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「アンダー・ザ・メルヘン」9
その16 うさぎ小屋の中で
BY トラグス
「まあ、そんな感じかな。」
・・・・・・あ・・・・う・・。
女は涙ぐみながら話した。毛布を抱えて。
まるで修学旅行だ。あ、俺行ってないや。でも間違っても俺はお前の事なんか好きだなんて言わねえぞ。
「あんた変な奴だけど話しやすいね。こんなに話したの初めてかも。」
こいつの話を俺が無視したからかもしれないが、しばらくすると奴は寝た。まあ、疲れていたんだろう。それにしても豪快な寝方だ。あっぱれと言ってやりたい。寝息が異常にでかい。まさに暴眠だ。そんな言葉あったっけ?
俺が寝付けない理由はそれだけじゃなかった。つまりだ、ここに来ておれはこれとようやく向き合った。
臭え。こいつ臭え。俺が一番嫌いな匂いだ。青臭いのか、何だ。
まあ、見るからに、何だかんだ言っても優しい家庭で育って来たんだろう。それを隠そうともしない。そこが何よりも気持ち悪い。
表の奴らが言う、いつものあの悪い家庭っていうやつだ。それが一体何なのか。善良な弱さだ。客観性の欠如とも言うがな。
まあここまで生きたんだ。言いたくなるのは分からんでもねえがな。
お得意の分かった様な口調で、世の中を、その厳しさを知ってますといった様な態度だ。
一体全体何の事だこりゃ。俺には何がしたいのか皆目見当もつかないな。
言っちまえば下らない奴だ。何にも捨てる覚悟もないくせに。こんな所で何やってるんだこいつ。いわゆる、ひ弱な正義感だ。そんなものは闇の前では無力なのに。
しかし・・・、俺とした事が。一瞬の不覚だ。恥ずかしいけど言う。
まだこんな奴と出会えるんだ。俺もまだ捨てたもんじゃない。何せ表でもこういう奴は珍しいだろうからな。
そう思って安心してしまった。顔が真っ赤っ赤になっちまった。弱いのは俺の方なんじゃないのかな。
まあいいや。それも人生だ。
・・・にしてもうるせえな。耳栓なかったっけ?
その17 カンニバル ウォーデン
BY ロバート ウォーデン
この世のことわり。
それはあらゆる事象に通じている。格子を介して見ても何ら変わりはしない。
私の前に立ちはだかる樹木。
葉が生い茂り、枯れ、落ちていく。そのサイクル。
私はこのゆったりとした一連の流れを何度ここから見た事だろう。
外気に張り巡らされている幹と枝葉。その下には一体どれほどの根が広がっているのか。もしかすると、いや確実に、他の樹木とも、小さな草木、可愛らしい花ともつながっている事だろう。
何と興味深いことか。言いようのない快感が全身を駆け巡って口元からにじみ出てしまう。
人との出会い。運命。
それは一体どこからくるのか。
神の御加護。
意識の相互作用というものがある。
何となく分かってしまう。
逆もまた然り、何となく伝わってしまう。
虫の知らせ。第六感。
人には摩訶不思議な力が宿っている。
科学に取り憑かれている人間は面白くない事だろう。彼らは分かっていない。自らの可能性を狭めている事に。
この世は人の意識、無意識の網が無数に張り巡らされている。
人間外生命は神を信じるか。
極限に精神を研ぎ澄ます。
よりはっきりと分かる。そして見えてくる。そして聞こえてくる。
今の私のように。
人間外社会に必然は存在するか。
愚かな人間は安易に存在に意味を与える。
注意深さを欠く人間に出来る事ではない。
この気持ち良さ。無限に広がる意識。そこから来る可能性。
どこまでも行けそうだ。
・・・・・・
誰だい?私を呼ぶのは。
ああ、辿っていけばいい。いずれ、いや、すぐにでも辿り着く。
ああ、はじめまして。見えてるよ。君の全てが。
もうすぐ会いに行くよ。楽しみだ。
見てごらん。私は自由だ。このやわな鎖からも解き放たれている。
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