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ユリア・ハマリ『憐みたまえ わが神よ』

昨日午後のお客様。
いらっしゃったのは2回目。

クラシック音楽のことはそんなに詳しくはないけれど、色々な機会でふと耳にした曲の全体や、映画が好きなので、挿入曲がクラシックだと、その曲について知りたくなるという。

今日はメモ帳を取り出して、「バッハの『憐れみたまえ わが神よ』という曲があったら聴かせていただきたい。」と。

マタイ受難曲

あるもないも、バッハの『マタイ受難曲』は私にとって『無人島曲(残りの人生をただ一人、名もなき島で過ごすことになって、唯一持って行くことが許される曲)』の2択のうちの一つ(もう一曲はブルックナーの『交響曲第8番』)。

正確に数えたことはないけれど、マタイ全曲セットの音盤は恐らく50セットは下らない、かと。

「マタイは限った時にしか聴かない」とか「聴く際に大きな決断がいる」「聴くための理由が要る」という方も多いが、店主の場合、もちろんそういうこともあるが、ドライブ中、ウォーキング中、電車の中、就寝前、入浴中と「いつ聴いてもマタイはマタイ」なので、あらゆる時、あらゆる演奏にいつも発見がある、と言ってもいい。

また、聴くに値しない『マタイ受難曲』はこの世に一つもない、とも思う。

日本が世界に誇るバッハ・コレギウム・ジャパンも、1年間毎週1回の練習を続け、やっとステージでご披露できることになったアマチュア合唱団のマタイも、その点では横一線。

閑話休題

『憐れみたまえ わが神よ』は少なくともマタイのアリアの中では最も人気がある曲だし、これを聴いて泪する者も多い。

イエスが弟子のペトロに「一番鶏が鳴くまでの間に、お前は私のことを知らない、と3度言うだろう。」と予言、ペテロはそれを真っ向から否定するが、実際はイエスの言葉通りになり、悔恨の涙を落とす。

この聖書の場面が歌われた後、それを受けてアルトによって歌われるアリア、それが『憐れみたまえ わが神よ』だ。

さて、お客様のために誰の『憐れみたまえ…』をかけようか?と思案し、ふと手が伸びたのが、ハンガリーを代表するメゾ・ソプラノ、ユリア・ハマリが参加した1976年録音のLP。

当時のハンガリーを代表する演奏家が大集合した、正に国家の威信をかけたライブ盤。お客様には、このアリアがマタイ全体でどういう位置付けなのか?マタイは全曲演奏で3時間以上かかること、などをお話しして、第36曲のレジタティーヴォから対訳を見ながら聴いていただいた。そして第39曲の「憐れみたまえ わが神よ』。

ユリア・ハマリ

ユリア・ハマリは今年の秋で80歳になるが、後進の指導に熱心とも聞く。

レコード史上、彼女を語る際に欠かせないのが、「カール・リヒターとヘルムート・リリングという二人のバッハのオーソリティに寵愛された」という事実。「こうも違うか!」と思えるほど、バッハの音楽観が正反対な二人のマタイ録音(リヒターは映像作品)に起用され、二人の教会カンタータの録音にも数多く参加したハマリ。

その魅力は声のふくよかさと清新さの同居。妙な癖や人為的な「泣かせ」に入ることもなく、聴く者をバッハの音楽に自然と誘うところ。

また、これはバッハには関係ないけれど、”So Cute!“なビジュアルで、ケルビーノなどズボン役が超お似合い。



では、インスタサイズで恐縮だが、ユリア・ハマリの『憐みたまえ わが神よ』のターンテーブル動画を。



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