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あざといあの子は振り向かせようと必死です

僕、〇〇は普通の高校3年生。

普通に勉強して、部活にも取り組んできた
どこにでもいる平凡かつ地味な高校生活を送っている。

彼女は居ないし、居たこともない。
彼女欲しいなんて思ったこともない。
客観的に見れば、負け組みたいな人間だ。

そんな僕のクラスには、
学校内でトップクラスの女子がいる。

その女子の名前は、一ノ瀬美空。

彼女はあざといで有名だが
その中でも「ナチュラルあざとい」という分類で
彼女は特に何の意識もないのに、
男子たちから「あざとい」と言われている。

クラスの男子たちは、
そんな彼女に一度はキュンとしている。

だけど僕に関しては、それが全くない。
僕がおかしいのだろうか…?
いや、みんなが勝手にキュンとしてるだけ…。

まぁ、とにかくそんなことは置いておこう。
僕にとってはもう見慣れたし、気にすることもない。

それから気にしなくなったのだけど…
まさか、あの子があんな感じになるなんて…


ある日、僕はいつものように学校へ行くと
彼女も同じタイミングで学校にやって来た。
すると真っ先に僕の元にやってきて…

「おはよう!」と声を掛けてきた。
僕は「おはよう…」と返した。
声を掛けてきたときの彼女は笑顔に満ちていた。

〇〇:(ご機嫌だな………)

僕は、そんな呑気なことを考えていた。

今日、偶然だったからと考えていたが翌日も…
美空:「おはよう!」

またその翌日も…
美空:「おはよう!」
上機嫌で僕に声を掛けてきた。

〇〇:(何かあったのか………?)

登校したときの挨拶だけで終わればいいが
そんな訳にはいかず…

ある日には、
美空:「〇〇くん。」
〇〇:「ん?何?」
美空:「この問題が解けなくて…解き方教えて…?」
こんな感じで僕に話しかけてくるようになる。

〇〇:「ごめん…俺じゃ上手く教えられない。
    俺なんかより頭良い人がいるから
    その人に頼めばいいと思うよ…」

彼女の様子がどこかおかしいと思った僕は、
これ以上、踏み込むことはしなかった。

僕は、決して頭が悪いわけではない。
むしろ、良い方である。

彼女もそれを知っていたから僕を頼ったのだろう。
僕はその日、少しだけ罪悪感を残した。


それから一ヶ月後の7月
季節は夏に入り、暑さが厳しくなり始めた頃。

僕が朝起きると、何か頭がボーっとする。
額に手を当ててみると、熱い。頭が痛い。
軽い熱中症だろうか…?
彼女の頼みを断ったことが災いしたのだろうか…?

〇〇:(学校、行かなきゃ…)

僕は、空元気で家を出て学校へ向かう。
でも、ズキズキと頭痛の痛みが襲ってくる。

痛みと闘いながらも、なんとか学校へ着いた。
ところが、着いたことに安心した途端…

バタン!!

目の前がぼやけたように見えるなか、
僕は前のめりに倒れた。

??:「〇〇くん!」

誰かの声が聞こえた。
でも、めまいなのか目の前がはっきり見えない。
だから誰なのかも分からない。

数秒後、僕の目の前にいたのは一ノ瀬だった。
あれ?俺はなんで、こんな所で倒れてるの?

〇〇:(起き上がらなければ…)

起きあがろうとすると…

美空:「ダメ!担架が来るまで待って…」

彼女に制止される。

そして、担架に乗せられた僕は保健室へと運ばれた。
担架に乗せられた1分間、僕はため息をついた。

〇〇:(まさか一ノ瀬に見られるなんて…ダサっ!)

保健室のベッドで横になった僕は、
氷の入った袋を額に乗せられて体温を測った。

39.5℃

先生:「熱中症だね…」
〇〇:「はぁ…」

また溜息をついてしまった。

数分後
美空:「失礼します!」
彼女が保健室にやってきた。

美空:「〇〇くん…大丈夫?」

心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。

〇〇:「うん…大丈夫!」
美空:「ちょっと、これ取るね…」
〇〇:「ん?」

彼女は、額に乗っている氷の袋を取って
手を当ててくる。

〇〇:「………」
美空:「う〜ん…やっぱり熱いね…」

〇〇:「はぁ…なんでこんなことに…」
思わず彼女の前で、本音を漏らしてしまう。

美空:「〇〇くん、無理しすぎだよ…」
〇〇:「別に無理なんか…」
美空:「美空が言うんだから、無理してるの!」
〇〇:「何それ…笑」

少し強がった彼女に、少しだけ笑ってしまった。

美空:「美空、知ってるんだよ?
    〇〇くんが優しくて
    みんなから頼りにされてること…。
    そして、実は頭が良いってことも…」
〇〇:「別に俺なんか優しくないよ…」
美空:「本当に優しい人は、自分が優しい人ってことに
    気づかないものなんだよ…?」
〇〇:「………」

一ノ瀬、どうして…?
普段はこんな姿、見ることなんてないのに…

なぜか僕は、今にも泣きそうになる。
でも彼女の前で泣きたくはない…

一ノ瀬の周りにはいつも男女問わずに人がいる。
だからこそ、疑問を感じてしまう。

どうして、今こうして僕の近くにいるんだろう?
みんなのところへ戻らなくていいのかな?

〇〇:「なぁ…一ノ瀬。」
美空:「ん?」
〇〇:「ごめん…
    一ノ瀬のこと、何も分かってなかった。」
美空:「えっ?」
〇〇:「他の男子と違って、俺は一ノ瀬を少し避けた。
    この前、問題を教えてほしいって頼まれて
    断ったこと。
    あのとき、一ノ瀬が俺を頼ってくれたのは
    俺のことを知りたいっていう本心なんだなって
    今、気づいた…」
美空:「知りたいよ…〇〇くんのこと。
    でも、〇〇くんは他の子と違って
    私にドキッとしたりすることも無い。」
    だから美空は〇〇くんと
    真剣に正面から向き合うよ!
    だから…〇〇くんも逃げないでね…」
〇〇:「………分かったよ!」

一ノ瀬が微笑んだ。
頭痛がまだまだ残るなか、僕も微笑んだ。

次の日、僕の熱中症も回復を見せて
その翌日からは再び元気に学校へと向かった。
一ノ瀬に会える喜びも背負って…


……終


最後までお読みいただき、ありがとうございました。