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「アンダー・ザ・メルヘン」11
その18 人生最悪の日が始まった
BY トラグス
俺が朝起きると女は・・・・、名前何だっけ?中迫?吉川?いやそれは違うか。まあいいや。奴はまたテレビをつけやがった。見ないくせに。
というかこいつ、顔が昨日よりもでかくなってないか?頭も膨ら・・あ、それ寝癖か。何かこのまま浮き出すんじゃないか。天井大丈夫かな。
テレビを前にすると条件反射で出るのか知らないが、昨日と同じ様にテレビの型が古いだとか言っていた。アホかこいつ。テレビを長い時間見ると馬鹿になるという噂を聞いた事がある。こいつを見ていると本当かもしれないと思えてくる。
しかも例によってまたミスターヤマダが出ている。正直朝からこの顔はきつい。
そんな俺の気持ちをテレビ局が察したのか、突然の電波ジャックだ。何と画面一杯に死体が映し出された。まあ、その映像はすぐに消えたが。
表の人は死体だ、殺人だなどと聞いたり見たりすると恐怖を感じるんだろう。事実、中島麻里子も・・・あ思い出した、怖がっていた。でも俺達には日常茶飯事だ。
いや、でもこの死体に関しては俺達裏の方がビビった。いや俺だけかもしれないけど。
7だ。奴の死体だ。
裏に生きる奴でこいつの事を知らない奴はいない。7というのは裏の殺し屋の中で最強の男だ。正直、俺は7の姿を見たという話を大っぴらに聞いた事がない。それもそのはず。
ターゲットは皆殺されているからだ。じゃあ何で俺は知っているかって?そんな事思い出したくもない。本当はいなんじゃないかという噂も一時出たくらいだ。つまり既に伝説って事になってる。
しかしまあなんてこった。だって絶対に殺されるはずのない男が死んだんだからな。それも表に堂々と晒された。これをやったのはかなりの神経の奴だろう。いや、神経なんか通ってないだろうな。
というよりも、そもそも何故7なんて簡素なのか。やってる事考えたら簡素なんてのとはほど遠い事してるのに。正直俺も知らない。本人が好きな数字だとか、裏での不吉な数字だとか、7日以内にターゲットを殺すだとか、本当の事は誰も知らない。
表じゃあラッキー7なんて言うけど、ありゃあ嘘だ。
そういや18ってのもいたな。まあ、こいつも殺し屋だけど。同じ数字のこれも簡素な名前ではあるんだが、こいつの場合は少し違う。
だって皆知ってるから。しかも自分で言ってたからな。違う意味の簡素なんだな。殺し屋が姿を晒すだけでもありえないのに。
何考えてんだろうな。
18の由来ってのは、殺しが得意だかららしい。十八番って事だって。これは本人が実際に言っているのを聞いたからね。あ、これも。本当、どうかしてる。 そもそも冷静に言っちまうと、こいつら皆人殺しだからな。
この日、何度か7の死体の映像が局を問わず映し出されていた。
これである特定のテレビ局のキャンペーンじゃない事が決まった。まったく性質の悪い冗談だ。・・・ああ、冗談じゃないか。とてつもない非常識。そんなところだ。
表では噂が立っている事だろう。俺もその話に参加したい。あ、駄目だ。俺、全部言っちゃうだろうから。
その19 7と呼ばれた男
BY 7
殺し屋として最も大事にすべき事は謙虚さだと思っている。
確実に一撃でしとめる。それは確かに大事な事だ。その為の技術、精神力。しかし、それに対するおごりがあってはならない。常に自分を客観的に見る事が大事だ。
相手は自分より弱い。そう思っても、追い詰められた人間は何をするか分からない。確実にしとめられる時にしとめるべきだ。それをせず、相手をなめた結果、返り討ちにあった同業者を何度も見た。
いつからだろうか。俺の周りから人がいなくなり始めた。俺にはその意味が分からなかった。誰もそれを教えてはくれなかった。世の中というものはそういうものだと思っていた。
分かった時にはもう遅かった。
世間でよく言われる事がある。人には皆、帰る場所が必要である、と。
それは人によって様々なものだ。しかしそれが現実にある場所であれ、心に描く風景であれ、共通点というものがあるのは確かだ。
安らぎの場所である事。
現実の世界にもそういう場所は存在する。しかしその裏にも、隅にも、何かの影になっている所にも世界はある。
言うなればそれは人間の都合の吐き溜めであり、最後のつじつま合わせの為の場所である。
誰しも、まさかそれが自分に降りかかってこようなどとは思わない。
問題はひとつだけ。それを誰にするか。
ある日、俺は表の生活を捨てた。それはつまり、必然的に死んでも構わないという事も意味する。
それが、それまでの人生の結果だった。
人の殺気が充満するある部屋へと通された。何の仕事をするのかまでは知らなかった。そんな事どうでもよかった。俺はただの卑屈な敗北者でしかなかった。
これも何かの皮肉だったのか。ターゲットが書かれた紙を渡された。同時に手にタトゥを入れられた。その数字が7だった。それ以来そう呼ばれている。何の事はない。人を殺す仕事だった。
最初はただ夢中だった。ひたすら動いた。俺はギリギリ生き残った。それからというもの、来る仕事は全部受けた。いつまでたっても同じだった。もう嫌だった。考えても考えてもどうにもならなかった。
ある日俺の中で何かが変わった。その日は仕事だった。ターゲットを仕留めた時、体が順応した感覚を覚えた。急に体が楽になった。
その日を境に俺は考えるのをやめた。
仕事をし、体を鍛え、勉強をし、調査をし、そんな生活だった。忘れる事が出来た。
いつか見た景色。
懐かしいが、どこか恥ずかしいような感覚がする場所。本当に安らいでもいいんだろうか。それが壊れてなくなるまで、もう少しだけこの感覚を楽しみたい。
人が生きて死ぬ。そこには果たして運命というものが存在するんだろうか。
この残酷な人生を見つめなおすと気付く事が多い。
俺はただ知らなかった。世の中というものを。ただそれだけの事だった。それだけの事でここまで来てしまった。
死ぬ日があの時から今日にまで伸びただけ。それでいいとしよう。俺にとってはこれが一番ふさわしい終わり方なのかもしれない。
もううっすらとしか見えない。
しかしあいつ。本当は誰なんだ。察しはつくが。でも見事だ。あの男と同じか・・・、いや、そんなもんじゃない。それ以上だ。
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