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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #48~"パリ・ベル・エポックのディーヴァ" エマ・カルヴェ

『ディリリとパリの時間旅行』

皆さんはアニメ映画『ディリリとパリの時間旅行』をご覧になっただろうか?

『ディリリとパリの時間旅行』はベル・エポックのパリを舞台に、ニューカレドニアからパリにやってきたフランス人とニューカレドニア人との混血児、ディリリが、この時期を彩った実在の人物たちと出会い、誘拐事件を解決して行く、というストーリー。

ベル・エポック(Belle Époque)
とは、19世紀末から第一次世界大戦が勃発(1914年)した頃までの、華やかさに溢れ、文学、美術、音楽などの文化・芸術、そして学術が成熟して輝きを放っていたフランス・パリを表現する言葉=「よき時代」。

当時のパリ市街を忠実にアニメーションにし、そこに100人以上もの実在した有名人が次々と登場する。
キュリー夫人パスツールといった科学者、ピカソマティストゥールーズ=ロートレックミュシャといった画家たち、作家のプルーストジットらの作家たち、サティがピアノを弾くシーンもある。女優サラ・ベルナールエドワード皇太子といったセレブがジュエリー・ショップを訪れる・・・。
そんな中、ドビュッシーの新作オペラ(!)『ペレアスとメリサンド』に出演する当時のパリを代表するディーヴァも登場。
それがエマ・カルヴェ(Emma Calvé, 1858年8月15日-1942年1月6日)である。
この作品ではこんな感じで描かれている。

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因みにエマ・カルヴェの舞台衣装を作るのは"キング・オブ・ファッション"、”ファッション界のピカソ”の異名を取ったポール・ポワレだ。

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エマ・カルヴェ

エマ・カルヴェは1881年にブリュッセルのモネ劇場でグノーの『ファウスト』に出演しオペラ・デビュー、その後、ミラノ・スカラ座で歌い、ナポリ、ローマ、フィレンツェのといったイタリアの一流オペラハウスに出演している。

パリに戻ってきたのは1891年。マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』のフランス初演で当たり役となったサントゥッツァ役で出演している。

そして、彼女の凄さをヨーロッパ、そしてアメリカに知らしめたのがビゼーの『カルメン』のタイトル・ロール。
彼女は役作りのためスペインに訪れ舞踏を勉強し、そしてタバコ工場の女工であったカルメンを感じるために、実際にタバコ工場に訪れ、女工たちつぶさに研究したという。
1894年、パリ・オペラ・コミックにカルメン役で出演、「史上最高のカルメン」の称号を欲しいままにした。

また、カルヴェは1893年から1894年のシーズンにトマの『ミニョン』のタイトル・ロールでアメリカにも登場。サントゥッツァ役でメトロポリタン・オペラにデビューを果たした、その後、合計で261回メトロポリタンには出演した。

1904年、カルヴェはコンサートのリハーサルでピアノ伴奏を務めた大指揮者
フェリックス・モットルに、現キーでなく、低く移調して伴奏するように求めたが、モットルがそれを拒否したため、これを機会にメトロポリタンでのキャリアに終止符を打ったという。

しかし、決してこの頃に彼女の声が完全に衰えていたと決めつけるのはいささか早合点のように思える。
何故なら現在聴ける彼女の音源は、1907年から16年にかけてヴィクター・トーキング・マシーン・カンパニーによって録音されたもので、そのどれもが高いクオリティ、フランス随一のディーヴァとしての魅力、華やかさを十分感じさせるものだからだ。
録音時期とレーベル、そしてメトロポリタンを代表するソプラノ、という点で、先日ご紹介したワーグナー・ソプラノ・ドラマティコのヨハンナ・ガドスキと共通する部分が多い。

【ターンテーブル動画】

今回はそんなカルヴェの歌声をオペラの名アリア、そして歌曲でお楽しみいただこう。全部で5曲。
まずはカルヴェの代名詞『カルメン』『ハバネラ』。

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続いてビゼーも賞賛した先輩作曲家、フェリシアン・ダヴィッド 歌劇『ブラジルの真珠』より『かわいい小鳥』

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3曲目はヴィクトル・ユゴー作詞のグノー『セレナード』

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そしてマスネ『エロディアード』よりサロメ『彼は優しい人』。

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最後はフォスターの『故郷の人々-スワニー河』

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いずれも1907年、08年、カルヴェ、40代最後期の録音。確かに全盛期は過ぎていたかもしれないが、彼女の歌声がこうして音盤に残されたこと自体に感謝、である。

なお、『ディリリとパリの時間旅行』のミシェル・オスロ監督の作品には本作同様、人種や国籍、宗教に差別されることのない精神をベースにしておりものが多く、ダイバーシティグローバリゼーションの考え方を推し進めるものが多いことを是非お伝えしておきたい。

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