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はしのえみの思い出

2002年、小学校1年生ぐらいの頃だと思う。


家族みんなで『オールスター感謝祭』を観ていた時のこと。

オールスター感謝祭は200人の芸能人が一斉にクイズに参加し、正解者のみがどんどん勝ち抜いていき、不正解者と各問題で一番正解を選ぶのが遅かった回答者が「予選落ち」として抜けていくクイズ番組である。

正解者の中でボタンを押すのが遅かった10人の名前が順番に発表されるわけだが、当時小学校1年生のため、漢字がほとんど読めない。どのタレントが落ちたのかも正直よくわからない。


だが当時の僕は、その中でキラリと光る人名を発見した。

「はしのえみ」である。

はしのえみといえば、当時王様のブランチに出ていた女性タレント。といっても、はしのえみがどんな番組に出ていたのか、はしのえみがどんなコメントをするタレントなのか、もっと言えばどんな顔なのかすら、当時の僕は知らなかった。全く見ず知らずの人間だ。

だが、漢字ばかり並ぶタレント一覧に、ひらがなの「はしのえみ」が映し出されたのが、子供ながらに「読める字が出てきた!」と興味深くなって、深い理由もなく本能に近い感じでボソッと「はしのえみ」と声に出してつぶやいたのだった。


それを見た両親や兄弟が、僕のことをからかってきた。

「えっ何!?」「急にはしのえみって言ったけどどうしたの?」「はしのえみ好きなの!?」「はしのえみ好きなんだ!そうなんだ!!」「はしのえみのどこが好きなの!?」と、急激に僕がはしのえみ好きキャラであるように扱い、イジり始めたのだった。

もちろん僕は、はしのえみが好きとか嫌いとかなんて事実は一切ない。だって顔すら知らないのだから。

そう反論したが、父親は「まあね!はしのえみ可愛いしね!俺も好きだよ!でもまあお前が言うなら譲るわ!」などとイジりの手をやめない。

たぶん、家族としては、本当に僕がはしのえみのことを好きだと思っていたみたいだ。好きな気持ちが抑えきれなくなって、テレビ画面見ながら「はしのえみ」って言っちゃったんだろう、ついに恋心芽生えたんだ可愛らしいね、的なことを本気で思っていたらしい。

だが、僕には一切そのつもりがないので、反論する。あまりにも家族がしつこいので半泣きになって反論を重ねるが、逆にその態度が「はしのえみが好きなことをバレたくない」という風に解釈されたらしく、逆効果だった。


そこから僕は、テレビにはしのえみが映るたびに、家族から「おい!はしのえみ出てるぞ!」と連絡が来るようになった。もちろん特に興味がないので「知らないよ!」と返すが、やっぱり僕がはしのえみ好きだと思い込んでいる家族は、数年そのくだりを続けていた。

言っておくと、家族とは仲が良いしこのことが別にトラウマになっているわけでもない。ただ単に些細なやり取りであることはお伝えしたい。そして、もちろんはしのえみが嫌いなわけではもちろんない。お綺麗で愛嬌もある素敵な人だ。ただ、小学1年生の僕に女性を好きになるという感情は無かったし、初恋の女性がはしのえみだったという事実も特にない。もうさすがに言われなくなったので特にこちらから言う必要もないけど、家族には「アレは完全なる誤解だよ」とはどこかのタイミングで伝えておきたい。


とはいえ、未だにオールスター感謝祭の季節になると、はしのえみのことを思い出す身体になってしまっているのも事実なのだ。

あの頃はしのえみでイジられたけど、それはそれとしてはしのえみは元気でやってるのだろうか、出演者が200人から50人に減っちゃったからはしのえみの枠は残されていないんじゃないか、と春や秋ごとに思うのと、はしのえみ今何に出てるんだ?、はしのえみって今LINEブログで日々の生活を載せてるんだそうなんだ、元気にやってるんだそうなんだ、と、この記事を書くに当たって調べたはしのえみ情報により、「はしのえみにはなんとなく元気でいてほしい」というざっくりとしたポジティブな想いが生まれている。

家族もいることなので、メディア露出量は当時に比べてだいぶ少なくなったはしのえみだが、もしTBSのドラマやバラエティにレギュラーが決まり、それに併せてオールスター感謝祭にも出ることがあれば、少なからず僕のテンションはほんのり上がると思う。

ここまで書いても、別にやっぱり好きになったとかではない。でも、たぶん病気とかなったらちょっと悲しいと思う。

だからなんか、はしのえみには元気でいてほしい。


おわり。

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