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「こてんぱん」にされたLJL初実況 挫折をバネに、Jaegerは「試合を楽しむ」

一度離れても、他のゲームを遊んでも、気付いたらまた『リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)』に戻ってくる。

5vs5のチーム戦で繰り広げられる奥深い駆け引きに魅了され “LoLの沼” にはまり込んだプレイヤーは、今日も世界中で激戦を繰り広げ、競技シーンに熱い視線を向けている。

そのひとりが、11日に新シーズンが開幕した国内リーグ「League of Legends Japan League」(以下、LJL)公式キャスター、Jaeger(イェーガー)だ。

「プレイしても観戦しても面白いし、プレイしたことがないのにゲームから生まれた楽曲が好きな人もいる。楽しみ方が多彩ですよね。もうすっかり生活の一部です」

プロ選手による技術のぶつかり合いを圧倒的なスピード感で視聴者に伝えるスタイルが持ち味のJaeger。その実況は挫折と努力から生まれた「自分が楽しむ」気持ちによって支えられている。

根拠ない自信と、1度目の挫折

LoLはJaegerが初めて触れたオンライン対戦ゲームだった。最初は難しくて全然面白いと感じなかったが、ゲームシステムを理解し始めると、徐々にのめり込んでいった。

Jaegerが上達を目指して始めたのが「上手い人のプレイをみる」こと。試合を夢中で見漁るうちに、LJLの前身である「LJリーグ」と出会う。国内最高峰の選手による熱戦と、熱狂する観客の存在を知った。

「こんなに熱い大会があるんだ」

衝撃を受けたJaegerは、同時に「どうにかしてこの世界に携われないか」とも考えるようになった。

当時Jaegerは高校3年生。漠然と大学へ進学するタイミングだった。プレイヤーとして腕を磨くことも考えたが、折よくスタートした学生向け大会「Japan Collegiate League(JCL)」のキャスター募集に、Jaegerの直感が反応した。

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「経験は全くなかったんですが、周囲から滑舌や声を褒められることが多くて、なぜか自信はあったんです」

意気揚々と名乗りを上げた学生リーグのキャスター。だが、根拠のない自信ひとつで乗り切れるほど甘い世界ではなかった。

「キャスターとして初めての試合のことは今でも覚えています。もう全然喋れませんでしたね。人前で喋るだけでも大変なのに、状況を正確に伝えて大会を盛り上げるのがこんなにも難しいんだと思い知って、自信がこてんぱんにされました」

それでもJaegerは諦めなかった。「練習は裏切らない」を信念に、過去の試合を見ながら実況の練習を繰り返した。上手くできたと思えるまで練習に熱中していたら、明るかった窓の外が暗くなっていることも珍しくなかった。

努力の成果は現れ、周囲や視聴者から「今の実況良かったね」とほめられるようになった。少しずつ自信を取り戻し、着実に周囲からの評価を積み上げていった。気付けば、あの日憧れたLJLから、「公式キャスターにならないか」と声がかかるところまで辿り着いていた。

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再び「こてんぱん」にされ、原点回帰

「まさか自分が。大丈夫かな? という気持ちでした。確かに自信はついてきましたが、それを遥かに上回る不安に襲われました」

Jaegerは、LJLキャスターへの誘いを受けた当時をそう振り返る。だが、最終的な決断に迷いはなかった。またとないチャンスであることを理解していたからだ。

「それまでキャスターを仕事にすることは想像もしていませんでした。将来についてちょうど考えていた時期だったこともあって、その道に進むのもありかなと思って。昔から何事もやってみる性格なんですよ」

思い切って飛び込んだ夢の舞台。だが学生リーグとは違って、視聴者は実況にも「プロ」を求める。またしてもJaegerの自信は初戦で「こてんぱん」にされた。

「それ以前は実況が楽しかったんですが、とにかく『自分が変わらなければいけない』と思ったし、憧れの場に立てることの緊張感もあって楽しむ余裕がなくなっていましたね」

余裕のない実況は視聴者にも窮屈さとして伝わり、「実況下手くそ」と厳しい評価を下すコメントも目に入ってきた。だが、それがむしろJaegerを奮い立たせた。今は下手と言われて当然のパフォーマンスしか出せていない。でも、絶対に見返してみせる。強い決意を胸に悩めるJaegerが出した答えは、「実況を楽しむ」ことへの原点回帰だった。

「スキルはすぐに変えられないので、まずマインドを変えて『楽しむ』ことに集中してみたんです。実況する人が楽しんでいなかったら、視聴者も楽しめませんから。そうしたら不思議と肩の力も抜けて、スキルも向上するようになりました」

1年目のシーズンの後半、それまで固執していた細かな技術は一旦忘れて、思い切って楽しむ実況を披露した。手応えは分からなかったが、控室に戻るとLJL実況の先輩eyesから「今日、良かったね」と声をかけられた。

