USG『ワイリフ』部門で生まれた奇妙な出会い 元コーチと元カードゲーマーがMOBAの頂点を目指す
カードゲームのプロ選手と、MOBAチームのコーチ。2人は奇妙な縁に引き寄せられ、『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト(以下、ワイリフ)』のプロ選手としてチームメイトとなった。
「とにかく世界で戦えるゲーマーになりたくて、ジャンルは問いませんでした」
そう話すMaiは、プロゲーマーとしてのキャリアをカードゲームからスタートした。
「自分が教えた相手が上達することに喜びを感じるんです」
そう話すLarkは、コーチとしてプロチームでのキャリアをスタートした。
彼らはUnsold Stuff Gaming(以下、USG)で巡り合い、選手として世界大会「2022 Wild Rift Icons Global Championship」へ挑む。運命の交差で誕生した無二のチームの挑戦が、始まろうとしている。
「ウメハラ」に憧れ、プロを志したMai
Maiは幼いころからゲームが好きだった。中学生の頃にPCゲームに触れると、オンライン対戦の魅力に惹かれた。FPSタイトル『ペーパーマン』に夢中になり、ひたすらプレイしてはランキングに掲載されることに喜びを感じた。
「元々スポーツをやっていて、競い合うのが好きだったんです。ゲームでもスポーツみたいに生活できている人がいるんじゃないかと調べて、今でも尊敬するウメハラさんに辿り着いたんです」
空手の大会で優勝経験も持つスポーツ少年だったMai。格闘ゲームで日本人プロゲーマーの先駆者として活躍する “ウメハラ” こと梅原大吾選手の存在を知り「自分もゲームの世界で戦いたい」と考えた。ただ、その道のりは簡単なものではなかった。
「プロゲーマーという職業の知名度は今とは比べ物にならないくらい低くて、誰かに話しても『それなに?』って感じでしたし、家族にも反対されましたね」
それでもMaiの決意は固かった。プロになるための明確な道筋やノウハウは示されていなかったが、とにかく多彩なゲームに時間を費やして機会を探った。その過程でMOBA(※)ジャンルとも出会い、腕を磨いた。
※「マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ」の略。『LoL』や『ワイリフ』のように、2チームに分かれて敵本拠地の破壊を目指すジャンルを示す。
そして、ひとつめの転機が訪れたのは大学生の頃。当時熱心にプレイしていたデジタルカードゲーム『Shadowverse』の選手として、今も所属するUSGでプロ選手としてデビューを果たした。とにかくプロを目指していたMaiにとって、次なる目標は「世界で戦える選手」になった。
ふたつめの転機はすぐにやってきた。チーム加入時にMOBAが得意であることをアピールしていたMaiに、チームから「モバイルのMOBAをやってみないか」と声がかかったのだ。Maiは『伝説対決 -Arena of Valor-』部門へと転向し、その実力を思う存分発揮した。USGは日本のトップチームとなり、世界大会にも出場した。
複数のタイトルで結果を残し続けたことで、心配していた家族も率先してeスポーツの話題に触れるほど応援してくれるようになっていた。
「時間はかかりましたけどね」
苦笑しながら振り返ったMai。情熱と努力で、家族の理解と目指していた立場を掴み取った。ただ、国際大会では世界の強豪チームを前に辛酸を舐め続けているのも事実。まだ本当の意味で「世界で活躍できる選手」になれていない自覚がある。更なる飛躍を求めて、2020年10月のリリースとほぼ同時に『ワイリフ』へ転向した。
「PCで『リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)』もプレイしていたので格好の舞台だと思いました。大会も段々と発展していて期待が持てますし、絶対に日本一が取りたいです」
多数のタイトルで栄光を掴んできたMaiだが、そこに満足はない。自分にモチベーションがある限り、目の前の舞台で輝くことへの欲求は尽きないからだ。
「教える楽しさ」を味わい、コーチを志したLark
一方のLarkは、あまり対戦ゲームをプレイするタイプではなかった。PCでゲームをするようになってから『LoL』に出会い、面白さに惹かれて段々と上達していったものの、仕事との兼ね合いで完全に趣味としてプレイしていた。
