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78rpmはともだち #3 ~手軽に78rpmを再生してみる~

LPが1948年に発売される以前の音盤、78rpmについてのテキスト第3号。

歴史や素材、価値に続いて、今回は実際に78rpmを聴くためにはどうしたらいいのか?という「お作法」編をお届け。

日本で78rpmの生産が完全に終了したのは1962年。1950年代に聴くことができた78rpmを、60年以上経過した今の世で聴くためにはどうしたらいいのか?というワケである。

蓄音機

78rpmと聞いて最初にイメージするのは、恐らくそれを再生する装置、蓄音機だろう。
有名な意匠はHIS MASTER'S VOICE。蓄音機のラッパに聞き耳を立てる犬、ニッパー。
彼は亡き主人の声が録音された78rpmを、蓄音機のそばでじっと聴いているのだ。
イギリス版忠犬ハチ公・・・。

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当時生産された蓄音機は、現在でも手に入れようとすれば割と簡単に手に入る。
骨董的価値を伴った何百万円するものから、1万円以下で手に入る家庭用ポータブル蓄音機まで専門店、そして「ヤフオク!」などのオークションで購入可能。
ただ、いずれの場合もメンテナンスや今自分が使っているオーディオ・システムとの互換性を考えると、マニア対象の再生装置と考えた方がいい。
蓄音機は電気を使わずゼンマイを巻いてターンテーブルを動作させ、再生針も鉄針や竹針で、LPのレコード針とは違って1面聴いたら交換、あるいは削る、といった手間がかかる。
メンテナンスは面倒で、お金もかかる。
他のオーディオ・システムとの互換性がないから、アンプを通してその音をライン録音することもできない。

21世紀の現代、78rpmを「普段使い」として聴き、楽しむためには、やはり今自分が所有しているオーディオ・システムにどう組み込むか?ということ一点に尽きるわけだ。

必要なもの

では、そのためには何が必要か?ひとつずつ説明していこう。

アナログプレーヤー

既にアナログレコードを楽しむためのプレーヤーを持っていても、おそらく78rpmは聴けない。
何故なら、回転数のセレクトが33 1/3rpmと45rpmの2つしか用意されていないから。
LPやドーナツ盤の生産が始まってからしばらくは、78rpmもセレクトできるプレーヤーがあったが、78rpmの需要が少なくなり、3セレクトできるプレーヤーは姿を消していった。
ドイツ・テレフンケンなど、1970年代に生産されたプレーヤーの中に78rpm可のものがあり、中古市場でも思いのほか安く手に入る。
しかし、ここでも安定性、簡便性、ストレスフリーを重視したい。
とすると、最も賢い方法はテクニクスの現行機種SL1200-MK7(2019年に発売されたばかり)か、中古のMK4を購入することだ。
いずれも78rpmのセレクトができる。

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SL1200-MK4

私は6万ちょっとで「ヤフオク!」で落札した美品、完動品のSK1200-MK4を愛用している。

カートリッジ

プレーヤーの次はカートリッジ。レコード針だ。
カートリッジの世界は奥深い。オーディオ・マニアの中にはここに信じられない大金をつぎ込む人がいる(オーディオ・ケーブルにも)。
しかし、ここでも「普段使い」がテーマなので、簡便性、利便性、コストパフォーマンスを最優先する。

通常のステレオ針で78rpmが聴けないわけわけではない。
しかし、溝(グルーヴ)の幅が全く違い、適切な針圧も塩ビ製のLPとシェラック製の78rpmでは違うので、「カスカス」な音しかしない。

結論はオーディオテクニカの78rpm(SP)再生専用のカートリッジVM670SPだ。

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オーディオテクニカにはAT-MONO3/SPという78rpm専用モデルが20,000円ほどで用意されているが、こちらはMC型で針交換は本体交換式。本体をメーカーに送ったり販売店に持ち込まなければいけなく、交換品が届くのは早くても1週間後。これは結構面倒くさい。
VM670SPはVM(MM)型なので、針部分のみを交換すればいい。
使っている針が摩耗したら、交換針をショッピングサイトで買うだけ。
ネットショッピングでのVM670SPの実勢価格は18,000円程度、交換針は9,000円程度だ。
加えてVM670SPの利点は、モノラルレコード再生専用のVM610MONOと本体がおなじ=互換性があるので、交換針だけ付け替えてあげれば、モノラルのLPやシングルも楽しめる。
交換針を付け替えて、プレーヤーの針圧を4gから2gに変えてあげるだけ。

VM610MONOの交換針VMN10CB

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VMN10CBの実勢価格は8,000円程度。
これで78rpmとモノラルレコードの両方が気軽に楽しめる。

フォノイコライザー

もし、SLシリーズ以外のプレーヤーでステレオLPを楽しんでいて、MK4やMK7を78rpmやモノラル専用機として使うのならば、アンプへの入力について考える必要がある。
普通、現行のアンプにアナログプレーヤー用のPHONO入力端子は1系統しかなく、2台目のプレーヤーは他のLINE入力端子に繫ぐことになる。
しかし、PHONO入力とは異なり、出力の小さいアナログ信号を増幅させるフォノイコライザー機能がLINE入力にはない。
従って、外付けのフォノイコライザーをプレーヤーとアンプの間に噛ませる必要がある。
アナログプレーヤーを生産しているメーカーであれば、フォノイコライザーを自社製品にラインアップしているところも多い。
だが、結構な高額だったりするのも事実。
更に78rpmやLP初期盤は、イコライザーカーヴが国際規格RIAAに統一されるまで、メーカー各々のイコライザーカーヴを使用して生産されていた。
従って、78rpmやLP初期盤を聴くには、その盤の適切なカーヴを選ぶ必要がある。
ところが、今のアンプに搭載されているトーンコントロールはBASSとTREBLEだけ。それ以上の細かいトーンコントロール(イコライザーカーヴ)を設定することができない。
そこで手に入れたいのが、イコライザーカーヴを何種類か選択できる、78rpmやモノラルレコード鑑賞を前提に作られたフォノイコライザーだ。
それもよいコストパフォーマンスで・・・。

合研ラボ

ここで強くお勧めしたいのが合研ラボ制作のフォノイコライザーGK05monoSPだ。
その名前の通りモノラルレコードと78rpmを聴くために制作され、簡単に適切なイコライザーカーヴがセレクトできる。
しかも安い。27,800円だ。
私が使用しているのは現行機種と仕様が一部異なるようだが、手のひらに乗る程度の質実剛健、シンプル極まりない実用品だ。

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使用中のGK05monoSP

まとめ

以上、少し長くなってしまったが、これらを現行のオーディオ・システムに組み込めば気軽に78rpmが楽しめる。

プレーヤー:テクニクス
SL1200 MK4 or MK7
カートリッジ:オーディオテクニカ
VM670SP
フォノイコライザー:合研ラボ GK05monoSP

78rpmを楽しむための「お作法」でした。

次回は「システム環境は整ったが、肝心の78rpm音盤をどう手に入れるのか?」について。

今日の【ターンテーブル動画】

この声に「うっとり」していただきたい。
20世紀最高のモーツァルト・ソプラノ、ジュザンヌ・ダンコが1947年に録音した「イタリア古典アリア」2曲を収めた78rpm。

是非、この声からイメージする「いろ」を心に浮かべて・・・。


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