そうか、これで良いんだ。Jaegerが殻を破った瞬間だった。

実況に込める「ストーリー」への想い

キャスター人生を振り返って、Jaegerは自らの環境を「恵まれている」と表現する。経験を積む機会に恵まれ、ファンからの厳しくも成長に期待を込めるコメントに恵まれ、同僚にも恵まれた。

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「いつも解説してくれるRecruit君は各地域のメタ(強いとされている戦術やキャラクターのこと)も追っているほど知識量がすごくて、いつも頼りっぱなしです。他にもキャスター陣の皆さんは本当に尊敬できる方ばかりで、僕がコメントすることもおこがましいくらい」

キャスター陣については「個性的な方が多いですよね」と笑うが、自身にも唯一無二のカラーがある。プレイヤーが入り乱れる集団戦でも流れるようにスキル名を叫ぶJaegerのスタイルは、一度聞いたら忘れられないインパクトでLJLファンに愛されている。

「実況を始めた時に『今までの人と同じ事をやるだけでは成功できない』と思ったんです。それならスキルを全部言えたらかっこいいんじゃないかと、全チャンピオンのスキル名を覚えることからスタートしたんですよ」

自らプレイするときは「難しいといっぱいいっぱいになるから、シンプルな方が良いです」とハラスやエンゲージを担うチャンピオンを好む。だが実況では、複雑な盤面であっても、重要なスキルが決まった瞬間を逃さないことが信条だ。加えて、誰がスーパープレイを決めたのか、「主語」を伝えることも意識している。試合の主役である選手たちが持つ “ストーリー” を知ってもらいたいからだ。

「この試合がどういう試合なのか、いつも考えています。LJLも歴史が長くなっていて、選手やコーチたちにも色んな繋がりがあります。古巣との対戦だったり、新人とベテランの対決だったり、あるいはリベンジマッチだったり。背景にあるストーリーまで伝えたいですね」

目まぐるしく変化するゲームのバランスを追い、選手やチームの情報を収集し、国外リーグの動向もチェックする。最初は全く面白さが分からなかったLoLが、今ではJaegerの生活の中心になっている。

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LJLを、みんなの生活の一部に

「キャスター人生で深く印象に残る試合を挙げるなら……」とJaegerが思いを馳せたのはやはり、学生リーグとLJLでの初戦だ。自信だけでは通用せず、挫折を味わった苦い思い出だ。

だが、それらを塗り替えるほど忘れられない出来事が昨年10月に訪れた。世界大会「World Championship(Worlds)」で日本勢初のグループステージ進出を果たしたDetonatioN FocusMe(以下、DFM)の快進撃だ。

「いちLJLファンとして嬉しかったですし、キャスターをやってきて良かったと心から思いました。LJLのレベルが間違いなく上がっていることを彼らが証明してくれましたし、今年は他チームも『DFMに勝てれば世界にも通用するんだ』と、目の色を変えて倒しに来るはずです」

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11日に開幕したばかりのLJL2022年シーズン。選手の移籍や新人の登録もあり、どのチームが抜け出すのか、キャスターの立場からも「全く想像もつかない」。今季からは試合数の増加に伴って週3日の開催となり、必然とキャスター陣の出番も増える。試合時間が30分を超えることも珍しくないLoLの実況で発するフレーズ数も人一倍多いJaegerは、体力面の苦労が「ないと言ったら嘘になる」と笑う。

試合後にはどっと疲労感に襲われることもある。海外での大会の中継は時差もあって辛い。だが、試合中に不思議と大変さを感じないのは「試合を楽しんでいる」からだ。

「すごいプレイが起きたときは実況していても本当にテンションが上がります。こんなプレイができるんだ! こんなプレイを間近で見られて嬉しい! って。だから、この魅力を沢山の人に届けたいんです」

Jaegerはより大勢の人にLJLの魅力を発信していくためにも、初心者ならではの楽しみ方にも考えを巡らせる。

「まずは1チーム、あるいは選手ひとりの『推し』を見つけてみてください。そうすると次第に推しの対戦相手やチームも自然と覚えられて、全体に詳しくなれます。魅力的、個性的なプレイヤ-が本当に多いので、誰かのファンになることから見始めてほしいですね」

LJLを外から憧れの目で見ていたJaeger。今では中から盛り上げる実況の立場になったが、気持ちはLJLファンのままだ。自分にとってそうであるように、ファンにも「LJLがあることが当たり前に、生活の一部になってくれたら良いな」と、さらなるファン獲得へ期待を語る。

そのためにも、ひとりでも多くの視聴者に魅力を伝えたい。Jaegerもこれからも実況席で、試合を楽しみ続ける。

(取材・文 ハル飯田)

2022年のLJL Spring Split(春季リーグ)は、レギュラーシーズンが3月25日まで、プレイオフが4月10日まで開催される。