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78rpmはともだち #4 ~78rpmを買ってみる~

1948年にLPが登場する以前の音楽鑑賞ソフト(音盤)である78rpmについて綴るこのテキスト。
一応最終号ということで、「では、実際78rpmをどうやって手に入れるか?」編をお届けする。

普段使い=1枚1,000円以下

#3で「普段使い」という言葉を何回か使った。
78rpmそのものは、今から60年以上前に生産が終了しているので、その点では「古道具」、価値があるものなら「骨董」に分類される。
そんな78rpmを普段使いするということで、まず前提におきたいのは、「安く手に入れる」ということ。

残存する絶対数の少なさなどにより、中には1枚で数十万するような78rpmも市場には存在する。それが名演奏で傾聴するに値するものであっても、さすがにそれを普段使いの対象として見ることはできない。
古く価値のある伊万里の皿を普段の食事には使わないのと同じだ。

78rpmに限らず、古いプロダクツの市場はコレクター、マニアの売買によって成り立っている。
しかし、#2で記したように78rpmを聴く意味や目的を考え、「78rpmはともだち」と言い切るためには、ともだちとしてのカジュアルなお付き合いを願いたい。
伊万里の皿ではなく、名もない陶工によって作られた益子、常滑、信楽のようなざっくりとした風合いを持った、古いが安く手に馴染むような器のイメージ。

実際、往年の名演奏家の78rpmを1枚1,000円以内で買うことは容易い。
因みに、今回タイトルに掲げた『カルメン』の有名ナンバー2つを収めたニノン・ヴァランの78rpmは、850円で手に入れたもの。ヴァランは20世紀前半のフランスを代表するソプラノで、作曲家ドビュッシーの寵愛を受けた人だ。これは1930年代、彼女全盛期の記録である。

ヤフオク!

安く手に入れるために最も頼りになるのは「ヤフオク!」だ。
因みにこれを書いている段階で、「SP盤」のカテゴリーで検索すると20,758点がヒットする。これを「クラシック」のカテゴリーでさらに絞り込むと、2,806点になる。
その中で一番高額なもの(1枚当たり)は150,000円。演奏者を見ればこの価格に納得がいかないわけではない。
逆に一番安いものを見ると、3枚組で99円。状態はあまり芳しくなさそうだが、20世紀を代表するとある指揮者の代表的名演の日本盤78rpmだ。

78rpmのコンディションとは?

そう、オークションや通信販売での一番の悩みが、コンディションの見極め
「ヤフオク!」を例に取れば、78rpmに「未使用」「未使用に近い」はまずないから、良くて「目立った傷や汚れなし」が最高、そして「やや傷や汚れあり」「傷や汚れあり」と続く。
もちろん、「出品者の判断基準がどこにあるのか?辛めなのか、甘いのか?」によっても、その78rpmのコンディションが実際はどんなものなのかは変わってくる。
更に「傷や汚れあり」の場合でも、それが再生にどう影響するのか?=グルーブ(音溝)の健康状態と相関関係があるのか?というのも思案どころだ。

78rpmの出品者、特にまとまった数を出品しているのは業者さんのことも多い。コンディションの判断は実聴ではなく、見た目で行われていることがほとんど。

実はここに落とし穴がある。見た目と実際の鳴りは必ずしも比例しないのである。
盤面に曇りやカビ跡、キズがあったとしても、それがグルーヴの中までに及ぶものではなく、表面的なものであれば再生に影響はあまりない。
そもそも、78rpmの原材料上、キズはつきやすい(LPよりはつきにくい)し、カビも生えやすい。コンディションの良し悪しに関係なく、ノイズの多少はあって当然。

結論を急げば、「傷や汚れあり」であっても、問題なく聴け、「鑑賞」できる盤の確率はかなり高い
そもそも1枚1,000円以下で購入するのだから、買ってみたらひどい代物だった、ということがあっても諦めがつくし、その出品者の判断基準を学ぶための授業料だと思えばいい。

