認識している。

 2015年を1つの区切りとするのは、この年を境に人気原作が大きく入れ替わっていった点から。

 前世代の主要原作として、「なのは」「恋姫」あたりは新作が出たということもあり一応は踏みとどまったものの、「ネギま」「ゼロ魔」「マジ恋」などは顕著に減少。
 代わってこの年アニメが放送された「艦隊これくしょん」に、第2期放送の「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」、そして年の後半から「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」「オーバーロード」が、アニメ放送を起点として顕著な浮上を見せた。

 新規ユーザー登録数が最も多かった時期であり、新旧のユーザーで大規模な世代交代が進んだのだろう。

 特に2016年はユーザ登録に加えて小説IDの増加量、つまり新作の投稿点数においても最大化を遂げた年にあたる。

 ただまぁ通達類に関して見ていくと、「感想欄の使用法」「活動報告の利用法」「盗作」「歌詞転載」などと、ユーザーの増加に伴って色々と問題が生じていた状況も窺える。


 2017年には制度面での変更として、05月に警告タグが「必須タグ」へと改められ、「転生」「憑依」「性転換」「クロスオーバー」が追加された。
 人気原作に関しては大きな変化は無い。

 特筆すべきこととしては、アニメ第2期放送を契機として「僕のヒーローアカデミア」が、長期に渡る人気原作となっていった点だろうか。
 かつての原作にも共通するが、若年層に親しみやすい舞台としての学校に、バトル描写を容易にする異能の存在と、これ以後の創作入門編のような立ち位置となっていったように感じられる。

 2018年という年を主要作品から見ていくと、長く固定的だった累計1位が「このすば*Elona」へと入れ替わった点が挙げられ、以後2020年08月に至るまで「このすばElona」「野望」「湖」という体制へ。
 時期的なFGO全盛期を反映し、その後には「人理を守れ、エミヤさん!」「人類を救うのは俺ではないような気がする」と続いていたが……まぁいいや。

 2019年という年は作風面での変化が大きかった年と言える。
 機能面では「特殊タグ」が大幅に増強、また「掲示板形式」がサポートされるようになり、こうした要素を含む作品が増加を見せていくこととなる。
 それ以外のものとしては「RTA形式」が挙げられよう。
 こちらは「IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート」を起点として流行、RTAパートと小説パートとして視点を分離した勘違いモノの構造を取るもので、翌年にかけて大きな流行を見せた。


2020年~

 2020年以降とはしたものの、作品投稿という観点では、2019年から連続した大きな流れの中にある。

2024年03月時点の割合を小説ID増加量に乗算したもの。
あくまで模式図であり、細かい数字としての信頼性は無い。

 二次小説の新作投稿数量は、2020年のみ巣ごもり供給の例外としつつも、基本は直線的に減少し続ける一方であり、今後これが一転増加に向かうというのは考えづらい。
 根底にあるのは日本語利用人口的なキャップ、すでにインターネットはあらゆる年齢層や階級に普及したと言える段階に達し、潜在的な二次創作者も出尽くしたであろうということ。
 前提として学生だった作者の就職など、例年大量の引退者が出るのは当然なことではあって、流入量が細れば後は減少の一途である。

 近年的な人気要素というのもある種示唆的なものであり、人気原作としての「ソシャゲ」であるとか、「RTA」「配信」「VTuber」など動画由来のジャンル、ジャンプ系原作の浮揚なども紙媒体から「漫画アプリ」への移行として見ることが出来ようか。
 スマホで利用できる娯楽は多様化し続けるし、その中で二次創作小説の投稿という娯楽の価値は、相対的に低下し続けざるをえない。
 商業化・収益化の構造も整備され、web小説をやるにしても、オリジナル作品への転向という流れは不可避だ。
 ハーメルンのサイト総PVは2018年以降横ばい(発言自体は2022年前半時点)であり、その中でオリジナルが膨張していくというのは、単純に二次創作PVの減少を意味する。

 近年の原作指定検索は、極端な数値をとることが多くなった。

 根拠が無いことを書くが、原作指定検索という行動の総量自体がかなり縮小しているのではないか。
 それ以前に見られた「原作」を基盤とする集団の解体が進行し、継続的で定着的な検索行動が後退、全体が落ち込んだことによって人気原作が出ると極端な数値をとるように、……とまぁあくまで仮説なのだが。
 作品へのアプローチ手段として、ランキングのウェイトがかなり強まっているようには感じられる。


 前書きが長すぎたが、この世代集団の主題は「2020年~」というものであり、線を引いて分けるとすれば2020年03月が境となるだろう。
 02月末に布告された外出自粛要請と全国一斉休校、コロナ禍における余暇時間の増大はあらゆるwebサービスを押し上げていく。
 ハーメルンのユーザー登録も03月から05月にかけて毎月4000を超えるなど、通常の年次推移からは完全に外れた人口流入が発生、ユーザーの入れ替わりが進行したと言えよう。

