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78rpmはともだち #7 ~R.シュトラウス自作自演『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』~

1948年にLPが登場するまでの音楽鑑賞ソフト(音盤)であった78rpmについて綴るシリーズ。
前回に引き続き、私がコレクトし愛聴する指揮者の78rpmについて・・・。

リヒャルト・シュトラウス

リヒャルト・ゲオルク・シュトラウス(Richard Georg Strauss、1864年6月11日 - 1949年9月8日)。
後期ロマン派を代表する作曲家。
二つの世界大戦を経験し、管弦楽曲、オペラ、そして歌曲を中心に、若い頃から晩年に至るまで枯渇することなく作曲を続けた点において、特筆すべき作曲家である。
バロック期のハインリッヒ・シュッツ、ヨハン・セバスチャン・バッハから300年ほど続いたドイツ・オーストリア系音楽の黄金の歴史が、シュトラウスによって一応の終焉を迎えた、とも言えるのではないだろうか?

『ドン・ファン』『死と変容』『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』『ツァラトゥストラはかく語りき』『ドン・キホーテ』『英雄の生涯』と、「交響詩」というジャンルの頂点に立ち、『サロメ』『エレクトラ』『ばらの騎士』『ナクソス島のアリアドネ』『カプリッチョ』といったオペラの傑作も残したリヒャルト・シュトラウス。
そのいずれもが彼が亡くなって70年以上たった現在でも、世界中のオーケストラ、オペラハウスで演奏、上演され続けている。
発表された時点で”コンテンポラリー”として評価され、その後、”古典=スタンダード”として定着するということは、実はクラシック音楽の世界において難しいことのように思う。シュトラウスはその数少ない成功者だ。

専業指揮者

今では当たり前のことだが、指揮者は専業の仕事であり、作曲家と指揮者を兼ね、そしてその両方で高く評価されている芸術家は多くない。

そもそも専業指揮者の歴史は思ったほど長くない。
19世紀後半から終わりにかけて、その歴史は始まっている。

ハンス・フォン・ビューロー(1830-1894)、ハンス・リヒター(1843-1916)。このワーグナー、ブルックナー、ブラームスといった作曲家と同じ時代を生きた二人により、専業指揮者の地位は確保され、それに続いたアルトゥール・ニキシュ(1855-1922)がそれを絶対的なものとした。

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管弦楽法が大規模、そして複雑になっていく中で、作曲家にとって、自分の作品をいかに自分の思うとおりに、いや、それ以上に聴衆によく聴かせることができる解釈者=指揮者は、なくてはならない存在となった。

『交響曲第3番』
を自分で指揮して大酷評されたブルックナーにとって、『交響曲第4番』そして『第8番』を初演”してくれた”リヒター、『交響曲第7番』を初演”してくれた”ニキシュは大恩人だ。

”作曲家兼指揮者” 二人の天才

そんな中、ニキシュより少し遅れてこの世に生を受けた二人の作曲家は、例外的に指揮者としても天才的であった。

グスタフ・マーラー(1860-1910)と4歳年下のリヒャルト・シュトラウスである。

作曲家、指揮者としてお互いを尊敬し、ドイツ・オーストリアの音楽界をリードしたマーラーとシュトラウス。
マーラーはウィーン、シュトラウスはミュンヘンとベルリン。それぞれの音楽都市の頂点に君臨した。

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残念ながら、マーラーの生涯と本格的なレコード録音の歴史は交差しておらず、彼は自作も含め録音を残していない(強いて言えば、彼の弾いたピアノ・ロールがいくつか残されてはいる)。
それと比較して、シュトラウスは数多くの自作自演を78rpm、放送録音という形で残している。そしてその多くを今でも簡単に聴くことができる。
20世紀を生きた大作曲家で、これだけ自作を指揮して録音を残した人はいない。
あとはモーリス・ラヴェルの『ボレロ』自作自演の78rpmくらいだろうか・・・。

シュトラウスの指揮

シュトラウスの指揮姿は映像でも確認できるが、左手をほとんど使わず、その身振りもいたってコンパクト。一見すると面倒くさそうに指揮しているように見える。

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テンポも速めでスマートだ。
彼の作品が重厚、華麗なオーケストレーションから成り立っていることを考えると意外に思える。
がおそらく、無駄を排した指揮でその音楽の核心を突く、というのが彼の流儀だったのだろう。
彼の残したモーツァルトの録音は、それを鮮明に感じさせてくれる。

そして、そんなシュトラウスの指揮法、音楽解釈は彼の弟子、助手、そして彼を尊敬した指揮者たちに多大な影響を与えている。
大指揮者となった人を挙げただけでも、フリッツ・ライナー、フリッツ・ブッシュ、ジョージ・セル、クレメンス・クラウス、そしてカール・ベーム・・・。

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シュトラウスのカード・ゲーム好きは有名で、オペラの上演を早く終わらせてゲームに参加したいが故に、曲の途中からテンポを一気に上げた、というゴシップまである(十分、ありえる話)。

今日の【ターンテーブル動画】

極めて演奏レベルが高く、音質も聴くに値する十分なクオリティを保ったオリジナルの音盤で聴く、コンテンポラリーかつ古典ともなったリヒャルト・シュトラウスの自作自演。
彼の78rpmを聴く意義、愉しみはまさにそこに存在する。


手持ちのリヒャルト・シュトラウス自作自演78rpmから二点。
1926年9月(初演から31年後)録音の『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』
そして、同年11月(初演から37年後)録音の『死と変容』
いずれもシュトラウスが、1899年から1913年まで音楽総監督を務めたベルリン国立歌劇場のオーケストラ、ベルリン・シュターツカペレの演奏。


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