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「アンダー・ザ・メルヘン」6

 閑話 インター・ブレイン・パーティー
      BY トラグス

ある日の事だった。
誰も見た事もないほどの醜男が表で刃物を振り回して逮捕された。でもその後、その男は忽然と姿を消したらしい。俺はそんな夢を見た。
 ヨシは綺麗な顔をした男だった。そのせいで、いやそのせいだけじゃなかったが、いつも女と一緒だった。
 ドッペルゲンガーという言葉を教えてもらったのはヨシだった。その頃もうおかしかったみたいなんだが。何やら実験をやってるとかって言ってたっけ。
 それに、出てきた奴とその当時遊んでた女がよく喧嘩するとも言ってた。見てるだけで笑えるってよ。本当に仲悪いみたいで。何で喧嘩するんだっていうと、ヨシとは似ても似つかない位にそいつが不細工だからっていうんだけど。何でそうなるんだ・・っていうかそれ、ドッペルゲンガーじゃねえだろ。
 でもよく話を聞いてみると、ただの夢遊病に過ぎない事が分かってがっかりした。でも二人してそれが止まらなくなったみたいだった。手頃な薬も相まって。面倒臭がりな癖にその辺は妙に細かいんだよな。

まさに事実は小説よりも奇なり、だ。科学、というか理屈では証明できないんだよな。ほとんどは出来るんだけど、ほんの1パーセントほど。そこにある可能性を目指してやるんだよ。

しばらく見なかったヨシをまた見かけるようになった。いつもの通り、綺麗な顔をして女連れで。
気をつけてくれ給えヘンリー。 アタスン

 少し前に偶然ヨシを見かけた気がした事があった。はっきり振り返ってみるといなかった。気のせいなのかなと思ったけど、まあそれが最後だった。逝っちゃってる女も一緒に見えたような。

「いつも血の匂いがする。ねえ、ここからどこに伝っていくの?ああそうよ。そうだったのね。ねえ見て。放っておくと体の奥まで伝っていくのよ。見えるでしょ?目の奥がギリギリして・・・。気持ち悪いけど、全部出してくれるの。」
 何日かしてそいつと一緒に死んでいた。
 
「俺は何でも出来る。」
時々ふとこう思うことがある。誰だ。俺の中の遺伝子が呼ぶのか。時々聞こえるんだよな。
 万能感っていったっけな。まあ、意味もなくハイになった時特有のただの思い上がりなんだけど、後何となくではあるけど、その先に怖さを感じるんだよな。本当に何でだか分からないんだけど。だって、顔までは見えないし。それ以上に馬鹿馬鹿しくなってくるんだよな。

そうだ、結局は俺もビビリだ。笑ってくれ。



その11 まだうさぎ小屋です
          BY トラグス

 女が見ているテレビに、ああ、中島麻里子とやらがね。しかしこいつの名前、中途半端に難しいのか平凡なのか、それに関してもムカついてくる。まあいいや。そのテレビにミスターヤマダが出ていた。が中島はテレビを見ていない(しかも俺に断りもせずに勝手につけやがった)。考え事をしているみたいだ。そのせいでミスターヤマダが余計に滑稽に見える。
 知ってのとおり、ミスターヤマダってのは今話題の会社の経営者だ。若者っぽい調子に乗った見た目と言動で同世代には共感を得てはいるが、年配のお爺ちゃん達には嫌われている。俺達裏とも少なからず関わりのある奴。その時点で潔癖じゃないのは明らかだ。
 予算委員会ってのを知ってるか?国を営んでいく予算をどうするかっていう会議みたいなもんだ。っていうかそれだ。その中には裏のお財布ってのがある。国会で審議しなくても通ってしまうもの。何故か。政治家や官僚達がおいしい思いをする為でもあるが、俺達裏に金を回すってのが本来の目的だ。
そこに関わっている奴らはそれを表に出さない様にするのに必死だ。だろうなあ、表の人たちには知られちゃまずいからな。

 何やら最近では裏でも資金繰りがしにくいんだそうだ。不景気なのは俺だって知ってる。ああ、表がね。
 世の中がそんな風潮だと壊れた奴らが多く裏にやって来ると思いきや、逆だ。壊れすぎているか、中途半端な壊れ方だ。何か、景気がいい方が裏にとってもいいらしい。そう、景気のいい壊れ方してるから。即戦力みたいな。いい肩してるねえっつって。
 とにかく金がいる。そんな時に奴が現れた。
 
 それがミスターヤマダだった。
 しかし、こんな事は裏でも初めての事らしい。表の民間企業の力を借りるなんて。更にだ、こいつが陰で言っている口癖はというと
 地獄の沙汰も金次第。
 まったくどうかしてる。壊れてますって言ってるみたいなもんだ。というかこの言葉、何かで使えないかな。例えば超B級映画のタイトルとか。
 そんなミスターヤマダだが、奴の交渉役に選ばれたのがあの人だ。
コードネームがロゴス。理性的な人だからそう名付けられた。まあ、適任だ。というかあの人しかいないかもしれない。だって裏では珍しい位の人格者だ。何故裏にいるのか俺も、いや誰も知らない。今の仕事を考えると、表の人間と言ってもいい位だ。
 ちなみにこの人は俺の元上司だ。
 俺は一時期、ロゴスに憧れていた事があった。文句も言わず、切れる事もなく、ただ淡々と仕事をこなしていく。俺はそこに裏に生きる男の格好良さを見た。これだ、と。その頃は喋り方を少し真似したりもしていた。
 最近じゃそんな事もあまり考えない。何でだろうなあ。それも面倒くさくなっちまったからかな。まあいいや。
 ロゴスは今、特に忙しくしている。何せミスターヤマダが裏に関わったせいで、裏に表の人が流れてくる事が前よりも増えてしまった。俺も以前迷惑をかけられた。それはいいや。というか思い出したくない。
 しかし何故こんな事になったか。それはミスターヤマダが変態だからだ。あ、こいつも、だ。こいつを介して表と裏を行きかう奴がいる。それが理由だ。まあ、金を出してもらっている以上、何も言えないみたいだが。


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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