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これからのパン屋の働き方

前回までの4話で、ドリアンさんでの研修で見聞きしたことを書きました。今日からは、その後考えていることを少しずつまとめていきたいと思っています。以下第5話です。


前回、「パン屋の仕事は山登りに似ている」と書いた。ドリアンさんの薪釜パン焼き風景を見ていてそう思ったのだ。

粉をこねながら薪釜を温め、同時進行でテキパキと作業が進められていく様子は、勢いよく山を登っている感じ。

いちばん神経を張り詰め、かつ心身ともに仕事の喜びを感じるであろう、パンの釜入れは山頂。

薪釜の中で焼き上がっていくパンを感じながら、翌日の生地を成型するのは下山。下山の最後の方では呼吸をととのえ、淹れたてのコーヒーを飲みながら今日の仕事を振り返る時間もある。

「労働時間8時間」と聞くと、「短いな」と感じるけれど、その内容は濃密で、いっさいの無駄がない肉体労働だ。たとえば往復8時間の山に登るとしたらどうだろう。「うわー、たいへん、疲れそう!」って、大抵の人は思うんじゃないだろうか。

それなのに、仕事となると「8時間は短いな」と思ってしまう。12時間、15時間と働いても、なんだか当たり前になってきてしまう(私のことです)。周りの人も「仕事なら仕方ないね」って、何となく受け入れてしまう。

でも…と、さらに考えてみたい。毎日8時間かけて山を上り下りしてる人がいたら「すごいね!」「いいね!」だけれど、12時間とか15時間とか、毎日それくらいの山の上り下りをしている人がいたら、「ちょっとそれはよしたほうが…」って、「大丈夫?」って、言いたくなるんじゃないか。仕事って、山登りくらいな意識でとらえた方がいいんじゃないか、という気がしている。

ここのところ、会う人ごとにドリアンさんの話をしている私。先日、行きつけの写真屋さんにデジカメ画像をプリントに行った時にも話したら「私たちの世代だと、休むことに罪悪感があるからね…」と、言っていた。60代くらいの人だ。そのお店は、商店街のほとんどの店が休みの日でも開いている。休みの日は、年間通しても数日かもしれない。子どもたちの夏休みにも、全然遊んであげられなかったと言っていた。

自営だと特に、休むことに罪悪感を覚えがちなのはわかる。私たちの店も、日・月を連休にしていたら「いつ来てもやってない」と、お客さまからよく言われた。そんな時は、営業日をお伝えしたうえで「すみません」と言うしかないし、すみませんと言うとなんだかやっぱり悪いことをしたような気になってしまう。実際は、月曜日は仕込み日で、店を開けてなくても中で翌日の生地の仕込みをしていて、日曜は日曜で、普段できない掃除や経理仕事などをしていたとしても。

…でも、休まず店を開けて、だれか幸せになるんだろうか。

ちなみにドリアンさんの店舗営業日は、木・金・土の12時~18時だけだ。でも実際の休みは日曜だけで、月曜は仕込みに半日を費やし、火曜と水曜は通販のお客様のパンを製造&発送をしている。

お客様は、その事情を理解して、営業日を目指してやって来てくれる。そして1週間は余裕でおいしく食べられる、大きなパンを抱えて帰る。それって、自営のパン屋の、新しくて理想的な姿だなぁ、と思う。私も、まずは「休んですみません」という気持ちを捨てたい(笑)。

そして、うちの店も、どうにかして「これが、これからのパン屋の働き方のひとつの答えです」というスタイルを見つけたいな、と思っている。そしてパン屋仲間やお客様や、これから仕事に就こうとする若い人たちも「うん、これで良いんじゃないの、私もいいとこ取りしよう」と思えるような…。そのうち、薪釜、作り始めるかもしれません…。

次は、素材と食品ロスなどのこと、パン屋と環境問題について書きたいと思ってます。

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