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#2 2つのBA(ビジネスアーキテクチャとビジネスアナリシス)               

企業がDXを推進しなければならない理由を、論理的に考えてみましょう。
一つには社会からの要請というものがあります。「2025年の崖」という言葉があります。ご承知のように2018年に経産省が提唱したもので、当時多くの企業の基幹システムの現状が老朽化のため危機的状況にありました。経産省は、2025年にその多くが維持できなくなる可能性があるとし、日本の産業を健全に発展させるために、この問題に2018年時点で早急に対応しないといけないというものでした。
確かに、そのころの基幹システムは初期導入から数十年経過していものも珍しくなく、中には利用開始から20数年という年月が経過しているものもありました。筆者は30年動いているというシステムも見たことがあります。もちろん導入当初のまま使っているわけではなく、その時々のビジネスや社会の変化に対応するため、改造や機能追加を行いながら利用していたわけです。その結果、よく言われる「田舎の温泉旅館」「スパゲッティ状態」の機能間の関係が複雑に絡み合ったシステムとなってしまっていました。つまり、おいそれと大きな変更を加えることが出来ない状況だと言うことです。そのため新しいビジネスに対応することは、とても難しくなっていました。
ビジネスモデルや消費者が求める「価値」の大きな変化がなかった時代は、老朽化したシステムを騙しだまし使うことも可能でした。ところがマーケットや消費者の価値観、新たなビジネスモデルによる競合会社の台頭など、これまでと異なるビジネスが求められる現在では、このような考え方は全く意味をなしません。そのため、最新技術を使った新しい基幹システムとの差し替えを早急に行う必要が出てきたわけです。これが経産省がDXの推進を提唱した最初の動機でした。

2つめはDX推進の文脈で出てきた、デジタル技術を起点としたイノベーションを起こすことでした。これにより、最新のハードウェア、ソフトウエアの技術を取込みまったく新しい価値をマーケットや顧客に提供するサービスを沢山立ち上げることで、国内のビジネス基盤そのものの、国際的な競争力を底上げしようといういうものです。
これを実施するためには、基幹システムの変革が必須になります。なぜかというと全く新しいビジネスの展開には、新しいデジタルシステムによるハンドリングが必要になるからです。つまりこれから、沢山の新しいビジネスを立ち上げて行こうとすると、そのビジネスに合わせた新しいシステムが、ビジネス毎に必要になります。しかし全体を統括する経営者から見ると、買掛や、売掛、現金、資産などの会計情報は個々のビジネスとは切り離し、全てのビジネスの情報を一元的に管理する必要があります。他にも全社共通的に扱うべきデータがあるので、それらを新しい基幹システムで管理する必要があります。
このとき既存ビジネスを受け持っていた基幹システムの機能を残すのか、別に切出して再構築するのか、機能拡張するのかなど検討事項は沢山あります。一例として、既存ビジネスのライフサイクルをどのように考えるかに大きく左右されます。他にも移行の順番や現行ビジネスの状況など関係するビジネス要素は沢山あります。つまり、かなり綿密な計画が必要になると言うことです。
このように、共通的に管理すべきデータの出し入れと保存を管理するシンプルな基幹システムと、基幹系システムと切り離された個々のビジネスシステムが、APIで結びついてデータのやり取りをするというのが、筆者の新基幹システムとビジネスアプリケーションのイメージになります。もちろん実現にはかなりの検討事項が発生し、難しい課題も乗り越える必要があるかと思いますが、基幹データと個々のビジネスの分離というのもDXを推進するために必要なステップだと考えます。

述べてきたようにDXの推進は、既存ビジネスと新規ビジネスとそれらを支えるデジタルシステムという、大きく2つの要素が互いに関係しあって進んで行くものだと思っています。これが両利きの経営っていうやつですね。

このように「DX推進」の「動機」が社会的には2つあります。さらに個別の「動機」として、新たなビジネス競合相手(ディスラプター)の出現があります。DXを進めて来た業種もビジネスモデルも異なる企業が自分がメインとするマーケットに進出してきたときに、それを向かい打つ必要に迫られる場合があります。かなり苦しい立場ですが、選択肢は向かい打つか、撤退しかありません。それを考えた時、やはり直ぐにでもDX推進活動を始める必要があるかもしれません。
「いやいや、そんな危機に簡単に見舞われることはないぞ」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。でも、町中から本屋さんがなくなり、栄華を誇ったNECや富士通や東芝のPCはシェアを落し、様々な銀行サービスはスマホで行えるようになりました。次に破壊されるのはあなたのビジネスモデルかもしれません。

以上、DXを推進する大きな動機となる3つの事象を上げました。経営者の皆様はDX推進に関するこのような状況を理解され、一刻も早く実行しなければと考えていらっしゃるかもしれませんが、全社員が同じベクトルと熱量でそう感じるのかはまた別の話になります。
次回はDX推進マインドをどのように醸成するのか、考えて行こうと思います。


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