難敵は「反り」

逆に一番厄介なのはキズや汚れではなく、反りだ。

78rpmに限らず、アナログレコードにとって反りは大敵。
反りの原因は圧力。
シェラックが主原料である78rpmは、塩ビが主原料のLPと比較すれば熱には比較的強い。しかし、LPほど弾力がない。経年変化、重さなどが関係し、保存方法によっては反りが生じる。
反りがある78rpmにプレーヤーアーム、ピックアップを降ろせば、ピックアップは上下に大きく動き、それによる雑音が生じたり、カートリッジの腹が盤面に接触する。ひどければ針とびも起きる。
音楽鑑賞にはほど遠い。

さて、購入した盤に演奏に支障が出る反りがあった場合、それを直す方法は何か?
それは反りの原因である熱と圧力をもって、ということになる。

圧力で言えば、盤の上下から相当の重量をかけ挟み込む、ということになるが、これは半年以上の時間がかかる。気が長い人以外には不向きな方法だ。
そこで残されたのは
ドライヤーで適度に温め、盤が柔らかくなったところで水平に一定の圧力をかけて、平らにする、という方法もあるが、これは探り探りで確実性が低い。

ズボンプレッサー登場!

ネットでも書かれていることだが、一番適切でコンビニエントな反りの修正方法は、ズボンプレッサーを使うこと。
ズボンプレッサーの適度な温度(60°ほど)、そしてまさにプレスするという方法が、78rpmにとって適切なのだ。

ズボンプレッサーのプレス時間はおよそ15分。しかし、プレス終了の表示が出てもすぐに取り出してはいけない。余熱が完全に冷め、盤が安定するまで待つことが大切。スイッチを入れてから45分程度で仕上がり、という感じ。
そのサイズからズボンプレッサー1回の作業で2枚の78rpmの反りが修正できる。
もちろん、完璧には修正できないが、このひと手間で「観賞」に値するコンディションにはなる。

では、実際に反りがあった78rpmがズボンプレッサーによってどう蘇ったか?という動画を作成したので、こちらをご覧いただきたい。

Discogsも活用

なお、ヤフオク!以外にお手軽に78rpmを購入できる方法として、音楽データベースサイト「Discogs」のマーケット・プレイスに参加している海外のレコード・ディーラーから購入する、というのもある。
78rpmに力を入れているディーラーがいくつかあり、国内の専門店で購入するよりも安い場合がほとんど。もちろん、コンディションの見極めはヤフオク!同様しにくいが・・・。

まずは「78rpm時代の往年の名歌手」を

「78rpmを一度聴いてみようかな」と思ったら、まず最初の一歩は78rpm時代に活躍し、LP時代には録音を残していない歌手によるオペラ・アリアや歌曲の盤を買ってみるのがおススメ。
恐らく、その歌手の78rpm音源は何曲かが集められ、アンソロジーとしてCD復刻されていたり、ナクソスのライブラリーやYouTubeで聴くことも出来たりする。
そこからあたりを付けて、いいなと思った歌手、よく知っているナンバー、自分が好きなナンバーが収録された78rpmを買って聴いてみるわけだ。
そこから78rpmとのともだちライフを拡げてみたらいかがだろう?

専門店・・・?

「78rpmを普段使いとして安く手に入れる方法」は以上でおしまい。
このシリーズもこれで終わろうかと思っていた。
しかし、一度78rpmの魅力を知ってしまうと、「これは絶対に欲しい」「このアーティストの78rpmを集中して聴きたい」といったコレクター、マニア心が生じることもあろう。
すると自分の財布と相談して、「ここは勝負!」と思った時は専門店で購入する、ということに・・・。

よって次回はその専門店について綴ってみたいと思う。
引き続き、お付き合い願いたい。

今日の【ターンテーブル動画

今回は78rpm最初の一歩としておススメした「往年の名歌手の有名な作品の録音」の一例として、冒頭で触れたニノン・ヴァランのビゼー作曲『カルメン』から『ハバネラ』と『ジプシーの歌』。
ニノン・ヴァランはベルカント・オペラ、フランス・ロマン派オペラ、ヴェリスモ・オペラ、歌曲ではドビュッシーやフォーレなどに名録音を数多く残している。



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