しかし体調を崩して職を離れると「やることもないし、結構自信もあった」と『LoL』における選手活動に興味が湧いた。やると決めたら打ち込む性格で、アマチュアチームで活動し、プロチームのアカデミーにも在籍した。技術や知識を蓄える一方で、その過程で心境は少しずつ変化していった。
「友人や知人に『LoL』を教えてと頼まれることが多かったんですが、彼らが成長していくことが自分が上手くなるのと同じかそれ以上に楽しかったんです。それからは選手よりもコーチになりたいと思って、コーチングの勉強や戦術の分析に時間を使うようになりました」
そんなLarkの豊富な識と姿勢が評価され、昨年からUSGの『ワイリフ』部門でコーチに就任した。念願だったコーチ職だが、『LoL』に似通っているとはいえ未経験のタイトルでの挑戦。自分のアドバイスやピック次第で選手のパフォーマンスが左右される立場の難しさと同時に、やりがいも感じていた。フィードバックを的確なものにするため、自らもできるかぎりのプレイ時間を確保した。
思い返せば、戦い方を考えたり分析をしたりするのは昔から好きだった。Larkの記憶に色濃く残る思い出は、小中学生の頃に通った近所のたこ焼き屋だ。店主も常連客も将棋好きが集まっており、店内に並ぶ将棋盤で毎日のように将棋を指した。
「自分はそんなに強くはないんですけど、当時からプロ棋士や上手い人の対局を見て色々と考えるのが好きだったんです。MOBAには将棋とどこか似通っている部分もあると思って、はまりましたね」
そんなLarkがコーチとして初めて臨んだ昨シーズン。USGは2位で終え、今シーズン前にはメンバーの変更と新コーチの加入が決まった。Larkは決断を迫られた。他チームでコーチを続ける道を探るか、それともUSGの選手トライアウトを受けるか。
「短い間でしたけど一緒に悔しい思いをしたメンバーの力になりたいと思ったんです。このチームでもっとやりたくて、トライアウトを受けました」
コーチとして練習を積んでいた『ワイリフ』の技術は、確かに身についていた。かくしてLarkは、プロ選手になった。
このメンバーで勝利を分かち合いたい
新たなチーム編成で挑んだ2022年の国内大会「WILD RIFT JAPAN CUP」。僅か2ヶ月ほどの準備期間で選手として出場することになったLarkは、「当時は緊張のあまり喉がカラカラで喋れなかった」と振り返る。それでも練習の成果を発揮したチームは順調に勝ち星を積み上げた。
迎えた決勝戦。王者Sengoku Gamingを相手に、Bo7(4本先取)でGame7にもつれこむ大接戦を演じた。最終戦に敗れ、昨年に続いて2位。それでもチームは確かな成長を見せつけ、世界大会への出場権を得た。いつしか、Larkは緊張を感じなくなっていた。
「試合後は悔しさがこみ上げて来たんですが、試合中はチームが一体になっているのが感じられて、笑顔になっちゃうくらい楽しかったんです。世界大会は初めてですけど、このメンバーで戦うのがやっぱり楽しみですね」
対して、Maiにとって国際大会は4度目だ。経験値では対照的なLarkからは「もうFakerやん」と笑われるが、自身はまだ『ワイリフ』で結果を残せていないと感じている。
「今まで色んなタイトルに挑戦しましたが、これだけ打ち込んだのに2年連続で2位って経験は初めてで、余計1位になりたくなりました。絶対にSengoku Gamingにはリベンジしたいですし、そのためにもまずはグループステージ進出が目標です」
Maiが中学生の時から変わらない「ゲームで勝ちたい」というモチベーションに加えて、今は少し特別な感情も持っている。チームへの愛着だ。
「今のチームはプロでは珍しいくらい大人しい雰囲気のメンバーが集まっていて、気に入ってるんです。自分がリーダーを務めているのもあって、声掛けや雰囲気作りも意識するようになりました」
Larkが「失敗しても何度でも話し合えるチーム」と表現すれば、Maiも「芯を食ったフィードバックができる」と同意する。性格的に激しく意見をぶつけあうことはなくとも、全員がトライ&エラーを厭わずに様々な戦術を取り入れてきたことで、国内戦では確かな手応えに繋がった。
「先のことはあんまり考えてないんです、その時に何がしたいかですね」とMaiは笑う。今は『ワイリフ』で、そしてUSGで全力を尽くすことしか考えていないからだ。
全く異なる道筋を歩みながら、運命的に交差したMaiとLark。彼らの旅路は、まだ始まったばかりだ。
(取材・文 ハル飯田)
Unsold Stuff GamingとSengoku Gamingが日本代表として出場する世界大会「2022 Wild Rift Icons Global Championship」は6月14日からシンガポールにて開催されます。