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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #78〜マリア・バリエントス&マヌエル・デ・ファリャ ファリャ『7つのスペイン民謡』(1927/28)

ラテン歌曲〜野趣と洗練のコンフュージョン

スペインやポルトガル、あるいは南米で20世紀に書かれ、歌われた歌曲が好きだ。
ラテンのリズム、元々は民謡に端を発した素朴で野趣溢れる生活歌、仕事歌が、クラシックを、西洋音楽を学んだ作曲家が採取したりインスパイアされたりすることにより、洗練のエッセンスがさりげなく付け加えられた歌曲。そしてそれを歌う歌手の地声・・・。
仮に初めて聞く名前の作曲家の作品であっても、それを享受する喜びは思いのほか大きい。

未知の作曲がでもそうなのだから、これが歴史に名を残す作曲家の歌曲であればなおさらだ。

マヌエル・デ・ファリャ(Manuel de Falla, 1876年11月23日  - 1946年11月14日)が1915年に作曲した『7つのスペイン民謡』は、まさに20世紀ラテン歌曲を代表する作品。その名の通り、スペイン各地の民謡や伝統曲・舞曲など7曲で構成される連作歌曲。全曲でも15分程度で終わる珠玉の曲集。
当然、ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレステレサ・ベルガンサなど、名だたるスペイン出身の女性歌手たちがレパートリーとし、レコーディングも行っている。

78rpm時代の絶対的音盤2つ

ただ、そんな数ある『7つのスペイン民謡』の音盤で、絶対に忘れてはいけないものが2つある。
ひとつは我が子を死産で出産後、数時間後自らも命を落とした悲劇のコロラトゥーラ・メゾ・ソプラノ、コンチータ・スペルヴィア(Conchita Supervía, 1895年12月9日 - 1936年3月30日)が1930年に録音した78rpm。

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スペルヴィアについては以前この「note」でも触れているので、是非ご参照いただきたい。

マリア・バリエントス

そしてもうひとつが、マリア・バリエントス(Maria Barrientos, 1884年3月4日-1946年8月8日)の78rpmだ。

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プレイエルで伴奏を弾いているピアニストの名前にご注目いただきたい。
そう、作曲者本人ファリャが伴奏ピアノを弾いているのだ。1927年〜28年にかけての録音と言われている。

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バルセロナに生まれたバリエントスは、地元のノヴェデーデス劇場で10代のうちにデビュー。
すぐにイタリア、ドイツ、イギリス、フランスでも活躍し、ヨーロッパの主要オペラハウスから引っ張りだこのコロラトゥーラとなる。
しかしバリエントスが最大に絶賛されたのはヨーロッパではなく、南米、特にブエノスアイレスコロン劇場でのことだった。
そしてその後はニューヨーク・メトロポリタン・オペラでも歌い、1920年代中頃までオペラハウスで活躍、オペラ引退後もステージ・シンガーとして、フランス歌曲、スペイン歌曲を主に歌い、1930年代前半には引退している。

【ターンテーブル動画】

『7つのスペイン民謡』がレコーディングされたのは1927年だからバリエントスは43歳。オペラからは身を引き、ソロ・ステージとレコーディングにその完成された歌を披露し、残していた円熟期だったはず。
作曲者の自作自演が必ずしも優れた演奏とは言えないが、ファリャのバリエントスの歌に油を注ぐようなバッキングが、この野趣と洗練のコンフュージョンのさらに鮮やかなもとのとしている。



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