【女尊男卑】 統計情報で見る男性差別 無視され使い捨てられる男性の命

■ 参照
WEBアーカイブ(茂澄 遙人 氏):以下に全文転載 & 補足。

■ 女尊男卑 ■
統計情報で見る男性差別
無視され使い捨てられる男性の命

 
性差別は男性にとって生き死にの問題である。男性が社会から期待される性役割(ジェンダーロール)は、男性を過酷な環境に追いやり、男性の命を危険にさらしている。
この記事では、生命に関わる男性差別についての各種統計データを紹介することで、現実の姿をあぶり出す。女性差別が存在するのと同じように、男性差別もまた存在し、それはデータに表れているのだ。

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■ この記事の目次
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1:男性差別の存在を認識する
  1.1 この記事の概要
2:性役割の差別
  2.1 過労死者数
  2.2 労災事故死者数
  2.3 交通事故死者数
  2.4 犯罪被害死傷者数
3:救済策の差別
  3.1 自殺者数
  3.2 行方不明者数
  3.3 ホームレス数
  3.4 身元不明遺体数
  3.5 入所受刑者数
4:寿命の格差
  4.1 老衰死者数
  4.2 平均寿命
5:男性にも生きる権利はある
  5.1 社会的弱者の男性は不可視
  5.2 統計が示唆する男性差別の存在
  5.3 女性差別の裏面としての男性差別

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■ 1:男性差別の存在を認識する
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差別の解消に向けた出発点は、男女の平等が達成されていないという現状を認識することだ。私たちは性差別についての啓蒙を受け、社会の中で女性が不利に扱われている多くの事柄、たとえば賃金や社会的地位の獲得に格差があり、女性が差別を受けていることを認識できるようになった。

しかし男性が不利に扱われている多くの事柄については、認識されていないか、認識されていたとしてもそれが男性差別であるとはみなされていない。

そもそも男性差別などないと思い込んでいるのだ。女性差別が存在するのと同様に、男性差別もまた存在する。それを認識することが、男性差別を解消する出発点になる。

 
この記事で取り上げるのは「生命の格差」である。生存権は、人権の根本だからだ。また、死者数は他のどんな指標よりも暗数が小さく、現実を正確に捉えやすい。生命の問題に焦点を当てることで、男性の命を軽視することが私たちの社会に当然の習慣として深く根付いており、男性を使い捨ての消耗品として扱っている現実が見えてくる。

以下のそれぞれの情報を見るとき「もしこの数値が男女逆だったら女性差別だと感じるかどうか」と確認しながら見るようにしてほしい。

 
私たちは男性差別を意識しない反面、女性差別には敏感だ。もし男女の数値が逆だったら、と考えることで、あなたは正常な感覚を取り戻すことができる。

【この記事の概要】
この記事では、男性が置かれている生命の差別について「性役割」と「救済策」と「寿命」という3つの観点から統計情報を紹介する。

もし女性差別だけが存在し、男性差別が存在しないなら、事故や自殺で死亡するのも、犯罪被害で死傷するのも、刑務所や路上で暮らすのも、より早死にするのも女性が多くなるはずだ。しかし実際はその逆だ。

 
男性は一般的に、性役割として一家の主たる稼得役割を担うことを余儀なくされている。この結果、賃労働の現場やその行き帰りなど家庭外での死傷は男性に大きく偏る。具体的には、過労死は女性の11.5倍、労災死は女性の24倍、交通事故死は女性の2倍、犯罪被害による死傷は女性の1.7倍という状況だ。

セーフティーネットからこぼれ落ちやすいのも男性だ。

困窮した女性は優先的に支援・保護される一方で、困窮した男性は無視される。この結果、犯罪者や自殺者や失踪者は男性に大きく偏る。

 
具体的には、自殺は女性の2倍、行方不明者は女性の1.75倍、ホームレス生活者は女性の18.5倍、身元不明遺体は女性の6倍、入所受刑者は女性の8.4倍という状況だ。

こうした現状を受けて、寿命の男女差は無視できないものに拡大している。老衰まで生きる男性は女性の1/4にとどまり、男性の平均寿命は女性より6年も短い。男性は賃労働の現場で使い潰され、社会的弱者の立場に転落すればそのまま見捨てられる。