コロナ特需の一過性ではなく、翌2021年まで同規模の流入があったというのは結構重要なポイント。

 この時期に起きた変化というのは単に量的なものにとどまらず、ユーザーの性質面でも大きい。
 背景にあるのは03月になろうで実施された「評価フォームの機能改修」であり、この時「評価」という言葉は作品ページから消失し、単なる「応援ポイント」へと改められ、以後ユーザーのポイント付与は激増(「ポイント推移」「ポイント総数」参照)するに至った。
 2020年以降の世代集団は、二次創作の拡大としてではなく小説投稿サイト間の移動、1度なろうユーザの経験を前提とし、その集団がまとまった形でマルチ利用を深化、ないし移住してきたという面が強いように思われる。

 現在ハーメルンで動いている「登録」ユーザー規模としては過去最高の水準にあるだろうし、一定のランキング露出があれば、感想・お気に入り数・評価など派手な読者反応を得られる。
 ただシステム的な弾力性を大きく超えた変化でもあり、平均評価と特に評価者数、これらが絡むあらゆる指標に関して、この時期の前後で比べることに意味は無いだろう。


 人気原作へと戻ろう。

 かつてのようにアニメ放送を契機として原作単位の集団を形成、長期的な人気原作の出現という流れは縮小。
 世間的な人気が反映され、短期間のうちに極端に数値を伸ばしこそすれど、その流行が維持されることはないという、一様的で一過性の消費を繰り返す時代かと思う。
 アニメというものは放送期間(+数ヶ月)で素早く消費しつくして終わり、という傾向が強まっており、これは新作発売時の「ポケットモンスター」など買い切りのゲームにおいても同様。
 必要なのは持続的なコンテンツの供給と言うべきか、「ウマ娘プリティーダービー」「ブルーアーカイブ」など、ソシャゲをベースに形成された流行はそこから比較的自由である。


ハーメルンのオリジナル

 まずは原則として。
 これまでもこれからも、ハーメルン発書籍化作品というものは、公的には存在しないことを確認しておく。

 ハーメルンにおいてオリジナル作品の立ち位置がどう変化してきたか、というのは「過去の年間ランキング」を用いるのが分かりやすいだろう。

 ただまぁ一応断っておくが、以下は影響性に関する独自の観点であり、必ずしも評価値等と一致するものではない。

 まずは上のグラフにおいて明確な変化が見られる2017年から、「TS転生してまさかのサブヒロインに。」であり、影響性としては「オリジナルでもTSモノなら受ける」という点の提示。

 かつてのArcadiaもそうだが、性別構成が男性に振れている場というのはTS(というか長編小説としてはほぼ「TS転生」)需要が大きいようであり、TSモノのみならず、オリジナル作品全体の人気形成において起点となった存在と言えよう。

 次は読者ではなく作者流入に関するものとして、2019年の「異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)」であり、影響性としては「なろう外サイトを経由した書籍化可能性」の提示。
 ハーメルンで短期間のうちに被お気に入りを集め、一定の集団を形成した上でマルチ投稿を行い書籍化へと繋げるという、言わば「成功パターン」を示したものと認識している。

 次は最大の変化の起点となった2020年、「美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!」であり、影響性としては「VTuberモノ」という流行を形成した点。
 2020年単体でもそれ以上の人気を得たオリジナル作品は存在するのだが、基本的に異世界であるとかファンタジーであるとかは、他所のサイトでいくらも読めるものではある。
 2020-2021年におけるVTuberモノ小説は、なろうやカクヨムから完全に乖離する形で発生した流行であり、その後拡散と平準化が進むにせよ、この時点においては確かに「ハーメルンでしか読めない」ジャンルを形作ったと言えよう。


 個別作品に関してはこんなものでいいだろう。
 2021年以降のオリジナル流入に関しては、何か単独作品が牽引したとか以上に、小説投稿の中心であったはずの場、小説家になろうの環境が激変した余波と言うべき面が大きい。

 2020年03月に実施された評価フォームの機能改修を契機として、なろうはその形を大きく歪めていく。
 ポイント付与行動の拡大は概ね肯定的に捉えるべきこととは思うが、実際に進行したのは異世界恋愛系の「短編」及びごく短い「完結済」作品のみが異常膨張、というものである。

投稿総数では2023年1-3月期、「連載中」のみでは2022年7-9月期以降カクヨム優位にある。

 長編連載作品がランキングの表紙から排除されるに至っては、もっと条件の良い投稿サイトを求めて流出していくというのも当然であり、その多くはカクヨムへと流れ込んでいる。

 そんな中でハーメルンに投稿するメリットは何か、……などと深く掘り下げていくつもりも無いのだが、一例として男性比率9割という性別的隔離空間を形成していることが挙げられよう。
 ノクターンとムーンライトみたいなもので、作品を届ける対象が明確であるほど話は作りやすいのであるし、受け取る側も好みに合うものへとアクセスしやすい、単純にお互い楽なのだ。

次にくるライトノベル大賞2023

 あくまで投票という形ではあるが、特定の条件下で馬鹿げた動員力を有しているのは確かと言えよう。
 上の「上前」で少し触れたが、こうして見るといずれの作品もハーメルンで十分な人気を形成し、その上で他所へとマルチ投稿、というプロセスを踏んでいる。
 現実の書籍化事情であるとか投稿戦略に明るいような身では無いが、少なくとも他サイト間で機械的に同時投稿を行えばいい、なんてものでは決して無いというのは確かなことと思う。


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