【読切短編:文字の風景⑭】ライブハウス
街の喧騒と、早春の風が夜気に冷やされ始める気配。辺りは淡い藍色に沈もうとしている。湿度の高い空気には、草の香りが混じっている。開演まであと1時間。すこし早く着きすぎた駅の改札前で、私は一人期待と高揚で頬を赤く染めていた。
辺りには、見覚えのあるTシャツやラバーバンドを付けた人がちらほらと歩いていて、見る人が見れば川のような人の流れが一目で分かる。普段通りの服装で立っている自分が少しだけ気恥ずかしく、全身をライブ色に染め、並んで歩く人たちが羨ましく見える。街の風景から浮いてい