女性に何かあれば「かわいそう」だが、男性には何があっても「自己責任」だ。これが男性差別の現実である。

 
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■ 2:性役割の差別
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男性は一方的に稼得役割という性役割(ジェンダーロール)に押し込まれている。この抑圧的な状況によって、労働に起因する事故や事件に巻き込まれて命を失いやすい。しかし、それ以外の選択肢や逃げ場はない。

稼得役割から逃げられないこの状況が「男性特権」や「下駄を履いている」と呼ばれることもあるが、その結果は以下の通りである。

【過労死者数】

過労死による男性の死者数は女性の11.5倍である[1]。この数字は、男性は女性よりも過労死しやすい過酷な状況におかれていることを示している。稼得役割というジェンダーロールによる抑圧の存在や、それを許容する差別が社会に存在していることの証左だろう。

【労災事故死者数】

労災事故による男性の死者数は女性の24倍である[2]。この数字が示しているのは、事故死が起こるような危険な仕事には女性よりも男性が圧倒的に多く就いていることだ。その裏側には、稼得役割というジェンダーロールによる抑圧や、それを許容する差別が社会に存在していると考えるのが自然だろう。

【交通事故死者数】

交通事故による男性の死者数は女性の2倍である[3]。この数字は、男性は女性よりも死亡につながる交通事故に遭いやすい状況におかれていることを示している。配送や営業や道路工事など、道路上での仕事に就くのが男性に偏っていることと無関係ではないだろう。

【犯罪被害死傷者数】

刑法犯の被害に遭って死傷する男性の数は女性の1.7倍である[4]。この数字は、男性は女性よりも犯罪被害に遭いやすい状況におかれていることを示している。その裏側には、危険を引き受けたり自分の身を盾にして誰かを守るというジェンダーロールによる抑圧の影響は大きいだろう。

このような状況下にあっても、暴力の被害者として問題視されるのは女性だ。毎年11月12日から25日は「女性に対する暴力をなくす運動」期間とされ、内閣府の主導のもと全国でライトアップなどのイベントが実施される。男性被害者のための同種の運動は存在しない。ここでも男性の被害者は無視される。

■ 補足
元記事ではココに「内閣府男女共同参画局」のツイートが張られています。

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■ 3:救済策の差別
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傷病や障碍などによって稼得能力を失い、困窮状態に陥った男性は、救済策(セーフティーネット)からもこぼれ落ちやすい。

男性は男性であるという理由で強者とみなされ、救済対象の社会的弱者とはみなされにくいためだ。社会的弱者となった男性は存在しないものとして無視され、見捨てられる。氷河期世代の非正規男性はその典型だ。

 
こうした現状の結果、社会的弱者となった男性たちは、犯罪に手を染めて刑務所を住居としたり、それを好まないものは自殺で人生を終わらせたり、失踪者やホームレスとなって路上に消えていったりし、最期は身元不明の遺体として発見される。

共感も同情もされないままに、ただの統計上の数字となっている彼らの状況は次の通りだ。
 

【自殺者数】

自殺による男性の死者数は女性の2倍である[5]。この数字は、男性は女性よりも自殺しやすい過酷な状況におかれていることを示している。この背景には、ジェンダーロールによる抑圧やそれを許容する差別が社会に存在する一方で、男性に対する救済策が十分でない状況がある。

昨今では、新型コロナ禍で女性の自殺が増加したことが話題になり、対策を求めらる事態となった。上記の2020年の数字は、まさにそのコロナ禍のものだ。女性の自殺が男性の半分に迫ることは社会問題とされ、政府は新たな自殺総合対策大綱を閣議決定した。

その内容は、子ども、若者、女性の自殺対策を中心としたものだ。
 

政府は本日、#自殺対策 の指針として新たな自殺総合対策大綱を閣議決定しました。新たな大綱により、誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指します。子ども、若者、女性への対策や地域自殺対策の強化など、総合的な自殺対策をより一層推進していきます。
厚生労働省 (@MHLWitter) October 14, 2022

以下のグラフは、2021年の自殺者数を年齢階層別・男女別にまとめたものだ。40代の男性をピークに、30代から50代の働き盛りの男性の自殺が多いことがわかる。しかし問題になるのは女性の自殺であり、対策も男性より女性が優先される。

