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クリスマス協奏曲集

季節にちなんで今回は『クリスマス協奏曲集』のご紹介。

クリスマス協奏曲とは

「クリスマス協奏曲」とは、聖書に因むパストラーレ楽章、あるいはそれに相当する楽章を持つバロック時代の協奏曲のこと。「パストラーレ」は牧歌的な性格を持った音楽のことで、この場合は「羊飼いの音楽」を模した音楽ということになる。
聖書によれば、キリストは父ヨゼフと母マリアが住民登録のためベツレヘムへ訪れた際、宿がなかったため野外で生まれ、飼い葉桶に寝かされた。
そして、天使たちが救い主の生誕を、周辺に住む羊飼いに知らせたとされている。決して満たされた生活を送っていなかった羊飼いたちに、いち早くキリストの降誕が知らされたことに、イエス・キリストが常に貧しい人々とともにあったことが、早くも暗示されている。

合奏協奏曲

有史以来、宗教と音楽は常に関係しあってきたことはご承知のとおりであるが、バロック時代のイタリアの作曲家たちは、合奏協奏曲の形式を使い、そこにパストラーレ楽章を含ませた、いわゆる「クリスマス協奏曲」を作曲している。
「合奏協奏曲(コンツェルト・グロッソ)」とは、数名の独奏奏者たちの小さいグループ「コンチェルティーノ」と合奏の大きなグループ「リピエーノ」の2つが掛け合い、そこに生まれる対比、音の強弱で聴かせるバロック時代の器楽曲形式。
その先駆けとなり、その後の模範となったのがコレルリ『合奏協奏曲集 作品6』の全12曲である。イタリアの作曲家たちはこれに続き、トレルリ、ジェミニアーニ、アルビノーニなども手を染めている。
『四季』で知られるヴィヴァルディもその例外ではなく、特に『調和の霊感(レストロ・アルモニコ)』と副題が付けられた『合奏協奏曲集 作品3』の全12曲は、コレルリのそれとは異なるアプローチながら、このジャンルの代表曲とされている。
加えて、ヘンデルも合奏協奏曲集を書いているが、中でも『合奏協奏曲集 作品8』全12曲が名作の誉れ高い。
コレルリ、ヴィヴァルディ、ヘンデル、この3名の作曲家の合奏協奏曲集は、座右に置いておくべきバロック音楽の傑作である。
数々の弦楽合奏団、室内管弦楽団の名盤があるが、例えば3セットともレコーディングしているハンガリーのフランツ・リスト室内管弦楽団の、曲の核心に迫るような、そして録音も素晴らしいLPを是非お薦めしたい。

クリスマス協奏曲の音盤

そんな様々な作曲家の合奏協奏曲から、パストラーレを含んだクリスマス協奏曲をセレクトし一枚の音盤に収める、というアイデアはLPレコードが発明されて以来、様々な演奏グループが実践し、発表している。

コレルリの作品はそれらにほぼ収録されているが、それ以外のセレクトはそれぞれだ。
こうして様々な団体がこの企画に取り組むということは、やはりこれらを聴くことがクリスマスの音の風物詩であり、キリストの降誕を祝いたい、と思う人が多いからだろう。

ギュンター・ケールとマインツ室内管弦楽団

そんな音盤から、今回は1962年に録音されたギュンター・ケールと彼が率いるマインツ室内管弦楽団のLPの【ターンテーブル動画】をご覧、お聴きいただきたいと思う。

ギュンター・ケール(Günter Kehr, 1920–1989)はドイツ・ダルムシュタット出身のヴァイオリニストで指揮者。1955年にマインツ室内管弦楽団を結成、コンサート活動に加え、アメリカのレーベル、VOXにバロックから古典派の作品を数多く録音している。

私が初めてケールとマインツ室内管弦楽団の存在を知ったのは、40年ほど前、雑誌「レコード芸術」でモーツァルトの交響曲が特集された号でのことである。
彼らは(何故か)後期6曲(第35番、36番、38番、39番、40番、41番)を除くすべての交響曲を録音していて、それらと、当時交響曲全集を完成していたカール・ベームとネヴィル・マリナーのそれを比較し、論じた記事が掲載されていた。ベームとマリナーは既に聴いたことがあったが、ケールは未知のアーティストであった。どんな演奏か聴きたいと思ったが、そのLPをレコード屋で見かける機会はなかった。

そのうち、彼らの別のレコードを手にすることになる。
ズザーネ・ラウテンバッヒャーが同じくVOXに録音したバッハのヴァイオリン協奏曲集のバックを務めていたのが、ケールとマインツ室内管弦楽団だった。

ラウテンバッヒャーと組んでバッハを録音する、というのは、そのままケールの音楽性を示しているに他ならないように思えた。ラウテンバッヒャー同様、ドイツの叩き上げの演奏家で、しっかりとし造形をベースに、そこに丹念にメロディーを紡いでいく。決して華やかではないが、確かな質量を感じ、作品の本質に迫る音楽を作っていく人だ。
ケールとラウテンバッヒャーは『ブランデンブルク協奏曲』もともに録音している。

そんな中、ケールとマインツのモーツァルト交響曲集はCD化され、無事手に入れることができた。
さらに、ドイツVOXのオリジナルLP全曲セットと運よく巡り合い、今ではモーツァルトの交響曲のレコードの中でも特に大切なセットとなった。

【ターンテーブル動画】

さて、そんなギュンター・ケールとマインツ室内管弦楽団が、1962年にドイツ・アルヒーフにレコーディングした『クリスマス協奏曲集』。
収録曲は順にトレルリ『ト短調 作品8の6』コレルリ『ト短調 作品6の8』マンフレニーディ『ハ長調 作品3の12』ロカテルリ『ヘ短調 作品1の8』の4曲。
彼らのバッハやモーツァルト同様、衒いも装飾もない演奏。しかし質素にすればするほど、その人の品格が逆に高まっていくような「清貧の美」に貫かれた格調がこの演奏にはある。

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