これが差別でないなら、何が差別なのだろうか。
 

女性と子供が相談しやすいよう、オンライン相談なども拡充されている。その一方で、男性の自殺は統計上の数値として忘れられる。

男性の自殺は「責任感のなさの表れ」や「心の弱さ」などと言われ、自己責任として扱われるのだ。
 

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「生きるのがつらい」とひとりで抱えこまずにご相談ください。10代20代の女性のための #LINE相談、18歳以下の子どものための #チャット相談 もあります。
厚生労働省 (@MHLWitter) October 21, 2022

【行方不明者数】

失踪や蒸発などで警察に行方不明者届が出された男性の数は女性の1.75倍である[6]。この数字は、男性は女性よりも失踪や蒸発につながりやすい過酷な状況におかれていることを示している。自殺ではなく逃げることを選び、失踪や蒸発をする者は少なくない。

【ホームレス数】

ホームレス男性数はホームレス女性数の18.5倍である[7]。この数字は、男性は女性よりも住居などの支援を受けにくい過酷な状況におかれていることを示している。

セーフティーネットに男性差別があることの証左と言えるだろう。

 
日本では「女性は危険な目に遭いやすいためホームレスになれず、ホームレスになれるのは男性特権である」などと言われる。まるで、男性は自ら望んでホームレスになっている一方、女性はそれを望んでいるのに叶わないかのような言いかただ。女性が危険な目に遭いやすいのは世界共通だが、日本ではホームレスが男性に偏るのには理由がある。

日本より治安の悪いアメリカでは、ホームレスの約30%は女性だが、同時に33%は子連れの家族であり、女性ホームレスの多くは男性パートナーと随行することで安全を確保している状況だ。一方で日本では、女性だけ、または女性と子供であれば保護を受けやすい。

そこで邪魔な男性を切り捨てて女性は保護を受け、男性だけがホームレス化しているのだ。
 

【身元不明遺体数】

身元不明の遺体として発見された人(行旅死亡人:こうりょしぼうにん)のうち、男性の数は女性の6倍である[8]。この数字は、男性は女性よりも失踪や蒸発につながりやすく、遺書も残さずに人知れず自殺することも多く、発見時にはすでに死亡している状況に陥りやすいことを示している。


【入所受刑者数】

刑務所、少年刑務所、拘置所などの刑事施設に収容されている男性の数は女性の8.4倍である[9]。主な罪名は窃盗と覚醒剤取締法違反であり、男性受刑者の60%はこの2つの罪名が占めている。これらの受刑者は、食うために盗む者や、覚醒剤を使うことで働く気力を奮い立たせている者など、最下層の社会的弱者である。

こうした最底辺の社会的弱者が大きく男性に偏っているという事実は、弱者救済のセーフティーネットが弱者男性にとって十分でないことを示している。

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■ 4:寿命の格差
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男性は稼得役割を担うこと以外の選択肢を持たず、そこからの転落は自殺や失踪や路上生活を意味する。このため男性は、状況や能力がどうであれ労働にしがみつかざるをえない。

こうした過酷な環境で生きることは、健康や寿命に大きく影響する。老衰まで生き延びる男性は少なく、男女の寿命格差は拡大し続けている。
 

【老衰死者数】

老衰で亡くなるまで生き延びた男性の数は女性の1/4にとどまる[10]。この数字は、男性は女性よりも病気や怪我を原因として死亡しやすい状況におかれていることを示している。この状況は、病気や怪我につながる過酷な労働が男性により多く押しつけられている事実と無関係ではないはずだ。
 

【平均寿命】

男性の平均寿命は女性よりも6.1年短い[11]。割合では9.3%であり、1割に迫る差だ。1950年には3.5歳だった男女の寿命格差は、2020年時点で6.1歳まで広がった。この期間に、男性の寿命は1.4倍になり、女性の寿命は1.43倍になったが、男女の寿命格差の伸び率は1.74倍と、それらを上回っている。

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■ 5:男性にも生きる権利はある
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もしここまで挙げてきたデータの男女が逆で、使い捨てられているのが女性の命だった場合でも、それは当然のことで差別ではない、と思うだろうか?

私にはそうは思えない。

この社会には命の男性差別がある。そしてその事実について、私たち全員が見て見ぬ振りをし、社会全体で許容している。

 
まずは男性差別の存在を認識するところから始めよう。男性差別は存在し、男性自身を含む社会全体に組み込まれている。

男性を抑圧しているのは、誰か特定の悪者でもなければ、女性でもなく、男性自身も含んだ社会システム全体だ。特定の個人やグループを標的に攻撃しても意味がない。
 

現在の社会システム全体が男性の命を軽視していて、システム正当化バイアス[12]がそれを強固にしている。その現状を認識することで、社会システムに不平等が組み込まれていることを疑えるようになる。

現状、男女の生きる権利は平等ではなく、男性の権利は制限されている。この社会に命の男性差別があることを、まずは認識したい。

 
【社会的弱者の男性は不可視】

多くの男性は、社会的弱者に転落すれば保護や支援が手薄いという背水の陣で、賃労働から逃げることなく社会的強者のふりをし続けている。

他に選択肢がないためだ。

 
当然、踏みとどまれず社会的弱者へと転落し、命を失う者も出てくる。この状況に耐えている者だけを見て「男性特権」や「下駄を履いている」と表現することは適切ではない。

日本の公的な困窮者支援は、事実上女性専用となっているものが多い。

 
内閣府が所轄する婦人相談所や女性センター、厚生労働省が所轄する婦人保護施設や母子生活支援施設などがその例だ。

弱者に転落した困窮男性は無視しながら、その一方では女性を優先して支援しているのが現状だ。困窮者の支援や保護においては、明確な男性差別がある。

 
男性は「男性である」という理由で社会的強者とみなされる。これは、転落し、社会的弱者となった男性を無視することによって成立している。社会的弱者となった男性は、救済や支援や保護の対象となる人間ではなく、ここまで紹介してきたような「統計上の数字」にすぎない。見えない存在なのだ。

 
【統計が示唆する男性差別の存在】

同じ社会に2つのグループが存在し、賃金労働の過酷さに起因する死者や、自殺者や身元不明遺体、ホームレスや服役者などセーフティーネットからこぼれ落ちた人が、一方のグループにだけ大きく偏っているなら、そこには抑圧や差別が存在することが強く示唆される。

これらは統計上の事実ではあるものの、この社会を構成する人々の感情を揺さぶることはない。男性の命が使い捨てであることは、この社会のシステムに組み込まれた必要悪であり、ことに社会的弱者となった男性の死が顧みられることは滅多にない。

私たちはこのような社会に生きている。男性たちは当事者として、この事実を直視すべきだ。自分を守るために。

 
【女性差別の裏面としての男性差別】
この状況を生み出している根本には、本邦の慈悲的性差別がある。慈悲的性差別は「女性は半人前の存在だから大人に保護されるべきである」とする。男女平等を訴えるはずのフェミニストもこれを支持し、より多くの保護を求め、女性を弱者の立場へと閉じ込める。また慈悲的性差別は「男性は一人前の大人だから女性を保護するべきである」とする。

以下のリストは、慈悲的性差別のよくある例だ。各項目の敵対的性差別にあたる面は括弧内に記述した。こうした差別は、女性の自尊心を損ない自立や能力開発を妨げる一方で、男性を過酷な状況に追い込んでいく。しかしこれらの差別が社会の中に蔓延しているのが現状だ。

・女性は保護されるべきだ(女性は子供や障碍者のような弱者だ)
・男性は主たる稼得者であるべきだ(女性は稼得能力が低い)
・女性はいくつになっても女の子だ(女性は一人前の大人ではなく半人前だ)
・デートや食事のお金は男性が負担すべきだ(女性は稼得能力が低い)
・女性は責任の大きい業務を担当すべきでない(女性は責任能力に欠けている)
・女性は危険な業務を担当すべきでない(女性は危険回避能力が劣っている)

男性を使い捨てることと、女性を保護することは、慈悲的性差別という意味で表裏一体をなしている。

 
本来であれば、家父長制的な社会規範を打破し、男女平等を求めるべきだろうが、それを訴える主体はいない。フェミニストが女性保護を訴える一方で、刑務所や路上で生きる男性の声はどこにも届かず、すでに死んだ男性は声を上げられない。慈悲的性差別がなくなる見込みはない。

男性が男性であるという理由で一律に社会的強者とみなされ、弱者に転落しても支援や保護からこぼれる状況は、これからも続くだろう。何らかの弱者性を持った男性は、転落する前に自助しなければならない。

私たち男性がひとたび社会的弱者に転落すれば、助けが得られる望みは薄いからだ。男性にとって、自分を助けられるのは自分だけだ。MGTOWという生き方もひとつの解になるだろう。
 

■ 補足
[1-12]の膨大な脚注(厚生労働省の公開データなど)のリソースは、元リンクに掲載されています。


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